第1章12話
真夏の暑い午後。
文弥が図書館のロビーで休憩していると、当然のように心愛がやって来て彼の隣に腰かけた。
心愛の家は電車で二駅ほど遠いが、夏休み中は文弥に会いにほぼ毎日この図書館に通っていた。
「こんにちは。文弥くん」
心愛は本性とは裏腹に、清純で清らかな微笑みを浮かべている。
「こんにちは」
何の曇りなく、純粋に応える文弥。
「文弥くん。今日の服素敵ね。似合ってるわよふふ」
文弥はTシャツとワイドパンツのカジュアルなスタイルをしていた。
「ありがとうございます。ビッチ先輩も白いワンピースが似合ってますよ」
どす黒い心とは反して、白いワンピース姿の心愛。
「そ、その呼び方はやめてって言ってるよね? 心愛って呼んでくれないかな?」
頬を引きつらせて、眉をひそめる心愛。
「何でですか? ビッチ先輩?」
心愛はそもそもビッチどころか、キスの経験もゼロなのだが。
「わ、私、ビッチじゃないし」
「何言ってるんですか! ビッチ先輩は美人で凄い素敵な女性じゃないですか! ザ・ビッチ・オブ・オール・ビッチズです!」
相変わらず、文弥は心愛を過大評価していた。
「……何かあんまり嬉しくないなぁ……ふふふ……」
乾いた声を出し、張り付いた笑みを浮かべる心愛。
「でも、ビッチ先輩はいつ見ても本当に綺麗ですよね。ははっ」
純粋な瞳で、心愛を見つめる文弥。
「えっ? そ、そうかな? うふふ」
顔を真っ赤にして、無垢な瞳で文弥を見つめる心愛。
悪女を目指しているわりに、彼女は物凄くチョロかった。
「ビッチ先輩は毎日図書館に来てますよね。そんな暇なんですか?」
元も子もない言葉を叩きつける文弥。
「そ、そんなことないよ。忙しい時間を割いて文弥くんに会いに来てるんだよ」
「へー、そうなんですか。あ、でも、僕、来週はここには来ないので」
「え? そうなの?」
「はい、寝取り友達が所有する海の近くの別荘に遊びに行くので」
「海の近くの別荘に行くの? いいなぁ」
寝取り友達って何? と一瞬思ったが、心愛は別荘に遊びに行く方が気になった。
「ビッチ先輩も来ます?」
「え? いいの?」
「多分、大丈夫だと思います。寝取り友達はクズだけど意外といい人なので」
「なら、お言葉に甘えて、ご一緒させてもらおうかな。ふふ」
「寝取り友達にメッセージ送って確認しますね」
文弥はポケットからスマホを取り出すと、流れるような手つきで画面をタップする。
「うん、よろしくね」
だから、寝取り友達って何なの? と心愛は思ったが、何か触れてはいけないのではないかと口を固く結んだ。
少しすると、文弥のスマホからバイブ音がなり、一馬からの返信が届いた。
『別にいいけど ビッチ先輩って誰だ?』という一馬からのメッセージだった。
「ビッチ先輩の名前って、サノバビッチ心愛でしたっけ?」
普段からビッチ先輩としか呼んでないので、文弥は心愛の名字を完全に忘れていた。
「雨宮心愛だよ! そんな放送禁止用語みたいな名字じゃないから!」
文弥は『雨宮心愛先輩だよ』と一馬にメッセージを送るとすぐさま一馬から返信が来た。
『雨宮心愛先輩? あの雨宮先輩か?』という内容だった。
あの雨宮先輩がどの雨宮先輩なのかわからなかったが、文弥はとりあえず『ビッチの雨宮先輩だよ』と返信しといた。
すぐに返信が届いた。
『別にいいけど 大丈夫か?』。
一馬は心愛の悪い噂を聞いていたので、文弥が心配だったのだ。
何が大丈夫なのかわからなかったが、『大丈夫だよ』と文弥はメッセージを送った。
『文弥がいいなら俺はいいけど』という返信が届いた。
「オッケーみたいです。僕の寝取り友達の他に僕の彼女と女友達も来ますので」
「へー、彼女さんも来るんだ。ふふ」
寝取り友達がめくちゃくちゃ気になるんだけどと思いつつ、心愛は不敵な笑みを浮かべた。
文弥の彼女の目の前で彼を奪うチャンスが来たと、彼女は喜んでいたのだ。
その後、図書館での勉強を終えた二人は、それぞれ帰路へとついた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の夜。
文弥の元に一馬からの新作寝取られ動画が届いた。
やっと来たかと楽しみにしていた文弥は、すぐさま動画を再生する。
