↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラウマ持ち事務員ですが、騎士団員たちの好意はきっと…勘違いです。  作者: 壬ひなた。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/53

48. 呪いの行方と、コーヒーの約束


 ひとしきり飛び回って満足した私は、団長室のソファの背に座っていた。


 背中には白い翼。身体は相変わらずウサギのままだ。


(飛べたのは楽しかったけど、結局戻れてないんだよね……)


「いやー、まさか本当に翼が生えるとはな」


 ミナトがしみじみと言う。


「しかも、めちゃくちゃ楽しそうだったし」


(ほんとそれ!)


「リナ、一旦第四部隊の方で仕事してくるよ」


「きゅ」


 返事をすると、キリアンは団長室を出ていった。


 ルディ様が机に広げた紙から顔を上げ


「さっきの反応、ちょっと気になることがあるんだ。ここを見て」


「きゅ?」


 アインス様も隣から紙を覗き込んでいる。


「……なるほど。確かに、こちらにも反応が出ていますね」


「光の魔石を取り込んだ時、リナの中に残る闇の魔力にも変化が起きてるんだよ」


「闇の魔力に?」


 ミナトが聞き返す。


「そう。最初はすごく小さかった反応が、だんだん大きくなってる」


「光の魔力が、呪いの魔力に干渉したということですね」


「うん。その結果、翼が生えた可能性が高い」


(……え?)


「でも、光の魔石を食べさせた動物は他にもいたんですよね?」


 ミナトが首を傾げる。


「うん。でも、翼が生えたのはフロリアンの愛馬だけ」


 ルディ様が紙の上に印を書き加える。


「光の魔石だけでなぜ翼が生えたのか、今まで分からなかった。でも、今回のリナの反応を見ると仮説が立てられる」


「……白馬にも、闇の魔力が残っていた可能性があるということですか?」


 アインス様が顔を上げた。


「そう。白馬も光の魔石を食べる前から闇の魔力の影響を受けていたのかもしれない」


(これ、闇の魔力と光の魔力が反応してできたの?)


 私は自分の背中を振り返った。


「それなら、リナと似た条件になりますね」


「でしょ? そりゃ魔石だけで変身しないよね」


 ルディ様は楽しそうだ。


「リナ」


 アインス様に呼ばれて顔を上げる。


「今回の反応は、解呪術式の調整にも役立ちます。呪いの状態を昨日より詳しく調べられるようになりました」


「きゅっ」


 思わず身を乗り出す。


「ですから、もう少し待っていてくださいね」


 頷くと、アインス様が微笑んだ。


「それにしても、白馬に闇の魔力か……」


 ルディ様が考え込む。


「光の魔石を食べる前、あの馬に変わったことがなかったか、フロリアンに聞いてみよう」


「それがいいでしょうね。もし以前に呪いを受けたことがあれば、手掛かりになります」


「うん。確認してくるよ」


 ルディ様はそう言うと、机に広げていた紙をまとめ始めた。


◇


 ルディ様が戻ってきたのは、昼を少し過ぎた頃だった。


 団長室にはアルベルト様とアインス様、ミナトがいて、キリアンも仕事の合間に私の様子を見に来ていた。


「フロリアンに聞いてきたよ」


 手には何枚かの紙を持っている。


「どうだった?」


 アルベルト様が尋ねた。


「以前に呪いを受けた心当たりはないそうだよ。ただ、そんな可能性があるなら確かめたいって、フロリアンも心配してた」


「そうか」


「それで、すぐに馬の状態を調べさせてくれたんだ」


 ルディ様が紙を机に広げる。


「今はすごく安定してる。闇の魔力も検出されなかった」


「では、今回の仮説は違っていたのでしょうか?」


 アインス様が尋ねる。


「そうとも限らない。当時はあっても、今は消えているかもしれないからね」


 なるほど。


 昔のことまでは、今調べても分からないのか。


「ただ、一つ気になることがあるんだ」


 ルディ様が続けた。


「今は闇の魔力がないのに、翼はそのまま残っている」


(どういうこと?)


「一度起きた身体の変化は、原因になった魔力が消えても残る場合があるのかもしれない」


「変化が定着しているということですか」


「その可能性はあるね」


 アインス様が考え込む。


「つまり、呪いを解除できても、翼まで消えるとは限らないということですね」


(え!!)


 私は顔を上げた。


「そう。だから、翼をなくすことも考えないと」


「きゅっ?!」


 思わず立ち上がる。


(えええ?! 翼だけ残るの?!)


 慌てて背中を見る。


 翼が生えて喜んでいる場合ではない。


(私、余計なことした?!)


 確かに飛ぶのは楽しかった。


 すごく楽しかった。


 でも、人間に戻っても翼が残るなんて聞いてない。


(どうしよう。仕事する時も翼があるの? 寝る時は? 服はどうするの?!)


