27.異世界市場と、増えていく献立
昼食を終えて店を出ると、午後の日差しが石畳を明るく照らしていた。通りにはまだ多くの人が行き交い、少し先からは商人の威勢のいい声が聞こえてくる。
「アルベルト様、ご馳走様でした。色々なものを注文してくださって、さらにお代まで」
「団長、ご馳走様でした!」
みんなそれぞれお礼を言うと、アルベルト様はなんてことないように微笑んだ。
「ああ。また行こう」
「じゃあ、市場に寄って買い物して帰ろうか」
キリアンが言うと、ルディ様がひらひらと手を振った。
「僕は魔術団に戻るよ。午後から少しやることがあるんだ。買い物は任せるよ」
そう言いながら数歩進み、ふと思い出したように振り返る。
「できたら呼んでね。プリンもアイスも楽しみにしてるから」
「はい。3個ずつですよね」
「うん」
しっかり覚えている私に満足したのか、ルディ様は笑って魔術団の方へ歩いていった。
「私も同行しよう。荷物が多いと困るだろう。今日はこれから休みだしな」
アルベルト様がそう言ってくれると、アインス様も眼鏡の位置を直しながら頷く。
「私も今日はこれから休みなので、ついていきましょう。人数が多い方が、1人あたりの負担も減るでしょうし」
ありがたい。何しろ、プリン20個にアイス20個。改めて考えると、かなりの量だ。
「必要なのは、卵と砂糖、それから牛乳ですね。アイス用に、香りづけのバニラとホワイトチョコ、ミントも欲しいです。パチパチする素材は、昨日採ってきたものがあります」
指折り数えていると、キリアンが少し意外そうな顔をした。
「ホワイトチョコも使うの?」
「うん。前に日本で、なんちゃってポッピングシャワーを作ったことがあるの」
本物とまったく同じ味ではなかったけれど、ミント味のアイスにホワイトチョコと、口の中で弾けるお菓子を混ぜるとかなりそれらしくなった。
今回は材料そのものが少し違うだろうから、同じようにできる保証はない。それでも、何も分からない状態で試すよりはずっといい。
「俺らが作った時、何が足りないのかすら分かんなかったもんな」
「今回は期待できそうだね」
以前一緒に再現を試みたミナトとキリアンが笑う。
こうして私たち5人は、人の流れに混じって市場へ向かった。
◇
王都の市場は、昼を過ぎても活気に満ちていた。
道の両側には赤や黄色の果物、瑞々しい葉物野菜が山のように積まれている。その隣には見たことのない香辛料が色とりどりの袋に詰められ、少し離れたところからは魚を売る店の声も聞こえた。
日本のスーパーとはまるで違う。それでも、たくさんの食材が並ぶ光景には、どこか似たわくわく感がある。
「まずは卵ですね」
アインス様が人の流れを見ながら先に進んでいく。混雑している道を避け、必要な店を順番に回れるよう、自然に道筋を考えてくれているらしい。
卵は日本で見慣れたものより少し大きく、殻も白ではなく薄茶色だった。1つ1つ藁を敷いた籠に並べられている。
「卵、20個くらいで足りますかね」
「30でいいんじゃね?」
「多くない?」
「どうせ途中で何か作りたくなるでしょ。それに落としたり、割れたりするかもしれないし」
「うーん。まあ、余ったら他のもの作ろうか」
ミナトに言われると、否定しきれない。結局、卵30個を店員さんに頼み、丁寧に箱へ詰めてもらった。
「では、おいくらですか?」
私が財布を出そうとすると、その横からアインス様が先に代金を渡した。
「え、アインス様。私が払いますよ」
「構いません。私も食べるのですから」
「でも……」
「あなた1人に、これだけの材料費を負担させるつもりもありません」
そう言われると、何も言い返せない。アインス様はそのまま箱を受け取った。
「これは私が持ちます。割れ物ですし、他のものと一緒にしない方がいいでしょう」
「ありがとうございます。あ、砂糖もありますね。砂糖は1キロあれば足りると思います」