画面には、一馬と紬の性行為が映し出された。
「……Excellent」
文弥は思わず呟いた。
まだまだ一馬の愛撫はぎこちないが、紬の表情から少しずつ確実に感じているのが垣間見れた。
紬も一馬がすぐ果てないように、やんわりと優しく責めている。
二人の中に温かい愛のようなものがあると、文弥は感じることができた。
しかし、それが恋人同士としての愛なのか、友達同士としての愛なのか、それとも愛ではなくただお互いに依存してるだけなのか、文弥はおろか当人同士もまだわかってなかった。
「……これこそ寝取られ愛だ」
文弥の股間ははち切れんばかりに膨張し、興奮を押さえられない。
その欲望を吐き出すように、文弥は自分の股間を弄る。
「……男優も女優もなかなか良くなってきたな。ナイスですね~」
謎の声(……私は君の将来が不安でしょうがないよ)
◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日の朝。
一馬の別荘へ向かうため、文弥は紬、初音と一緒に待ち合わせの駅へと向かった。
駅ではすでに一馬が来ていた。
「おーい、こっちこっち」
文弥たちに気づき、手を振る一馬。
三人は一馬の元へと足を向けた。
「あれ? ビッチ先輩はまだ来てないのかな?」
文弥は辺りをキョロキョロと見渡した。
「ビッチ先輩って誰?」
紬が文弥に尋ねた。
「あれだろ? 昨日のメッセージで言ってた、あの雨宮心愛先輩だろ?」
文弥に代わって、一馬が答えた。
「雨宮心愛先輩?」
初音が文弥に問いかける。
「うん。知ってるの? 初音」
「……まあ、色々と噂は聞いてる」
初音は怪訝な表情を浮かべる。
「よく聞くよな。人の彼氏を奪うとかだろ?」
またもや一馬がニコニコと答える。
「え? そうなの? ビッチ先輩も寝取られ愛があるんだね! 知らなかったよ!」
「え? その雨宮先輩も一緒に行くの?」
あからさまに嫌そうな顔をする紬。
「うん。僕が誘ったんだ。まだ出会って二週間くらいだけどいい人だよ」
四人で心愛の話をしていると、当の本人が晴れやかな笑顔を見せ現れた。
「あれ? もしかして私待ちだった? 遅れちゃったかしら? ごめんなさい」
心愛が申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。
「大丈夫です。まだ待ち合わせ時間の十分前なので」
爽やかな笑みを浮かべて、文弥は心愛に微笑む。
「文弥くん以外の三人は初めましてよね? 雨宮心愛です。よろしくね」
「よろしくっす」
ヘラヘラと笑みを浮かべる一馬。
「……よろしくお願いします」
明らかに警戒している紬。
「……よ、よろしくお願い……します」
心愛の噂を耳にしていた初音も警戒心を見せる。
これから楽しい別荘へと向かうとは思えないほど、ピリピリとした凍りついた空気が漂っていた。
「みんなもビッチ先輩って呼んであげてね」
そんな空気を読めるはずもない文弥であった。
「だから、その呼び方やめてっていってるよね!」
文弥に近づくと、心愛は彼のTシャツの裾をそっと掴んだ。
「な、何やってるんですか! 文弥くんは私の彼氏ですよ!」
「あら、あなたが彼女さんなんだ? へー」
値踏みするように紬を眺める心愛。
「な、何ですか? じろじろ見て」
「意外と普通だなって思って」
「何が普通なんですか!」
「まあまあ、落ち着いてよ。紬」
紬を宥める文弥。
「で、でも、私が彼女だし……」
「大丈夫。僕の彼女は紬だけだから」
文弥は優しく紬の頭をそっと撫でる。
「……あ、ありがとう。えへ」
嬉しそうに微笑む紬。
「仲良いんだね。ふふ」
文弥を絶対に奪ってやると、怪しい微笑みを浮かべる心愛。
謎の声(実はただのポンコツのクセに)
「じゃあ、行こうか」
一馬が声をかけると、五人は新幹線の改札を抜けてホームへと歩き出した。
新幹線を降りた後、普通列車に乗り継ぎ揺られること一時間。
目的地である駅に着くと、五人はタクシー乗り場へと向かった。
都会の喧騒を忘れた、のどかな風景がとても新鮮だった。
今日からここで過ごすのかと思うと、文弥は心が洗われる気分になった。
謎の声(君の心は柔軟剤入りの洗剤でしっかりと洗った方がいいよ)
読んでくださりありがとうございます




