↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラウマ持ち事務員ですが、騎士団員たちの好意はきっと…勘違いです。  作者: 壬ひなた。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/51

47. ウサギ生活と、予想外の反応


 翌朝。


 目を覚ますと、すぐ近くにキリアンの顔があった。


「…………」


 まだ寝ている。


(近い)


 昨日はここまで近くなかった。


 いつの間に移動したんだろう。


 私はキリアンの胸の近くまで寄っていた。


(……ウサギの寝相って分かんないけど、こんなに移動するの?)


 覚えていない。


「ん……」


 キリアンが少し動き、ゆっくりと目を開けた。


 赤い瞳と目が合った。


「……おはよう、リナ」


「きゅ」


(おはよう)


「体調どう? 大丈夫?」


 頷くと、キリアンが安心したように笑った。


「夜中、苦しそうな様子もなかったよ。何回か起きて見たけど」


(何回か起きたの?)


 私は普通に寝ていたけれど、キリアンはその間にも何度か様子を確認してくれていたらしい。


 私のせいで、あまり眠れていなかったんだろうか。


(……迷惑かけてごめんね)


「どうした? お腹空いた?」


 そう言って、頭を軽く撫でられる。


 言われた途端、少し空腹を感じた。


 頷くと、キリアンが起き上がる。


「じゃあ朝ご飯にしようか。その前に、昨日の分だけ片づけるね」


「…………」


 キリアンが、部屋の隅に作ってくれていた目隠しの方へ向かう。


 昨夜使った場所だ。


(やっぱり片づけてもらうんだよね……)


 昨日ほどではないけれど、恥ずかしいものは恥ずかしい。


 入院したりした時だって、看護師さんにやってもらうことはあるし。


(うん。もう気にするのはやめよう)


 そう思いながら見ていると、キリアンが手をかざした。


 淡い魔力が広がり、目隠しの中がきれいになっていく。


(あ)


 昨日、寝る前にも使ってもらった。


(浄化魔法)


 あの時は、お風呂に入らなくてもさっぱりできるなんて便利だなと思っただけだった。


 でも、こういう使い方もできるらしい。


(……これ、自分でもできないかな)


 魔法なら、毎回誰かに片づけてもらわなくてもいい。


 そう思うと、急に覚えたくなってきた。


 キリアンは目隠しも片づけてから、こちらへ戻ってきた。


「終わったよ。朝ご飯にしようか」


「きゅ」


 昨日買ってくれた果物と水を用意してくれる。


 私が食べ終わる頃、またあの問題がやってきた。


(……トイレ)


 やっぱり言葉で伝えられないのは困る。


 どうしようかと少し動いたところで、キリアンがこちらを見た。


「トイレ?」


「…………」


(もう分かるんだ)


 頷く。


「ちょっと待ってね」


 キリアンはすぐに、さっき片づけた目隠しをもう一度部屋の隅へ作ってくれる。


「これでいい?」


 頷いて、その向こうへ入る。


 昨日は、トイレに行きたいことを伝えるだけであんなに大変だった。


 それを考えると、かなり進歩した気がする。


 用を済ませてから、私はさっきキリアンが使っていた浄化魔法を思い出した。


(……やってみたい)


 でも、やり方が分からない。


「きゅ」


「終わった?」


 目隠しの向こうから声がする。


「きゅ、きゅ」


 少しだけ顔を出す。


 キリアンがこちらへ来ようとしたので、首を振った。


「違う?」


 頷く。


 自分を前足で指してから、目隠しの中を指す。


 それから、キリアンがさっき魔法を使った時のように、前足を前へ出してみた。


「…………」


「きゅ」


 キリアンがしばらく私を見て、それから目隠しの中へ視線を向けた。


「ああ」


 分かったように笑う。


「自分でも浄化魔法をやれるか試したいってこと?」


「きゅっ!」


(よく分かったな?!)


「あはは。朝、ずっと見てたもんね」


(見られてた)


「いいよ。やってみようか」


 キリアンは目隠しの外に立ったまま、やり方を教えてくれた。


「浄化魔法って、水と風を組み合わせて汚れを浮かせて取り除く生活魔法なんだ。身体に使うのと、物に使うのとで術式が少し違うんだけど。術式を意識すると難しいから、リナは感覚でやった方が習得しやすいかも」


「一気に魔力を広げなくていいよ。きれいにしたいところを意識して、範囲を絞って少しずつ」


(範囲を絞る……)


 いつも氷を作る時も、大きく出すより、形や場所を細かく調整する方がやりやすい。


 それと似た感じだろうか。


 私は目の前の狭い範囲を意識して、少しだけ魔力を流してみた。


「…………」


 何も変わらない。


(違う?)


