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トラウマ持ち事務員ですが、騎士団員たちの好意はきっと…勘違いです。  作者: 壬ひなた。


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16/20

騎士の会議と、家族の顔

昨日投稿した第15話で、ガルドの髪色を「黒」と書いていましたが、正しくは「深紺」です。

現在は修正しています。

初登場なのにすみません。


 全体集会が終わり、少しの休憩を挟んだ後。


 私はアルベルト様たちと一緒に、隊長や副隊長が集まる会議室へ移動した。


「……私も入っていいんですか?」


「ああ。議事録を頼みたい」


「議事録……!」


 仕事だ。


 さっきまでの緊張とは違う意味で、少し気合いが入る。


 会議室へ入ると、大きな長机の上には人数分の資料と、見慣れない筆記具が置かれていた。


「これ、何ですか?」


 一本手に取ってみる。


 羽根ペンに似ているけれど、持ち手の部分に小さな魔石が嵌め込まれている。


「記録用の魔道具ですよ。魔力を流しておけば、会議中の発言を自動で書き留めてくれます」


「えっ! すごい! じゃあ、私が全部書かなくてもいいんですか?」


「発言をそのまま記録するだけです。会議終了後、決定事項、担当部隊、期限、保留事項などを整理して、正式な議事録にしてください」


「あ、なるほど」


 そんなに甘くなかった。


 やがて全員が席につき、会議が始まった。


 アルベルト様を中心に、各部隊から先ほどの全体集会で報告された案件について、さらに詳しい情報が上げられていく。


 第一部隊からは討伐や遠征の状況。


 第二部隊からは魔法や魔道具に関する報告。


 第三部隊からは王都周辺の治安状況。


 第四部隊からは各地の魔物の目撃情報や、周辺地域の動向。

 

 私は自動で動く筆記具を横目で見ながら、決定事項を別の紙に書き留めていく。


 会議中のアルベルト様は、いつも以上に真剣だった。


 報告を聞き、必要なところだけ質問を挟み、その場で次の対応を決めていく。


 ガルドさんも、さっきエレナさんに怒られていた人とは思えないほど真面目だ。


 キリアンさんも穏やかな口調は変わらないけれど、各地から集めた情報を次々と報告している。


 みんな、本当に騎士なんだな。


 そんなことを考えながら顔を上げると――。


 オスカーさんと目が合った。


 オスカーさんが、にっと笑う。


 そして、私に向かってウインクした。


「…………」


 バチッ!


「っ……!」


 オスカーさんの身体が一瞬跳ねた。


「オスカー。西部の報告を続けろ」


「……はい、団長」


 アルベルト様の声に、隣を見る。


 何事もなかったかのように資料を見ている。


 オスカーさんも何事もなかったように報告を再開した。


(……今の、絶対アルベルト様だ)


 雷魔法でお仕置きするって言ってたけど。


 本当にやった。


 しばらくして、またオスカーさんと目が合った。


 オスカーさんが笑う。


 そして、もう一度ウインクしようとして――。


 パチッ。


「…………」


 オスカーさんの身体がまた一瞬跳ねた。


 そのまま何事もなかったように資料へ視線を落とす。


 それから何度も視界の端でオスカーさんが跳ねるような様子があった。





「……ケツいてぇ……」


 会議が終わり、席を立ったオスカーさんが小さく呟いた。



「でも! 会議も終わったし! リナちゃん、この後あっちの部屋でお茶でも飲もうぜ」


 にっと笑われる。


 バチッ!


