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トラウマ持ち事務員ですが、騎士団員たちの好意はきっと…勘違いです。  作者: 壬ひなた。


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王国魔術師と、甘いお菓子

 

散らばった書類を拾い集めていると、アルベルト様がルディ様に声をかけた。


「ルディ。お前も手伝え」


「えー? 僕、何もしてないのに」


「お前が余計なことをしたせいで散らかったんだ。手伝うのは当然だろう」


「風を起こしたのは兄様じゃん」


「原因を作ったのはお前だ」


「それは違うと思うけどなぁ」


 そう言いながらも、ルディ様は文句を言いつつ書類を拾い始めた。


「リナはこっちを頼む」


「はい」


 三人で散らばった書類を拾い、種類ごとに仕分けていく。


 ルディ様は文句を言いながらも、意外と手際がいい。


「これ、どこ?」


「その束は決裁済みだ。右側に置いてくれ」


「了解」


 そんなやり取りをしていると、再び扉が開いた。


「戻りました」


「あ、アインス様」


 外に出ていたらしいアインス様が、団長室へ戻ってきた。


「何かあったのですか?」


「ルディが来た」


 アルベルト様が短く答える。


「なるほど」


 アインス様はルディ様を見ると、少しだけ目を細めた。


「……また何か余計なことをしたのですか?」


「またって何?」


「あなたの場合、何もしていない方が珍しいでしょう」


「ひどいなぁ」


 ルディ様が笑う。


 最後の書類を仕分け終えると、アルベルト様が小さく息を吐いた。


「これで終わりだな」


「疲れたー」


「お前はほとんど文句を言っていただけだろう」


「ちゃんと働いたよ」


 私は二人のやり取りに、思わず笑ってしまった。


 ふと、机の端に置かれているものが目に入る。


「あれ?」


 書類が飛ばないように置かれていた、透明な石。


 光を受けると、内部で淡い光が揺らめいている。


「綺麗な石ですね」


「ああ。これは魔石だ」


「え? これが魔石なんですか?」


 思わず身を乗り出す。


「初めて見ました」


「寮では使っているだろう?」


「はい。でも、寮の魔道具は寮母さんが管理してくださっているので……」


「ああ、なるほど」


 私は改めて魔石を眺めた。


 魔法のある世界に来てから、魔石という言葉は何度も聞いていた。


 けれど、実物を見るのは初めてだった。


「こういうものも、魔術団で研究されているんですか?」


「そうだね。魔石を専門に研究している人もいるよ」


「へぇ……。ルディ様は、魔術団にお勤めなんですよね? どんなところなんですか?」


「簡単に言えば、魔術を研究するところだよ」


 ルディ様は椅子に腰掛けながら答える。


「新しい術式を作ったり、既存の術式を改良したり、魔道具を開発したり。いろんな分野の研究をしてるよ」


「そうなんですね。」


「国の魔術に関する研究機関、と考えてもらえばいいでしょう」


 アインス様が補足する。


「様々な分野の研究者がいます。術式理論、魔道具、魔石、魔術の効率化など、それぞれ専門が違うんですよ」


「そんなにたくさん……」


「ええ」


 アインス様が頷く。


「私も以前は魔術団に所属していました」


「えっ?!そうなんですか?」


 思わずアインス様を見る。


「はい。私は主に術式理論を研究していました」


「じゃあ、どうして今は騎士団に?」


 アインス様が一瞬、アルベルト様を見る。


 アルベルト様が苦笑した。


「私が引き抜いた。騎士団にも魔術師は必要だからな」


「特に魔道具や術式に関する知識は、騎士団でも必要になる。遠征先で使う魔道具の調整や、新しい装備の開発、魔法の効率化など……専門家が一人いるだけで随分違う」


「なるほど」


「それに」


 アインス様が穏やかに笑った。


「研究室だけでは分からないこともあります。実際に魔術が使われる現場にいた方が、研究の役に立つことも多いんですよ」


「現場……」


 魔法を理論に落とし込み、それを実際に使える形にする。


 アインス様が教えてくれる話は、聞けば聞くほど面白かった。


「……だからアインス様は、あんなに術式に詳しいんですね」


「へぇ」


 ルディ様が興味深そうにアインス様を見る。


「じゃあ、なんかあったら色々教わっちゃお!」


「あなたの場合、まず自分で調べてからにしてください」


「えー」


 魔術の話になると、二人とも普段よりずっと饒舌になる。


 私はそんな二人を眺めながら、ふと疑問に思った。


「そういえば、魔術団と騎士団って、普段から交流があるんですか?」


「ありますよ」


 アインス様が答える。


「騎士団が使う魔道具を魔術団が開発することもありますし、研究だけでは試せない術式を、騎士団が実地で試すこともあります」


「なるほど……」


 だからルディ様も、ここへ来ることがあるのか。


 私は納得した。


 そのとき、机の端に置いていた菓子箱に目が留まった。


「あ、そうだ」


 私は箱を開いた。


「よかったら、皆さんもどうぞ。レオくんが買ってきてくれたんです」


「へぇ」


 ルディ様が箱を見る。


 けれど、手を伸ばそうとはしない。


「あれ? 食べないんですか?」


「……悪いけど、親しくない人から食べ物をもらうのは、ちょっとね」


「え?」


「何が入ってるかわからないから」


「え?」


 思わず目を瞬く。


「こら、ルディ。リナが何か入れるわけないだろう」


 アルベルト様が呆れたように言う。


「ルディは昔から警戒心が高いんだ」


「別に欲しくないわけじゃないよ」


 ルディ様は菓子を見つめた。


 ほんの少しだけ、名残惜しそうに。


 それを見たアインス様が言った。


「ルディが食べないのでしたら、私がいただいても?」


「私ももらって良いか? さっきから書類仕事が続いていて甘いものが食べたい」


「お茶、入れますね。ルディ様は? 飲まれますか?」


「…………」


 私は少し考えてから、もう一押ししてみる。


「それ、なかなか手に入らないものらしいですよ。レオくんがツテを使って買ってきてくれて。私も楽しみだったんです」


「……」


 ルディ様が菓子箱を見る。


「……ちょっと食べたい」


「ふふ。どうぞ」


 私が差し出すと、ルディ様は一つだけ摘まんだ。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 ぱくり、と口に入れる。


「……うん」


 ルディ様は満足そうに目を細めた。


「あと三つもらっていい?」


 その様子を見ていたアルベルト様が、呆れたように息を吐く。


「ルディ。あまり食べすぎるなよ。リナの分が少なくなるだろ」


「一つ食べたら、もう少し欲しくなってね」


 悪びれた様子もなく、ルディ様は二つ目の菓子を摘まんだ。


 私は思わず笑ってしまった。


「……あの、そういえば」


「何だ?」


「私、ずっとルディ様のこと『ルディ様』って呼んでしまいましたが……」


「うん?」


「正式なお名前は?」


「ああ。ルドルフだよ」


 ルディ様が頷く。


「でも兄様もアインスもルディって呼ぶし。別にそのままでいいよ」


「そうですか?」


「うん」


 ルディ様はそう答えると、三つ目の菓子を取った。


「……もしかして研究対象になるかもしれないし」


「え?」


「ううん、なんでもない」


 ルディ様はそう言って、また菓子を一つ摘まんだ。


 その横顔は、どこか楽しそうだった。


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