下町視察と、無自覚なやきもち
「リナさん!毎日魔法の訓練してるって聞きましたけど!疲れてませんか?!」
騎士団の廊下で私を見つけるなり、レオくんが大きな声を上げて駆け寄ってきた。
「レオくん。お疲れ様!大丈夫。元気だよ。」
「ダメですよ!根を詰めると!そういう時は美味いもん食って、パッと遊ぶのが一番です! 今日、俺、これから非番なんですよ。街にめちゃくちゃ美味い串焼きの店があるんで、一緒に行きませんか?!」
(魔法の練習を始めたばかりなのに、みんな気にかけてくれてるんだな。なんだか嬉しい。)
レオくんは親しげに私の顔を覗き込み、躊躇なく手首をそっと掴んだ。
「こら、レオ。勝手に連れ出そうとするな」
「……疲れているのだったら、ゆっくり休む方が良いのではないですか?あなたが遊びたいだけでしょう。」
廊下の向こうから歩いてきたのは、アルベルト様とアインス様だった。
二人とも、なぜかレオくんが掴んでいる私の手首を見ているような気がする。
「げっ、団長、副団長! いや、街のおいしい店に……」
「ふむ、街か」
アルベルト様は、思案を巡らせるように視線を上へを逸らした。
「……ちょうど良かった。最近、街の治安維持について、一度自分の目で巡回・視察しておく必要があると思っていたところだ。私も一緒についていこう」
「団長、同行します。リナも、昨日話した異世界の文化を知る良い機会になるでしょう。気分転換にもなりますし、公務の後にみんなで出かけてみましょうか」
「はい、良いですね」
「え?! みんなで?! 俺がリナさん誘ったのに!今日は2人で行こうと思って!」
「レオくん、せっかくだし、みんなの方が楽しいよ。美味しい串焼き、教えて?」
「えー?!団長と副団長がいたら休めなくないですか?」
「ならレオは行かなければいい」
「ひどい!行きます!俺が誘ったのに!」
◇
街の市場は、活気あふれる声と、香ばしい肉の焼ける匂いで満ちていた。
「あの屋台にある火や水は魔法を使って出す人が多いです。
火や水などの生活魔法は使える人が多いですが、魔力の強さや精密操作は人によって違いもあります。
なので、水道やコンロなど、生活に必要なものは魔道具と魔石で管理されています」
「魔法が使えるからって、全部魔法って訳ではないんですね。そういえば、ここに来てから困った事はほとんど無かったように思います」
「はい。一般的には魔道具を使用します。年齢を重ねると魔力がだんだん弱まっていきます。
子どもも魔法を上手には操作できません。感覚をつかむ訓練をしないと中々難しいのです。
だから、リナがすぐにできた事に驚いたのですよ」
(……あれ、私ちょっとすごかったのかな。初めて自覚した。)
「リナさん!あそこです!ちょっと待っててください!」
レオくんがさっと列に並んでしばらくすると焼き立ての串を四本持って帰ってきた。
「ほらリナさん! 美味しそうでしょ!? これです! 口開けて!はい、あーん!」
レオくんが買ってきた焼き立ての肉串を、私の口元に差し出す。
無邪気に「あーん」とされると、心が落ち着かない。
その時。
横からすっと大きな手が伸びて、その串を奪い去った。
「……っ、団長!?」
アルベルト様は、奪った串をバクバクと食べていた。
「……レオ。うまいな」
「団長。真っ先にあなたが食べてどうするんですか」
「団長……俺、リナさんに食べて欲しいかったのに」
そして、アインス様が私の前に回り込んだ。
彼の手に握られているのは、近くの露店で買ってきた果物のスムージーだった。
「リナ。こちらも。魔力を消耗した身体には、こちらの果糖が、良いそうですよ。……さあ、どうぞ」
「お気遣いありがとうございます。アインス様」
私が喜んで受け取ると、アインス様は少し満足そうに口元を緩めた。
その隣では、アルベルト様がキョロキョロしている。
どうしたんだろう。
「リナさん、じゃあこっち食べて!めっちゃ美味しいから!肉食べると元気になるよ!その後、次はあっちの可愛い雑貨屋さん行きましょう!」
レオくんが再び私の腕を引いて歩き出そうとした時、
「レオ。落ち着きなさい。リナが転んだらどうする」
アルベルト様が注意をした。
「大丈夫ですよ! そうなったら俺の風魔法でちょちょいと助けますんで!」
「そういう事ではないです。ゆっくり街の様子も見れないでしょう。」
レオくんはアインス様にも注意されてしゅんとしながら串焼きを渡してきた。
「リナさん、はしゃいでゴメンね。串焼き食べてほしい。」
それを受け取って、私はお肉をがぶりと食べた。
「レオくん!美味しい!ほんとに香ばしいね!オススメしてくれるのわかる!」
「ほんとに美味しいです。これは列に並ぶのもわかりますね。」
「へへ!でしょ?!ここのすげーうまいんだよ!実はさ、母ちゃんがここで働いてるんだ!」
「え?!そうなの?ご挨拶した方がいいかな。」
「混んで来たし、また今度会った時にでも声かけてよ。」
「母ちゃん!みんなうまいってさ!また来るね!」
大きな声でレオくんが手を振ると、串焼き屋さんのレオくんによく似た女性が手を振り返していた。
私たちも会釈をして手を振った。
その後雑貨屋へ向かって歩き出すと、キョロキョロしていたアルベルト様が何か閃いたような顔をして笑顔になった。
「リナ、あそこの宝石店とか見に行かないか?良かったらプレゼントさせて欲しい」
「え?宝石店ですか?ちょっとそんな高価なものは受け取れないです。ごめんなさい。」
「あ、あぁそうか。」
アルベルト様は少し残念そうにしていた。
「アルベルト様、断ってしまってごめんなさい。一緒に来られただけでも嬉しいので、そんなに気を遣わないでください」
「リナ…」
「リナさん!雑貨屋についたら今日の記念にリボンか何か贈らせて欲しいです!」
「リボン?嬉しい。レオくん。ありがとう。」
「リボンはいいのか?宝石ではなくて?」
「宝石を同僚に送る人はいません。ほんとに団長は、全然わかってないですね」
アインス様は呆れた様子でため息をついた。
「何も要らないですよ。こうして街歩きさせてもらえるだけで嬉しいです。滅多にないですもんね」
「リナが望むなら毎日でも」
「同僚と毎日街へ行く人がいますか。そんな時間もないでしょう。」
アインス様の鋭いツッコミに思わず笑ってしまう。
「アルベルト様って真面目な顔でボケるから笑ってしまいます」
「ボケるとは?真面目だが」
「トンチンカンなことを言ってると言われてますよ」
「アインス、なんか当たり強くないか?」
アインス様の辛辣な言葉に、私は思わず吹き出してしまった。
そんな二人のやり取りを聞きながら、私たちは雑貨屋へ向かって歩き始めた。
私の左右をレオくんとアルベルト様が歩き、その少し後ろをアインス様がついてくる。
なんだか、妙に近い距離にいる。
(………気のせいかな? うん、騎士団が動く時は、このくらいの距離感が普通なのかもしれない。何かあると困るもんね)
「リナさん、もうすぐですよ!」
「うん、楽しみ!」
みんなと街を見て回れるなんて、考えた事もなかった。
なんだか楽しい。
私は自然と笑顔になりながら、雑貨屋へ向かった。