「いってぇ!」


「オスカー」


「すみません団長!」


「学習能力がないんですか、あなたは」


 アインス様が呆れたように眼鏡を押し上げる。


 少し離れたところでは、ガルドさんが腹を抱えて笑っていた。


「はっはっは! お前、会議中ずっとそれ食らってたんだな!」


「笑い事じゃないですよ!」


「自業自得でしょう。学習してください」


 エレナさん、強い。



 その日の夕方。


 全体集会を終えた騎士たちの慰労を兼ねて、騎士団内でささやかな食事会が開かれた。


 昼間の整然とした雰囲気とは違い、あちこちから楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


 料理を眺めていると、隣から声をかけられた。


「リナさん、今日はお疲れさま」


「あ、キリアンさん。お疲れさまでした!」


「初めての全体集会だったのに、会議の議事録まで任されて、大変だったでしょう」


「でも、あの魔道具すごいですね! ちょっと欲しくなりました」


「あれ、便利だよね。似たようなものなら他にもあるよ。以前話した日本人の知識を参考にした魔道具もいくつかある」


「えっ! 見たいです!」


「今度、時間がある時に見せてあげるよ」


「約束ですよ!」


 キリアンさんと話していると、気になることがどんどん増えていく。


 いつか、日本人にも会えたらいいな。


 しばらく話していると、キリアンさんが第四部隊の人に呼ばれた。


「じゃあ、また」


「はい!」


 キリアンさんを見送って、さて、どこに座ろうかと辺りを見回す。


「リナさん、こちら空いていますよ」


「ありがとうございます!」


 声をかけてくれたエレナさんの隣へ座る。


「今日は疲れたでしょう? 初めてあれだけの騎士に囲まれたら、緊張もしますよね」


「ちょっとだけ……。でも、皆さんが普段どういうお仕事をしてるのか見られて面白かったです」


「それなら良かった。騎士団は男性が多いですから、何か困ったことがあったら私に言ってくださいね。団長やアインス副団長には相談しにくいこともあるでしょう?」


「心強いです!」


 異世界に来てから、騎士団では男性と話すことが多かった。


 だから、こうして話せる女性がいるのは嬉しい。


 少し離れたところから、ガルドさんの大きな笑い声が響いた。


「……ガルドさん、楽しそうですね」


「いつもあんな感じですよ。毎日よくあれだけ大きな声が出るものだと思います」


 エレナさんがため息をつく。


 でも、その表情はどこか優しい。


「ガルドさんとは、騎士団で知り合ったんですか?」


「ええ。主人の方が先に入団していて、私が第三部隊に配属されてからの付き合いです。最初は、なんて大雑把で無神経な人なんだろうと思いましたけど」


「…………」


 今日会ったばかりなのに、なんとなく分かる。


「怪我をしても平気だと言い張るし、困っている人を見ると後先考えずに飛び出していくし。何度止めたか分かりません」


「エレナさん、大変そう……」


「ふふ。でも、誰も見ていなくても同じことをする人なんです。誰かが傷つくくらいなら、自分が前に出る。そういうところは昔から変わりません」


 そう言って、ガルドさんを見るエレナさんの横顔は、少しだけ柔らかかった。


「……そこが好きだったんですね」


「あら。どうでしょうね」


 と、エレナさんが笑う。


「エレナー! これうまいぞー!」


 向こうからガルドさんの大声が飛んできた。


「お前も食えって!」


「後で食べます!」


 エレナさんがため息をついた。


「ほらね? ……声、大きいんです」


 思わず笑ってしまう。


「でも、仲良しですよね」


「おかげさまで」


 その言い方がなんだか可愛かった。


「そういえば、お子さんもいらっしゃるんですか?」


「十歳と七歳の子がいます。両親にもずいぶん助けてもらっています」


「お二人いるんですね!」


「はい。大変です。でも、団長が勤務を調整してくださっています。私は基本的に日中の勤務で、主人は夜間警備も担当しています」


「アルベルト様が、そこまで?」


「月に二度は二人の休みまで合わせてくださいます。『家族で過ごす日も必要だろう』って」


 私は少し離れたところにいるアルベルト様を見る。


 さっきまでオスカーさんを雷魔法で攻撃していた人と同一人物とは思えない。


「……アルベルト様らしいですね」


「団長は、部下のことをよく見ていますから」


 エレナさんがそう言って笑った。


 なんだか少し、嬉しくなった。


「リナさん、今度お休みが合ったら一緒に街へ行きませんか?」


「行きたいです!」


「では約束ですね。私も久しぶりにゆっくり買い物がしたかったんです」


 女性と一緒に街へ出かける約束ができた。


 それだけのことなのに、なんだか嬉しい。



 慰労会もそろそろ終わる頃。


「リナ」


 アルベルト様が声をかけてきた。


「明日も朝から合同集会だ。今日は早めに休んだ方がいい」


「明日は近衛騎士団と王国魔術団も来るんですよね。今日より人が増えると思うと、また緊張してきました……」


「今日も問題なかったでしょう。明日も大丈夫ですよ。ただ、明日は総督も出席されますが」


「……総督?」


「王国騎士団、近衛騎士団、王国魔術団。その三組織を統括している方です」


「そんな偉い人まで来るんですか?!」


 聞かなきゃよかった。


 余計に緊張してきた。


「心配するな。そこまで堅苦しい人間ではない」


「そうなんですか?」


「総督は、団長のお父上ですよ」


「…………」


 アルベルト様を見る。


「アルベルト様のお父様?!」


「ああ」


 明日の合同集会。


 今日以上に緊張することだけは、間違いなさそうだった。


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