「あとで足りないと困らねぇ? 2キロにしておけば?」
「また増やすの?」
「余ったら使えるだろ」
「うーん。じゃあ2キロで」
「それも一緒にお願いします」
アインス様が当然のように砂糖まで追加する。
「俺も少しくらい出しますよ」
ミナトが財布を出しかけたけれど、アインス様は静かに首を振った。
「あなたは店を案内してください。それで十分です」
「でも――」
「この辺りの食材に詳しいのはあなたでしょう?」
そう言われて、ミナトは少し考えてから財布を戻した。
「じゃあ、その分ちゃんと案内します」
「お願いします」
最初の買い物を終え、次はアイスの材料を探すことになった。
市場の奥へ進んでいる途中、突然ミナトが足を止める。
「リナ、ちょっとこっち」
「何?」
「たぶん好きなやつある」
連れていかれた先には、大小様々な瓶や壺が並んでいた。近づくと、少し独特な発酵した匂いがする。
ミナトが店員さんと話し、小さな匙にほんの少しだけ茶色い液体を入れてもらった。舐めてみると、強い塩気のあとに懐かしい香りが鼻へ抜ける。
「これ……醤油?」
「だろ?」
思わずもう一度舐めた。少し風味は違うけれど、どう味わっても醤油にかなり近い。
「これ、あるの!?」
「名前は全然違うけどな。俺も最初に食った時びっくりした」
その隣の壺には、さらに見覚えのある色のものが入っていた。こちらも味見させてもらうと、今度は思わずミナトを見る。
「味噌じゃん……!」
胸の奥から急に懐かしさが込み上げてきた。味噌汁に煮物、和え物。たった2つの調味料を見つけただけなのに、日本で食べていた料理が次々と頭に浮かんでくる。
味噌と醤油に近い調味料を買い、店を出ようとしたところで、ミナトがふと隣の店を見た。
「……あれ?」
「何?」
視線の先には、大きな麻袋に入った白い穀物が並んでいる。
「いや、あれ前から見たことはあったんだけどさ。麦みたいなもんだと思ってた」
近づいてみると、白い粒は細長く、日本のお米とは少し形が違う。私も1粒手に取って眺めた。
「……これ、米っぽくない?」
「だよな?」
ミナトも同じものを摘まみ、まじまじと見る。
「昨日あんだけおにぎり食いてぇって言ってたのに、なんで今まで気づかなかったんだろ」
「米だと思ってなかったなら仕方ないよ」
店員さんに聞いてみると、水と一緒に煮て食べる穀物らしい。その説明を聞いて、私とミナトは顔を見合わせた。
「……炊いてみる?」
「やる」
即答だった。
気づけば、プリンとアイスの材料を探していたはずなのに、私たちは米かもしれない穀物まで買おうとしている。
◇
改めて麻袋の中を覗き込むと、白い粒がぎっしり詰まっていた。日本のお米より少し細長いけれど、見れば見るほど米に見えてくる。
「これ、本当に米だったらどうする?」
「食う」
「それは分かってる」
「とりあえず炊く。失敗したら水加減変えてもう一回」
「大雑把だなぁ」
「何回かやれば、そのうち食えるだろ」
ミナトが当たり前のように言う。炊飯器のありがたさを、こんなところで思い知るとは思わなかった。
でも、もしこれがお米に近いものなら、味噌も醤油に近い調味料もある。それだけで十分嬉しい。
「ちゃんとまとまったら、おにぎりも作れるかな」
「それやりたい。普通のおにぎり食いたい」
「昨日も言ってたもんね」
「ああ。コンビニのおにぎり食いてぇ」
「分かる……」
昨日、飲みながら2人で恋しがった味を思い出す。ただ、この米みたいな穀物がどんな食感になるのかは、まだ分からない。
「あ。まとまったら、さっきの醤油っぽいやつ塗って焼きおにぎりもできるかも」
「それも食いたい」
ミナトが嬉しそうに笑った。
「とりあえず買ってみようぜ」
「うん。炊いてみたい」
必要な分だけ買ったところで、ミナトが隣の棚を指差した。
「そういや、これも餅に似てるんだ。白玉粉? みたいなやつ」
