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〜顔面国宝の引きこもりとナンバーワンホストと女子高生が悪のホワイト企業と戦うそうです〜  作者: 虹の箸


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ブルー大ピンチ

ふーっ……と、紫煙が夜の闇に溶けていく。

新宿・歌舞伎町。ホストクラブの裏路地にある薄暗いバックヤードで、青島ジンは壁に背を預け、静かにタバコの煙を吐き出していた。

(……ま、しょうがねえか)

ジンの脳裏に浮かぶのは、彼が店に入った当初から可愛がっていた後輩の顔だ。

ホスト業界において先輩の客を取ること(ばくだん)することは、最大最悪のタブーとされている。だが、その後輩はジンの太客を奪った。

怒りや裏切られた悲しみが無いわけではない。しかし、ジンは根が優しすぎた。後輩が多額の借金を抱え、追い詰められていた事情を知っていたため、この件を支配人にチクることはしなかった。

結果として、ジンは今月の売上を大きく落とし、不動の『No.1』の座から転落してしまったのだ。

「……柄じゃねえな、落ち込むなんて」

ジンは自嘲気味に笑い、タバコを携帯灰皿に押し込むと、夕方のネオンが灯り始めた街へと歩き出した。

 ◇ ◇ ◇

少し足取りを重くして店に向かって歩いていたジンは、大通りの交差点で、見覚えのある地味なパーカー姿を見つけた。

(おっ、湊じゃん)

いつもの調子で「よお!」と背中を叩いてやろうとしたジンの足が、ピタリと止まる。

湊の隣で、可愛らしい、というか恐ろしく整った顔立ちの黒髪の女子高生が彼を呼び止めていたからだ。

「おやぁ?」

ジンはニヤニヤしながら二人に近づいた。

「よっ、湊! 彼女? 邪魔して悪かったな」

「えっ、あ、青島さん!? い、いや、彼女っていうか……その、仲間です。青島さんと同じですよ」

湊が慌ててそう紹介すると、女子高生――桃井凛は、ジンの方を向き、微かに警戒するような目を向けながらも「……桃井です」とペコリと一礼した。

精霊戦士の仲間。つまり、彼女があのピンクか。自分についている精霊『ラピス』から、ミアズマから寝返ったなんかちょっとヤバいけど強い仲間ピンクが増えたとは聞いていた。

「へえ、あんたがピンクちゃんか。よろしくな! ……あ、そういえば湊、こないだ会った時、連絡先交換してなかったじゃん。LINE交換しようぜ」

「あ、うん。そうだね」

「おう! ……お、ピンクちゃんも交換する?」

ジンが軽いノリでスマホを向けると、凛は氷点下の視線でジンを一瞥し、言い放った。

「あなたのようなチャラチャラした人とは、そんなことしません」

「ぶっ!」

湊が横で冷や汗を流して慌てていたが、ジンはホストの職業柄、女性の冷たい態度など日常茶飯事である。そんなことで凹むようなタマではない。

「あはは、ガード固てえな! そっかそっか、まーなんかあったら店に連絡してよ」

ジンは全く気にする素振りも見せず、ウィンクと共に自分の源氏名が書かれた名刺を凛に押し付けると、そのままひらひらと手を振って夜の街へと消えていった。

 ◇ ◇ ◇

それから、数日後の放課後。

(……外せ……ッ)

マクドナルドの向かいの席で、凛は湊の顔をじっと見つめながら、凄まじい念を飛ばしていた。

(メガネを……外せ……! 今すぐその忌々しい黒縁を外して私に素顔を見せろ……ッ!!)

彼女の頭の中は、あの日見た湊の素顔でいっぱいであった。しかし、自分から「メガネを外して」とは恥ずかしくて言えない。そこで念動力が発現して、メガネが外れないかと本気で試みているところだった。

「……ん?」

ふと、湊がスマホの画面を見て顔色を変えた。

「どうしたの、湊くん?」

「あ、青島さんが……ブルーが大変だ! 助けに行かなきゃ!」

湊の言葉に、凛は首を傾げた。

「青島さんが? どうして湊くんがそんなこと知ってるの?」

「さっき、青島さんからLINEが来たんだ。……『後輩にハメられた。店の金盗んだことにされて拉致られてる』って短いメッセージと、現在地の位置情報ピンだけが送られてきて。それから何度電話しても繋がらないんだよ!」

湊の説明によると、事態は深刻だった。

客を横取りしたあの後輩が、さらに悪質な罠を仕掛けたらしい。店の売上金を盗んだ罪を全てジンに被せ、彼を裏社会の連中に引き渡したのだという。

送られてきた位置情報は、歌舞伎町のはずれにある廃ビルを指していた。

「いくら青島さんが強くても、相手は本職のヤクザみたいだし、変身してない生身の状態じゃ多勢に無勢だ……! 頼む、桃井さん! 力、貸してくれないかな!?」

湊が必死の形相で頭を下げる。

その瞬間、凛の脳内で凄まじい速さで計算式が弾き出された。

(湊くんと一緒に青島を助けに行く)

 ↓

(敵がいっぱいいる)

 ↓

(戦闘になるから、当然、湊くんは変身する)

 ↓

(変身するということは……メガネを外すッ!!!)

「……いいよ」

凛は、0.1秒の迷いもなく力強く頷いた。

仲間のピンチへの義憤でも、正義感でもない。ただ『愛しのメガネ無しフェイス』を拝むためなら、ヤクザの事務所だろうが火の中だろうが突っ込む覚悟が彼女にはあった。

「ありがとう、桃井さん! すぐに向かおう!」

「ええ、急ぎましょう!(さあ、メガネを外すのよ湊……ッ!)」

拉致されたお人好しなブルーを救うべく、ビビリなハッカーと、不純な動機でやる気に満ち溢れた少女の救出作戦が今、幕を開けた。

お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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