 さっきまであんなに楽しかった翼が、急にとんでもないものに思えてきた。


「それと、もう一つ」


 ルディ様が言った。


「今はリナの身体に残っている呪いの魔力を調べながら、解呪術式を作ってる。でも、もしその魔力が消えてしまったら……」


「解呪の手がかりがなくなるってことですか?」


 ミナトが聞いた。


「そう。呪いが消えても、ウサギの姿だけが残ってしまう可能性がある」


(え? それって……)


「…………」


「……だから、急がないと手遅れになるかもしれない」



 もし、このまま戻れなかったら。


 ウサギの姿が、ずっと自分の身体になってしまうかもしれない。


 そんなこと、今まで考えたくもなかった。


 ソファの背から床へ降りた。


「リナ、落ち着いてください」


 アインス様が私の前へしゃがんで抱き上げてくれた。


「今回の実験で呪いの魔力だけでなく、翼が生えた時の反応も記録できました。この結果を基に、両方に対応できるよう術式を調整します」


 アインス様はそこで一度言葉を切り、少し声を和らげた。


「急ぐ必要はあります。ですが、呪いの魔力は今はまだ残っています。私たちが必ず何とかします。信じてください」


「きゅ……」


(……ありがとうございます)


 あの実験をしなければ、呪いに光の魔力がどう干渉するのかも分からなかった。


 翼が生えたのは予想外だったけれど、無駄ではなかった。


 アルベルト様は私の方を見ていた。目が合うと、小さく頷いてくれた。


「リナ、不安だと思う。だが、元に戻すために、できることはすべてやる。……私たちに任せてくれ」


「きゅ……」


 私はもう一度頷いた。


 アルベルト様はキリアンへ向き直った。


「白馬の件は引き続き調べるとして、今回の黒いウサギについても確認が必要だな」


「同じ場所にほかの個体がいないか調べてほしい」


「分かりました。第四で調査します。明日の朝から入りますね」


 アルベルト様が頷く。


(キリアン、またダンジョンに行くんだ)


 少し心配になって、キリアンを見る。


 すると、ちょうど目が合った。


「心配してくれてる?」


「きゅ」


 頷くと、キリアンが笑った。


「大丈夫だよ。気をつけて行ってくるから」


(……うん。気をつけてね)


◇


 その日の夕方。


 仕事を終えたキリアンが、団長室まで迎えに来た。


「じゃあ、帰ろうか」


 差し出された腕に乗ると、アインス様が声をかけた。


「今夜も、何か変化があればすぐに連れてきてください。翼の状態にも注意をお願いします」


「分かりました」


「リナも、違和感があればキリアンに伝えてくださいね」


「きゅ」


 頷くと、アインス様が少し微笑んだ。


「では、また明日。おやすみなさい」


「きゅ」


(おやすみなさい)


 返事をして、キリアンと一緒に団長室を出た。


◇


 部屋へ戻って夕食を済ませると、キリアンは明日の調査資料を机に広げた。私はその隣へ移動する。


 机には、ダンジョン周辺の地図と、いくつかの報告書が並んでいた。


 キリアンは資料を見比べ、時々地図へ印をつけている。明日調べる場所について確認しているのだろう。


 私は机の隅に座って、その様子を眺めていた。


 やがてキリアンは書類をまとめてから、コーヒーを淹れ始めた。豆を挽く音がして、今朝と同じ香りが部屋に広がる。


(……いい匂い)


 キリアンはカップを手に取ると、少し懐かしそうに笑った。


「この香り、実家にいた頃を思い出すんだよね」


「きゅ?」


「父さんたちが仕事の合間によく飲んでたからさ。オレも子どもの頃は、家の商会で働くんだろうなって思ってた」


(そうだったんだ)


 商会でお客さんの相手をするキリアンも、なんとなく想像できる。


「その頃、父さんの親友が第四部隊長をしていてね。家にもよく来てたんだ」


(そうなんだ!)


「小さい頃から魔法を見せてもらったり、教えてもらったりしてさ。オレ、それが楽しくて仕方なかったんだよ」


 キリアンが懐かしそうに笑った。


「何か一つできるようになると、今度はこれも試してみろって。騎士団の話もよくしてくれた」


(へえ……)


「オレが騎士団の話を聞きたがるから、父さんはあの人によく怒ってたんだ」


「きゅ?」


 思わず顔を上げると、キリアンは少し笑って、当時のやり取りを教えてくれた。


「『おい、やめろ。キリアンが本気になったらどうするんだ。この子は商売人に向いてるんだ。余計なことを言うな』って」


「きゅっ!!」


(あはは! お父さん!)


 面白くて前足をたたく。


「その人も、オレは騎士に向いてると思ってたみたいでさ。正式に誘われたわけじゃないけど、会うたびにちょっとずつ騎士団の話をしてくれるんだよね」


「きゅっ!!」


(それ、絶対わざとだよね?!)


