8. 堅物団長と、世話焼きな副団長
雑貨屋に入ると、色とりどりの小物が所狭しと並んでいた。
「わぁ……可愛い!」
リボンや髪飾り、魔石を使った小さなアクセサリーまで、見たことのないものばかりだ。
「リナさん、これなんてどうですか?」
レオくんが棚から黄色のリボンを手に取った。
「可愛い! これ、綺麗な色だね」
「ですよね! リナさんに似合うと思います!」
「ありがとう。じゃあ、これにしようかな」
私がリボンを手に取ると、隣にいたアルベルト様が少し考え込んだ。
「……これだけでいいのか?」
「え?」
「こちらにも似たものがある。あとは、あの髪飾りも……」
アルベルト様は店内を見渡すと、次々と商品を手に取っていく。
「これも似合いそうだな。こちらも……ああ、これも良い」
「だ、団長?」
「リナ。欲しいものがあれば遠慮なく言ってくれ。私も贈ろう」
「えっと……でも、そんなにたくさんは……」
「そうか?」
アルベルト様は、本気で不思議そうな顔をしている。
「女性は、贈り物をすれば喜ぶものだと聞いていたのだが」
「……誰に聞いたんですか?」
アインス様が冷静に尋ねた。
「騎士団の者に聞いた。女性に贈り物をするなら、宝石や髪飾りが良いと」
「なるほど。全く……世間知らずのおぼっちゃまが炸裂していますね」
「おぼっちゃま?」
思わず私が聞き返すと、アルベルト様が少し眉を寄せた。
「アインス。私は世間知らずではない。ちゃんと調べて知っている」
「ええ。知識はおありでしょう。受け取り方に問題があるんです。だからこそ言っているんですよ」
アインス様は呆れたように肩をすくめた。
「贈り物は、関係性や受け取りやすさもあります。女性なら宝石を贈れば喜ぶ、という単純な話ではありません」
「……そうなのか」
アルベルト様が少し困ったように私を見る。
「リナ。すまない。私は君が喜ぶものを選んだつもりだった」
「いえ! その気持ちはすごく嬉しいです」
慌てて首を横に振る。
「アルベルト様が私のために選んでくださったこと自体が嬉しいです。でも、理由もなくたくさんいただくのは困ります。」
「そうか」
アルベルト様は少し考えたあと、手にしていた商品を棚へ戻した。
「では、無理に勧めるのはやめよう」
「……え?」
「君が欲しいと思ったものがあれば、その時に教えてくれればいい」
「それはそれで、言いにくいのではないですか?同僚にこれを買ってと言うのですか?おかしくないですか?」
アインス様の的確なツッコミに、思わず笑ってしまう。
すると、レオくんが会計を済ませた先ほどのリボンを差し出した。
「じゃあ、これは俺からです!」
「わぁ!ありがとう!」
リボンを受け取ると、レオくんが嬉しそうに笑った。
「よかった!」
「……なるほど」
アルベルト様がリボンをじっと見つめている。
「団長、今度は何を考えているんです?」
「いや。私もリボンを贈ろうと思って」
「……リボンを何個も贈られると、リナも困るでしょう」
アインス様が呆れたように呟いた。
「リナ、この水色のガラスのペンとかどうですか? あなたの氷の精密操作と相まって素敵だと思います。良かったらプレゼントさせてください」
「え? いいんですか? ありがとうございます!」
「リナ、だったら私もこのガラスのペンの色違いをプレゼントしたい」
「はい?」
「団長、今、私が見せた見本を何だと思って見ていたんですか?同じペンを何個もらったとしても困るでしょう。違う物を選んでください。」
「しかし、気に入ってくれるかわからないし、また断られても寂しいじゃないか」
「リナが断ったのは気に入らないからではないです。例え気に入ったとしても金額的に高価なものは断ると思います」
「金額的に高価という境界線はどこだ?ハッキリいくら以上は受け取れないと教えてほしい」
アインス様は大きくため息を吐いた。
「そもそも、プレゼントを贈る本人の目の前でこんな話をするのはどうかと思います」
「そ、そうだな。確かに」
「リナ、この堅物で朴念仁な団長は、言われないと分からないので、欲しいものを教えてあげていただけませんか?」
「アインス、その言い草は酷いだろ」
そんな二人のやり取りを見て、私は思わず吹き出してしまった。
「リナ、何かありませんか?」
「えっと……じゃあ、このポーチを」
「……できれば、身につけるものがいいのだが」
「え? えーと……なら、そうですね。この髪飾りを」
「……いいな。似合うと思う」
アルベルト様は満足そうに、ほんの少しだけ笑った。
その笑顔にドキドキしてしまう。
(……こんなふうに嬉しそうにしてもらえると、こっちまで嬉しくなるな。)
良い職場に恵まれたな、と改めて思った。
そして、アルベルト様は髪飾りと一緒にさっき選んだポーチもプレゼントしてくれた。
「まぁ、ポーチもつけるのは、及第点といったところですね」
そう言って、やれやれ、という感じで笑うアインス様に、私はまた笑ってしまった。




