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トラウマ持ち事務員ですが、騎士団員たちの好意はきっと…勘違いです。  作者: 壬ひなた。


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19/20

幕間 堅物団長と、恋の疑惑


 合同集会を終えた、その日の夜。


 騎士団本部の敷地内にある団長官舎へ戻ったアルベルトは、寝台に腰掛けて小さく息を吐いた。


 最近、どうにも調子がおかしい。


 ここ最近を思い返せば、妙な行動は何度もしていた。


 リナに何かを贈りたくなったり、他の誰かが贈り物をすれば気になったり。


 団長と部下にしては、少し距離を詰めすぎていたのかもしれない。


 そう思ってからは、少し意識して距離を取るようにしていた。


 だが――そうすると今度は、他の団員とリナの距離が妙に目につく。


 レオは相変わらず近い。


 リナも特に嫌がってはいない。


(あれくらいが普通なのか?)


 なら自分も――と思いかけて、やめた。


 部下同士と団長では立場が違う。


 オスカーに関しては、リナが露骨に嫌がっているので心配はしていない。


 ただし、会議中まで何度もウインクを送ろうとするのは別だ。


 そのたびに小さな電撃を飛ばしたというのに。


「……あいつは学習しないのか」


 アルベルトは眉間を押さえた。


 ルディのことも、少し気になっている。


 あいつは昔から、自分に近づこうとする女性には妙に警戒するところがあった。


 本人なりに兄を心配しているのだろうが、時々やりすぎる。


 だが、リナは違う。


 彼女の方から、自分に近づいてきたわけではない。


 それなのに、初めて会った時からルディはリナを探るように見ていた。


(……俺の態度が、そう見えたのか?)


 考えてみたものの、よく分からない。


 そして、キリアン。


 リナと二人でダンジョンへ行くという話が、どうにも引っかかっている。


 キリアンの実力は信頼している。


 仕事にも慎重な男だ。


 アインスの言う通り、あれだけ興味を持っている以上、いつまでも止めておけるとも思えない。


 だから、自衛できるだけの力を身につけることを条件に許可した。


 何も問題はない。


 ――そのはずなのに。


(……随分、仲良くなるのが早いな)


 本当なら、自分も同行したかった。


 そこまで考えて、アルベルトは眉を寄せた。


(なぜ俺が行きたいんだ?)


 分からない。


 そもそも、皆がリナを可愛がる理由は分かっている。


 真面目で、よく働く。


 分からないことは素直に尋ね、教えられればきちんと礼を言う。


 相手の立場を気遣いながらも、身分によって態度を大きく変えることもない。


 何より、突然まったく知らない世界へ放り出されたというのに、不平を並べるより先に、自分にできることを探していた。


 放っておけなくなるのも、分からなくはない。


 自分も、その一人なのだと思っていた。


 ただ――。


(……それだけか?)


 アルベルトは小さく息を吐いた。


 昔から、公私を分けることには気をつけてきた。


 部下にはできるだけ公平に接する。


 働いた者は評価し、休息が必要なら休ませる。


 家庭がある者には、できる限り家族と過ごす時間も確保する。


 それが上に立つ者の役目だと思っている。


 リナも同じだ。


 異なる世界から来たからといって、特別扱いするつもりはなかった。


 ――そのはずだった。


 だが、実際はどうだ。


 誰かが何かを贈れば気になる。


 危険な場所へ行くと聞けば止めたくなる。


 他の男と親しそうにしていれば、目につく。


(……公平、とは言い難いな)


 今日も父から、また見合いの話を持ち出された。


 そろそろ真剣に考えろ、と。


 結婚そのものが嫌なわけではない。


 両親のような夫婦になれればいいとは思っている。


 だが、これまで勧められた見合い相手の誰かと、そんな生活を送る姿は想像できなかった。


(結婚するなら……)


 一緒にいて気を遣わず。


 仕事を理解してくれて。


 よく笑う女性がいい。


 そこまで考えたところで、一人の顔が浮かんだ。


 リナなら――。


 いや。


 アルベルトはそこで思考を止めた。


 彼女は元の世界へ帰る方法を探している。


 自分も、それに協力すると約束した。


 それに団長と部下で、身分も違う。


(……俺は、リナが好きなのか?)


 分からない。


 これまで、誰かに対してこんなことを考えたことはなかった。


 だから余計に、判断がつかない。


「……疲れているのかもしれないな」


 アルベルトは立ち上がった。


 こんな時は鍛錬するに限る。


 剣ならば、振った分だけ結果が返ってくる。


 少なくとも、今考えていることよりはずっと分かりやすい。


 今日は、どうにも調子の悪い日だ。


 ただ、そんな日だ。

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