そこには、白い粉が袋に入れて並べられていた。店員さんに聞いてみると、水を加えて練り、小さく丸めて湯に入れて食べるのだという。
浮いてきたら食べ頃。その説明を聞き終える前から、私の頭には白い団子が浮かんでいた。
「みたらし団子作れるじゃん」
さっき買った醤油に近い調味料も砂糖もある。かなり近いものが作れそうだ。
白玉粉らしき袋を見つめていると、さらにその近くで甘く煮た豆まで売られているのが目に入った。試食させてもらうと、柔らかな豆の食感と優しい甘さが広がる。
「これ、あんこにもかなり近い……」
ふと顔を上げれば、道の向かい側には赤い苺が並んでいた。
白玉粉に、あんこに、苺。そこまで揃ってしまえば、思いつくものは1つしかない。
「苺大福作れるじゃん!」
「大福?」
キリアンが興味深そうに覗き込む。
「もちもちした生地の中に、甘く煮た豆と苺を包むの」
「美味しそうだね」
「めっちゃ美味しいよ! 大好き!」
即答すると、キリアンが楽しそうに笑った。
「じゃあ、それも買っていこうか」
「いいの?」
「ここまで嬉しそうにされると、オレも食べてみたくなるよ」
そう言って、キリアンは白い粉の袋と苺を店員さんのところへ持っていく。
「あ、ここは私が――」
「オレが食べたいって言ったんだから、ここはオレが出すよ」
そう言われてしまい、伸ばしかけた手を引っ込める。
「……じゃあ、ご馳走になります」
「うん。美味しいの期待してる」
キリアンが代金を払っている横で、ミナトが何か思いついたように声を上げた。
「あ」
「ポッピングシャワー、餅で包もうぜ」
「……え?」
「アイス大福」
「何それサイコー! 贅沢!」
「だろ!?」
想像しただけで美味しそうだ。思わずミナトと顔を見合わせる。
「それ絶対食べたい!」
「俺も!」
「いいな! なんか聞いてるだけでワクワクしてくるよ」
キリアンまで楽しそうに加わり、完全に話が広がり始めたところで、背後から静かな声がした。
「……少し整理しましょうか」
振り返ると、アインス様が買ったものを見直していた。確かに、最初の予定からかなり増えている。
「あなた達に任せていると、思いつくたびに増えていきそうですね」
「すみません……」
少し呆れられるかと思ったけれど、アインス様は困ったように小さく息を吐いただけだった。
「止めるつもりはありません。ただ、帰ってから準備、調理、実食、片付けまであります。計画を立てて進めないと、時間が足りなくなりますよ」
もっともだ。私たちは食べるところまでしか考えていなかった。
「そもそも、今日は皆さん時間は大丈夫なのですか?」
確認され、顔を見合わせる。
「私は問題ない」
「オレも大丈夫」
「俺も」
「私もです」
「私も大丈夫です。では、気になるものは必要な分だけ買ってしまいましょう」
アインス様はそう言って、今まで買ったものへ視線を戻した。
「全部今日作る必要はありません。時間を見て作れるものを決めればいい。作りすぎた分は冷蔵の魔道具に入れておけますし、日持ちする材料はまた別に回せます」
「アインス様……!」
「ただし」
嬉しくなった私を見て、眼鏡の奥の紫色の瞳が少し細くなる。
「片付けまで含めて予定を立てます。それから、帰る時間を決めましょう。1つ見つけるたびに店を増やしていては、いつまで経っても帰れません。あと必要なのは何ですか?」
「はい」
完全に正論だった。
そこで一度、作りたいものを整理する。プリン、ポッピングシャワー風アイス、みたらし団子、苺大福、それからアイス大福。
必要な材料をアインス様が頭の中で照らし合わせ、足りないものだけを買うことになった。
「では、次は本来の目的だったホワイトチョコですね」
「忘れるところだった……」
「そうではないかと思っていました」
少しだけ呆れた声に、ミナトが笑った。
◇