「どう?」


「きゅ……」


「まだ?」


 頷く。


「じゃあ、もう少しだけ狭くしてみて。広げるより、ここだけって決めた方がやりやすいと思う」


(ここだけ)


 もう一度。


 今度は余計なところへ広がらないように、必要な場所だけを意識する。


 魔力を少しずつ流して、そこで止める。


 すると、ふっと感覚が変わった。


(あ)


 目の前を見る。


 きれいになっている。


(できた!)


「きゅっ!」


「できた?」


 勢いよく目隠しの向こうから顔を出す。


 何度も頷くと、キリアンが笑った。


「見てもいい?」


「…………」


 少し考えてから頷く。


 もうきれいになっている。


 たぶん、大丈夫。


 キリアンが確認して、少し目を丸くした。


「すごい! よくできたね」


「きゅ」


「初めてでこんなに範囲をきれいに絞るの、結構難しいのに」


「…………」


(難しかったの?)


 私は言われた通りにやっただけだ。


「やっぱりリナ、細かい魔力操作が得意なんだね」


(そうなのかな)


 氷を使う時にも似たようなことを言われた気がする。


 でも今は、それより。


(これで自分で片づけられる……!)


 その方が大事だった。


 誰かに毎回お願いしなくていい。


 少なくとも、トイレの後まで誰かに世話をしてもらわなくて済む。


(よかった……)


 ウサギになってから、こんなことで安心する日が来るとは思わなかった。


「そんなに嬉しい?」


「きゅっ」


「そっか」


 キリアンは笑っただけで、それ以上は聞かなかった。


(こういうところなんだよね)


 困っていることには気づいてくれる。


 でも、こっちが恥ずかしがっていることには余計に踏み込まない。


「今日はお昼用に果物も持っていこうか。また困ったことがあったら教えてね」


「きゅ」


(キリアンって、ほんとにさらっと気遣いができるからすごい)


 キリアンは昨日買っていたパンを取り出し、コーヒーを淹れ始める。


 ポットに水を出して、魔法で湯を沸かした。


「リナ、コーヒー好き?」


 コーヒーミルで豆を挽きながら聞かれて、頷く。


「オレも好き。この豆、うちの商会のおすすめなんだよ」


(そうなんだ)


「ウサギの姿で人間と同じもの飲ませるのは怖いから、今はやめておくけど。戻ったら飲んでみる?」


 もう一度頷く。


「じゃあ、また今度ね」


 キリアンはパンを食べながらコーヒーを飲み、こちらが退屈しないように、たわいない話をしてくれた。私は頷いたり、ときどき「きゅ」と返したりしながら、それを聞いていた。


 出かける支度を終えると、キリアンに抱き上げられて一緒に騎士団本部へ向かった。


 昨日より、ずっと気持ちが楽になっていた。


 言葉を話せなくても、キリアンは私の様子を見て、何をしたいのか考えてくれる。


 分からなければ聞いてくれるし、私が答えるまで待ってくれる。


 それに、自分でできることも一つ増えた。


 まだ一日しか経っていないのに、昨日よりずっと意思疎通が楽になっていた。



◇


 団長室へ入ると、すでにアルベルト様、アインス様、ルディ様、ミナトも来ていた。


「おはようございます」


 アインス様の視線が、すぐに私へ向く。


「昨夜、変化は?」


「特にありませんでした。食事もできていますし、水も飲んでいます。夜中も苦しそうにはしていませんでした」


 キリアンが答える間も、アインス様は私の様子を確認するように見ていた。


「そうですか」


 キリアンが私を床へ降ろしてくれた。


 アインス様が私の前へしゃがみ込む。


「リナ。体調は?」


「きゅ」


 元気だと伝えるように頷く。


「痛いところや、昨日と違うところはありませんか?」


 首を振る。


「分かりました」


 頭を少し撫でられた。


 近くで見ると、目元にうっすらと疲れが見える。


(アインス様……)


 もしかして、昨日からずっと調べてくれていたんだろうか。


 机の上には何枚もの紙が広げられていて、昨日見たものより書き込みが増えている。


 仕事だってあるのに。


 岩の奥に軽い気持ちで腕を突っ込んだ昨日の自分を思い出す。


(……ほんと、何やってるんだろう)


