悪の組織 株式会社ミアズマ
新宿の高層ビル群。その一角にある洗練されたオフィスの最上階、社長室。
窓の外の夜景を眺めながら、怪人のリコが不満げにスマートフォンをいじっていた。
「えー、マジで明日も出勤しなきゃダメなの? 私、有給あと3日残ってるんだけど。これ以上持ち越せないし、消えちゃうの超ウケるんだけどヤバくない?」
セーラー服の裾を極端に短くした挑発的な格好のまま、リコはデスクに突っ伏した。
その向かい側で、完璧なスーツ姿のイケメン――クロウが冷ややかな視線を向ける。
「リコ、言葉を慎め。それに、有給は計画的に消化しろと人事部からも通達が出ているはずだ。お前の自己管理能力が低いだけだろう」
「は? なにマジになってんのクロウくん。てか、お前こそ先週の土曜日、休日出勤手当がつかないからって勝手にリモートワーク切り上げてたじゃん。社畜すぎでウケるんですけどー」
「……あれは残業申請のシステムトラブルで……!」
「そこまでだ、二人とも」
穏やかな声と共に、デスクから優雅に立ち上がったのは、見事なロマンスグレーの髪に渋い笑みを浮かべた社長の神崎零だった。
「リコ、有給の件だが……確かにこのままだと我が社の『有給取得率100%目標』に響くね。明日の悪事遂行は午前中で効率よく終わらせて、午後は半休扱いにしよう」
「マジ!? 社長優しすぎ! 私、次のボーナス絶対社長へのプレゼントに全ツッパする♡」
「おい。給料は自分のために使え。それに、部下から上司への過度な贈答は社内のコンプライアンス規定違反だ」
「うるさいなぁ、クロウくんは万年ヒラなんだから私の自由でしょー」
零は苦笑しながら、手元のタブレットに視線を落とした。
かつての父の代の「暴力と恐怖による支配」という昭和のやり方から脱却し、現代的な企業経営へと舵を切って久しい。
ミアズマの目的はもはや無意味な破壊活動ではなく、ネットの炎上煽動や巧妙な脱税、人と人の分断工作といった「現代の社会悪」のビジネス展開だ。そして何より、零の胸中には創業者である父の教えが深く刻まれていた。
――『いいか、零。どんなに仕事で悪事を働こうとも、心まで悪に染まるな。社員を家族のように大切にしろ』
「クロウも、いつも真面目に任務をこなしてくれてありがとう。今月の残業時間も労務基準の範囲内だし、今週末はしっかり連休を取りなさい。心身の健康第一でいこう」
「はっ……! 社長のお言葉、身に染みます。我が社と社長に、永遠の忠誠を……!」
零の神がかった人徳と完璧な福利厚生(完全週休二日制、各種手当完備)により、社員たちはこのブラックな世の中で、絶対的な愛社精神を捧げていた。
そこに、社長室の扉が重々しく開き、一人の老人が入ってきた。
「おっ、若いの揃って会議か」
かつて幾多のヒーローたちと死闘を繰り広げた伝説のスーパーイケジジ、会長の神崎轟だった。全身の古傷が彼の圧倒的な威圧感を物語っている。
「父さん、お疲れ様です」
「うむ。……ところで零、最近の若手はコンプライアンスばかり気にしておらぬか? あの赤き戦士どもに、そろそろわしらの『本気』を見せつけてやらねばならんぞ」
「ふっ、ご安心ください、会長。我が社の社員たちは、常に英気を養っていますからね」
零が不敵に笑うと、リコは「ねえ会長、明日のお仕事終わったら、私と社長を二人きりで有給デートさせてくださいよー!」と甘えて飛びつき、クロウは「会長、リコをこれ以上調子に乗らせると業務に支障が……!」と慌ててそれを引き剥がそうとする。
悪の組織でありながら、抜群のチームワークと厚い福利厚生を誇る株式会社ミアズマ。
彼らが本気でホワイトに悪事を働く時、世界と、そしてあのピュアすぎるピンクとビビリのレッドと、中身ドヤンキーのブルーに、どんな災難が降りかかるのか――。
「さあ、明日は全社一斉の『悪事遂行デー』だ。時間外労働は禁止だからね、定時でスマートに世界を狂わせよう」
「「「了解です、社長!」」」
夜の新宿の高層ビルに、悪の企業のホワイトすぎる笑い声が響き渡るのだった。
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