 お父さんは商売人に向いていると思っていて、前第四部隊長は騎士に向いていると思っていた。


 そういえば昨日、素材を採っていた時も、キリアンは全部採ったら次がなくなると言っていた。商会の家で育ったから、そういう考え方が自然に身についているのかもしれない。


(確かに、どちらの仕事にも向いてそうだなあ)


「結局、騎士団に行きたいと思ったのはオレ自身なんだけどね」


「きゅ」


「まさか、あの人と同じ第四部隊長になるとは思ってなかったよ」


 そう言って笑うキリアンを見ていると、子どもの頃に魔法を教えてもらっていた姿が浮かんでくるようだった。


 今でも、その人のことを大切に思っているのが伝わってくる。


「商会の仕事が嫌だったわけじゃないんだ。父さんの仕事も好きだったしね」


「きゅ」


(そうなんだ)


「でも、子どもの頃、あの人と一緒にいて忘れられない出来事があってさ。あの時、オレもこんな騎士になりたいって思ったんだ」


(……何があったんだろう?)


 キリアンは少し懐かしそうに笑った。


「今でも、あの人みたいに誰かの役に立てる騎士でいたいと思ってるよ」


「きゅ」


(……そっか)


「もちろん、商会も大切だよ。いつか騎士団を離れる時が来たら、家の仕事を手伝うのもいいなって思ってる」


(そうなんだ)


 意外だった。


 私には、キリアンが騎士団にいるのが当たり前になっていた。けれど、今の仕事は憧れをきっかけに、自分で選んだ道だったのだ。


(キリアンって、やっぱり器用だなあ)


 仕事だけじゃなくて、自分の将来のことまで、無理なく考えられるところも。


 私は、もう少しキリアンの話を聞いてみたくなった。


「きゅ」


「ん? どうしたの?」


 私はキリアンの方へ向き直って、もう一度鳴いた。


「……オレの話、もっと聞きたい?」


「きゅっ!」


 思わず大きく頷く。


「そっか。嬉しいな」


 キリアンはそう言って、机に残っていた地図を重ねた。


「じゃあ、人間に戻ったら、コーヒーでも飲みながらゆっくり話そうか。その時はリナの話も聞きたいし」


「きゅ」


(うん。私も話したい)


 今朝は、コーヒーを飲ませてもらう約束をした。


 あの時は味が楽しみだったけれど、今はそれだけじゃない。


 今まで知らなかったキリアンの話を聞けたのが、嬉しかった。


 人間に戻ったら、今度は私もいろいろ話せる。


(……早く戻りたいな)


 キリアンが片づけを終えるのを眺めながら、私はその日が少し楽しみになった。


◇


 寝る時間になると、私は迷わずベッドへ飛び乗った。


「あれ。今日は聞かなくてもいい?」


 キリアンがこちらを見て笑った。


(…………)


 昨日は、同じベッドで寝てもいいのか随分悩んだのに。今日は床で一人で寝ることを、ほとんど考えていなかった。


「嫌なら別に作るけど」


 首を振ると、キリアンは昨日と同じようにベッドの端へ布を畳んでくれた。


「これでいい?」


「きゅ」


 頷いて、用意してくれた布の上へ座る。


 昨日は何をするにも緊張していたけれど、今夜はもう勝手が分かる。キリアンも私の様子を見ながら、必要な時にだけ手を貸してくれる。


 今夜は、キリアンの昔の話を聞けたのも嬉しかった。お父さんと前第四部隊長のやり取りを思い出すと、ちょっと笑ってしまう。


(どっちも、キリアンのことが可愛かったんだろうな)


「リナ、眠れそう?」


「きゅ……」


 頷こうとして、少し迷った。


 昼間はアインス様とアルベルト様の言葉に安心したけれど、やっぱり気になる。もし人間に戻れなくなったら、私はずっとこの姿のままなんだろうか。


「……昼間の話、気になってる?」


「きゅ」


 正直に頷くと、キリアンが私の身体をそっと撫でてくれた。


「そうだよね。でも明日は今日よりきっと良くなってる。大丈夫だよ」


(……うん)


 私が頷くと、キリアンも横になった。


「じゃあ、おやすみ」


「きゅ」


(おやすみ)


 私は布の上で身体を丸めた。


 しばらくすると、キリアンがこちらへ手を伸ばした。


「……もう少し近くにいてもいい?」


 顔を上げると、キリアンは私の返事を待っていた。


「きゅ」


 頷くと、キリアンは私をそっと腕の中へ抱き寄せてくれた。


 ウサギだから、こうしていられるのかもしれない。それでも、今はこの距離が落ち着く。


(……ありがとう、キリアン)


 私は身体を丸め直して、目を閉じた。


 早く人間に戻って、あのコーヒーを一緒に飲めますように。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!


ブックマークや評価も、本当にありがとうございます。とても励みになっています!


1万PV達成の感謝を込めて、活動報告に記念イラストを掲載しました。

よろしければ覗いてみてください!


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。