 あの時は、噛まれたらウサギになるなんて思いもしなかった。


 でも、だからといって不用意に手を入れてよかったわけじゃない。


 もう少しちゃんと気をつければよかった。


「それで」


 ルディ様が私を見る。


「昨日の解呪ポーションが効かなかった件なんだけど」


「きゅ」


「ちょっと面白い」


(面白くないです)


「リナ、その顔やめてよ」


 分かったらしい。


 ルディ様が笑った。


「僕の読心はリナには効かないし、認識阻害も通らない。でも今回の呪いは効いた」


「闇魔法だから一律に効かない、というわけではなさそうですね」


 アインス様が続ける。


「今回の呪いは、噛み傷から直接身体へ作用しています。精神や認識へ外側から干渉する魔法とは、仕組みが違うのでしょう」


 読心も認識阻害も効かなかったから、私はてっきり、この世界の闇魔法とは相性が悪いんだと思っていた。


 でも、そう単純な話ではないらしい。


「でも、解呪する方はうまく噛み合わなかった」


 ミナトが言う。


「この前測った、俺らの魔力のずれと関係あるんですか?」


「その可能性は高いと思う」


 ルディ様が頷いた。


「ただ、昨日の結果だけではまだ足りない」


「リナの魔力のずれを考慮して、呪いの魔力を打ち消せるように解呪術式を組み直す必要があります」


 アインス様が机の上の紙へ視線を落とす。


「ただそれでも、必ず戻る保証はまだありません」


(……保証はないんだ)


 分かっていたつもりでも、はっきり言われると不安になる。


「時間がかかりそうですか?」


 キリアンが聞いた。


「そのためには、リナに残っている呪いの魔力をもっと詳しく調べる必要があります。ポーションも組み直した術式に合わせて調合し直さなければいけません。材料調達も含めると、数日かかる可能性はあります」


(数日……)


 耳が下がる。


 朝、自分で浄化魔法を使えるようになって、昨日より困ることは減った。


 キリアンも色々分かってくれるし、この姿でも何とか生活はできそうだ。


 でも、それと人間に戻れないことは別だ。


「ですが、必ず何とかしますよ。リナ、安心してください」


 こちらを見つめて、力強く言ってくれた。


(アインス様……)


 普段の業務もあるのに、大変なことになってしまった。


「オレも手伝えることがあったら言ってください」


 キリアンが言う。


「ありがとうございます。必要なことがあればお願いします」


「はい」


 それからキリアンが、私を見た。


「数日はこのままってことですね」


 ほんの少しだけ、キリアンの表情が曇った。


 昨日からずっと普通に接してくれていたから、私まで忘れそうになっていたけれど。


 キリアンだって、私がこのまま戻れないかもしれないことを心配してくれているのだ。


「リナ」


 ルディ様が突然、私を見る。


「試してみたいことが一つある」


「何をするつもりだ?」


 アルベルト様が聞く。


「フロリアンの魔石」


「……え?」


(え?)


 私とミナトが同時に反応した。


「前に話したでしょ。フロリアンの光の魔力が入った魔石を白馬が食べて、ペガサスになったって」


(言ってた)


 かなり印象に残っている。


 白馬が魔石を食べて、翼が生えた。


 あの時はそんなこともあるんだと思っただけだったけれど、今の状況でその話を持ち出されると嫌な予感しかしない。


「まさか、リナに食わせるんですか?」


 ミナトが目を丸くした。


「うん」


(うんじゃない)


「危険ではないのですか?」


 アインス様がすぐに聞いた。


「絶対に安全とは言えない」


「では駄目です」


 アインス様の声が少し低くなる。


 早い。


 私が不安になるより先に却下された。


「最後まで聞いてよ」


 ルディ様が少し困ったように笑う。


「あのペガサスの件があってから、魔術団でも色々調べたんだよ。翼が生えたり、同じように進化した個体は結局出なかったけど」


「それなら、リナに試しても意味ないんじゃないですか?」


 ミナトが言う。


「でも、何も起きなかったわけでもない」


 ルディ様が指を一本立てた。


「魔石を食べた個体の中には、その魔石に入っていた魔力を一時的に身体へ取り込んだ反応が出たものがいる」


 アインス様が黙る。


「今のリナには闇の魔力が残ってる。そこへ性質の違う魔力を少量入れて、どう反応するか見たいんだ。干渉の仕方が分かれば、解呪術式を組み直す手掛かりになるかもしれない」


「……それで、フロリアンの魔石を?」


「身体そのものが変化した唯一の例で使われた魔石だからね」


「でも、リナは人間ですよ」


「今はウサギだけど」


(そういう問題?!)