菓子材料を扱う店には、焼き菓子や木の実、砂糖菓子が所狭しと並んでいた。奥の棚には茶色い板状のチョコらしきものも見える。
その横で白い板状のお菓子を見つけ、1欠片だけ試食させてもらった。舌の上でゆっくり溶けるまろやかな甘みに、乳の風味も強い。
「これ、ホワイトチョコだ」
まったく同じかは分からないけれど、十分使えそうだ。必要な量を包んでもらい、菓子の香りづけに使うというバニラに近い香りの実もそこで見つけた。
その横では、ミナトが普通のチョコを眺めている。
「さっきの大福、これ入れても美味そうだな」
「……チョコ大福?」
その発想はなかったけれど、絶対に美味しい。
「1つ増えましたね」
アインス様が淡々と確認した。
「あ」
「構いません。材料はほとんど同じでしょう」
止められると思ったのに、むしろアインス様は白玉粉の袋を見ながら考え込んでいる。
「苺大福を作る途中で中身を変えればいいだけなら、それほど手間は増えませんね。アイスは先に冷やしておく必要がありますから、順番だけ考えましょう」
「アインス様、頼もしすぎる……」
「最初から計画を立てれば済む話です」
その一言で、本当に全部作れそうな気がしてきた。アインス様が管理してくれるなら、私とミナトが勢いで増やしても何とかなるかもしれない。
たぶん、それを口にしたら呆れられるので黙っておこう。
ミントを扱っている店は、キリアンが知っていた。
「こっち。薬草も一緒に売ってる店があるよ」
迷いなく先を歩くキリアンについていき、無事にミントも手に入れた。これで、今度こそアイスの材料は揃った。
◇
帰り道に魚屋の前を通った時、私は思わず足を止めた。
ずらりと並んだ魚を見た瞬間、さっき買った米や味噌、醤油に近い調味料が頭の中で一気に繋がる。日本の食卓が、急に現実味を帯びてきた。
じっと魚を見ていると、隣のミナトも同じような顔で眺めている。
「……晩ご飯も作る?」
「俺も今それ考えてた」
どうやら同郷というのは恐ろしい。考えることまで似てくる。
「焼いた魚も食べたいな」
「分かる。鮭みたいなのあったら最高なんだけど」
聞いていたキリアンが、すぐに店員さんへ声をかけた。
「煮るのに向いてる魚と、焼いて美味しい魚ってどれ?」
いくつか並べてもらい、説明を聞く。キリアンは店員さんの話を聞き終えると、2種類の魚を順番に指差した。
「煮るなら、こっちの方が身が崩れにくいって。こっちは焼くと美味しいらしいよ」
「助かる!」
焼く方の魚は鮭とは少し違うけれど、身に赤みがあって脂ものっている。これはこれで美味しそうだ。
アインス様に聞いてみると、一度今日の予定を頭の中で組み直してから、
「夕食として食べるのであれば構わないでしょう」
と、あっさり許可が出た。
「ただし、焼きおにぎりまで作るなら量は考えてくださいね」
「なんで分かったんですか?」
「先ほど口にしていたでしょう」
すっかり読まれている。
「リナ。夕食分も、私の分を作ってもらえるだろうか?」
アルベルト様が魚を見ながら尋ねる。
「もちろんです」
「私も食べてみたいので、作るならお願いします」
アインス様までそう言ってくれた。2人とも楽しんでくれているようで、なんだか嬉しい。
「はい! じゃあ、せっかくなのでルディ様の分も含めて6人分作りますね」
煮付け用と焼き魚用。どちらをどのくらい買うか相談しながら決め、店員さんに包んでもらう。
私が代金を出そうとすると、今度はアルベルト様が先に支払った。
「アルベルト様、昼食までご馳走になったのに」
「これは私が出す。夕食は私もいただくんだ」
「でも、他の材料も皆さんに払ってもらっていて……」
「なら、なおさら私だけ何も出さないわけにはいかないだろう」
真面目な顔で言われてしまい、思わず笑った。
「ありがとうございます」
「ああ。楽しみにしている」
そう言われると、作る方まで楽しみになってくる。