「ルディ」


 アルベルト様の低い声が飛ぶ。


「もちろん、いきなり全部食べさせたりしないよ。ごく少量。僕だってリナに何かあってほしいわけじゃないよ」


 ルディ様が私を見る。


「今までの実験では、白馬以外に身体そのものが変化した個体はいない。もちろん絶対に安全とは言えないけど、試すのはごく少量だけ。何かあればすぐに中止する。どうかな」


 少し考える。


 正直、怖い。


 昨日、岩の隙間の奥へ不用意に手を入れた結果が今の姿だ。


 また何が起こるか分からないものを身体に入れることになる。


 でも、今回は何も知らずに試すわけじゃない。


 アインス様もルディ様もいる。


 アルベルト様も、キリアンもいる。


 危険がないとは言えないけれど、最初から少量だけ試して、何かあればすぐに止めるつもりでいてくれている。


 それに、このまま何もせず数日待つよりは。


(……やってみたい)


 私は頷いた。


「リナ?」


 キリアンがこちらを見る。


「本当に?」


 もう一度頷く。


「……分かった」


 キリアンは止めなかった。


「でも、少しでも変だと思ったらすぐやめよう」


「きゅ」


「私も同席します」


 アインス様が言った。


「何か異常があれば、すぐに中止してください」


「もちろん」


 ルディ様が頷いた。


◇


 昼前。


 フロリアン様から借りたという、小さな光の魔石が届いた。


 さっき話していた通り、使うのはほんの少しだけらしい。


 ルディ様が必要な分だけ削り取った小さな欠片を、皿の上へ置く。


「これを食べればいいの?」


 ミナトが私の代わりに聞く。


「そう」


 皿を見る。


(……いや、石だよね)


 人間だったとしても噛みたいものではない。


 今の私はウサギだ。


 これをそのまま食べるのは、さすがに無理がある気がする。


「このままでは飲めませんね」


 アインス様が当然のように皿を引き寄せた。


(ですよね)


 アインス様が欠片の上へ指先をかざす。


 魔力が細く集まったかと思うと、小さな魔石がぱき、とさらに細かく割れた。


 もう一度。


 今度は砕けた粒がさらに細かくなり、最後にはほとんど粉のようになる。


(すごい)


 あれだけ小さな欠片を、周りへ飛ばさずに粉にしてしまった。


 アインス様はそれを小さな器へ移し、ほんの少しの水を加えた。


 混ぜると、魔石の粉が水の中へ広がっていく。


「これなら飲めるでしょう」


 器が私の前へ置かれる。


「リナ。今からでも嫌ならやめていいんですよ」


 アインス様が言った。


 私は器の中を見る。


 ほんの少しだけ。


 さっき説明を聞いた量だけだ。


(これで何か分かるなら)


 器へ顔を近づけて、少しだけ舐める。


「…………」


 全員がこちらを見ている。


(めちゃくちゃ見られてる)


 残っている分も舐めて、飲み込んだ。


 特に味は分からないし、身体にも、すぐには何も起こらなかった。


「どう? 何か感じる?」


 ルディ様が聞く。


(うーーん。分かりません)


 少し待ったけど変化がない。首を傾げる。


「やっぱり、何も起きないか」


 ミナトが言った、その時だった。


 身体の奥が急に熱くなった。


「きゅっ!」


「リナ?」


 キリアンがすぐに近づく。身体が淡く光り始めたのを見て、ルディ様が目を見開いた。


「待って。反応してる」


 背中がむずむずする。


(何これ)


 痛くはない。でも、背中の内側から何かに押されているような、妙な感覚が広がっていく。


 やがて、それが外へ押し出されるような感覚に変わった。


 そして、バサッと大きな羽音が鳴った。


「…………」


 アルベルト様とアインス様が黙り、ミナトは口を開けたまま固まっている。


 キリアンが私の背中を見て、何度か瞬きをした。


「……翼」


(え?)


 振り返ると、背中の左右から白い翼が伸びていた。


(え! なんで?)


「マジかよ! すげーーー!!」


 ミナトが大きな声で言った。


「すごい! 白馬と同じ反応だ! なんで?! リナ! 翼動かせる?」


 ルディ様がすごく興奮している。


 そして、ウサギのままなのに、翼まで生えてしまった。


(これ大丈夫なの?!)


 試しに動かしてみると、白い翼がぱたぱたと動く。ちゃんと自分の意思で動かせるらしい。


(でも、なんかこのまま飛べそう……)


「リナ! まさか飛ぼうとしてる?」


 キリアンが目を丸くさせて言った。


(だって、なんか飛べそうなの!)


 床を蹴って翼を羽ばたかせると、身体がふわっと浮いた。


「きゅっ!」


 手を広げてばたつかせるイメージで翼が動く。


(わ! 飛んだ!!)


「うわ! マジで飛んでる!」


 ミナトが声を上げる。


「これは魔術団のみんな驚くぞ! 何に反応したんだろう。詳しく調べないと」


 ルディ様が言った。


 もう一度羽ばたくと、今度は机より高いところまで身体が上がった。足が完全に床から離れているのに、思ったより怖くない。


(すごい! すごい! 飛んでる!)


「リナ、待って!」


 キリアンが手を伸ばす。その上を飛び越えてみようとしたら、思った以上に身体が横へ流れた。


「きゅっ」


 慌てて反対を向こうとするけれど、今度は行きすぎる。


 それに思った以上にばたつかせないと飛べない。


(あれ? 曲がるの難しい。こうかな)


「危ない」


 キリアンが下から手を伸ばしたけれど、何とか自分で立て直した。


「翼だけだと、方向変えるの難しそうだね」


 キリアンは少し考えてから、私を見上げた。


「リナ、風魔法は使えるよね?」


「きゅ」


「じゃあ、曲がる時だけ少し使ってみたら? 飛ぶためじゃなくて、身体の向きを変えるのを手伝う感じで」


(風で?そうか、補助的に使うのね)


「強くしなくていいよ。行きたい方向に、ほんの少しだけ」


 朝、浄化魔法を教えてもらった時と同じだ。


 大きく使うんじゃなくて、必要なところへ必要な分だけ。


 私はもう一度羽ばたきながら、右へ曲がりたい場所を見る。


(右……少しだけ)


 身体の横へ、ほんの少しだけ風を流す。


 すると、さっきよりずっと自然に身体の向きが変わった。


「きゅっ!」


(できた!)


「そうそう。それくらい」


 キリアンが笑う。


「やっぱりリナ、細かく調整するの上手いね」


 今度は反対側へ試してみる。翼を羽ばたかせながら風を少し使うと、さっきまでよりずっと思った通りに曲がれた。


(こっちの方が飛びやすい!)


 調子に乗ってバサバサと机の周りを一周する。


「あ、もう慣れてきた」


「……めちゃくちゃ楽しそうだな」


 ミナトが呆れたように笑った。


「さっきまであんなに戻りたそうだったのに」


(戻りたいのと飛びたいは別!!)


「リナ。楽しいのはわかるが、怪我しないようにな」


 アルベルト様が少し困ったように言った。


(はい!)


「……本当にすごく楽しそうに見えますね。上手に飛べています」


 アインス様が笑った。


(楽しいです!)


 もう一度向きを変える。今度は風もうまく使えて、きれいに曲がれた。


 部屋を何回も旋回して飛び回る。


 それを見て、キリアンが「あはは」と声を上げて笑った。


「楽しいのは分かるけど、ぶつからないようにね」


(もうちょっとだけ)


 返事の代わりに、もう一周した。


「聞いてないな」


 ミナトの声が聞こえる。


(楽しい!)


 ウサギになったのは最悪だけど、どうせウサギなら飛べる方が楽しい。


 風魔法で飛んだ時も楽しかったけど、鳥ってこんな気持ちで空を飛んでるのかなと思うと外で飛んでみたいと思って窓を見た。


「リナ。外はだめだよ。大きな猛禽類に狙われる可能性もあるからね」


(なんでわかったの!!)


 キリアンはほんとに察しがいい。びっくりした。


 それでも少し未練があって窓の外を見ると、空の高いところを大きな鳥がゆっくり旋回していた。


「…………」


(……やめとこう)


 私は素直にキリアンに感謝した。



思ったより長くなってしまって、まだ続きます。

どうしても1話にまとめることが

できませんでした(;・∀・)


おかげさまで、ついに10,000PVも超えました!

読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます。


そして、ブックマークや評価もありがとうございます!

いつも本当に励みになっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。