気づけば荷物もかなり増えていた。ミナトは米に似た穀物、アインス様は卵の箱。キリアンは白玉粉やあんこ、味噌や醤油を持ち、私はミントやバニラ、苺、チョコなど比較的軽いものを抱えている。
アルベルト様は砂糖や魚など、重いものを引き受けていた。全員、何かしら両手に持っている。
「……よし」
市場の出口が見えてきて、私は満足して頷いた。
「これで全部ですね」
「本当に?」
ミナトに聞かれ、頭の中でもう一度数える。
卵、砂糖、ホワイトチョコ、バニラ、ミント。米に似た穀物、味噌、醤油、白玉粉、あんこ、苺、魚。
「…………」
ものすごく大事なものを忘れている気がする。
最初に買うはずだったもの。
「あ」
足が止まった。
「牛乳忘れた!」
全員が黙った。
◇
慌てて牛乳屋へ戻る。
店先には銀色の大きな容器がいくつも並び、その周囲だけ少し空気が冷たかった。聞けば、牛乳を入れる容器には錆びにくい金属が使われ、内部には冷却の術式が施されて魔石がはめ込まれているらしい。
「5リットルください」
「多くない?」
「言っただろ。余っても使えるって」
ミナトは満足そうだ。
「これだけの量でしたら、小さい容器に分けますか?」
店員さんがいくつかの容器を用意してくれる。
「その方がみんなで――」
「いや」
私が言いかけたところで、アルベルト様が大きな容器を見た。
「1つにまとめてもらおう。私が持つ」
「え?」
「その方が運びやすいだろう」
「でも、アルベルト様。それ、かなり重くなりますよ?」
「問題ない」
迷いのない返事だった。
「では、こちらのお代は――」
「今日は私、何もお支払いしてないので。これは私が払います」
今度こそ、と財布を出そうとすると、またアルベルト様が先に代金を渡してしまった。
「アルベルト様」
「これだけ作ってもらうんだ。気にしなくていい」
「でも、昼食も魚もご馳走になってますし……」
「私も食べるんだから、遠慮する必要はない」
そう言って、アルベルト様はもう支払いを終えてしまっていた。
「……ありがとうございます」
「ああ」
牛乳を入れた大きな銀色の容器が差し出される。
アルベルト様は取っ手を握ると、そのまま何でもないように持ち上げた。
「……重くないんですか?」
「それなりには」
「それ、何キロくらいあるんです?」
ミナトが興味深そうに尋ねると、アルベルト様は容器を少しだけ上下させて重さを確かめた。
「6キロほどだろう」
「なんで分かるんですか?」
「鍛錬で使う重りと近い」
「そこ基準なんだ……」
ミナトが呆れたように呟く。キリアンが吹き出し、私も思わず笑ってしまった。
「台車をお貸しすることもできますよ」
店員さんが気遣ってくれたけれど、アルベルト様は首を振る。
「この程度なら大丈夫だ」
本当に大丈夫そうなのがすごい。
「さすがですね、アルベルト様!」
「……ああ。問題ない」
返事をして歩き出したアルベルト様の足取りは、来た時とまったく変わらなかった。
その横で、またミナトが妙な顔をしている。アルベルト様を見て、私を見て、今度はアインス様とキリアンまで順番に見た。
「ミナト?」
「……何でもない」
「また?」
今日、何回目だろう。問い詰めようとしたけれど、ミナトはさっさと前を向いてしまった。
まあ、いいか。
帰ったら、まずアイスを冷やす準備。その間にプリンを作って、大福は苺とあんこ、それからチョコも試したい。
夕食には魚の煮付けと味噌汁。焼き魚もあるし、お米みたいな穀物がちゃんとまとまるなら焼きおにぎりも作れる。
余った材料で卵焼きもいいかもしれない。白玉粉があるなら、ドーナツも――ポンデリングっぽいものまで作れたりしないかな。
「リナ」
「はい?」
「今、また献立増やしていませんか?」
アインス様の声に顔を上げる。
どうやら、献立を考えているだけでも顔に出るらしい。




