転校生
「赤城くん。このまま不登校を続ければ、卒業は難しくなる。……我が校からのせめてもの贖罪として、推薦枠を使って別の学校へ転校しないか?」
前の高校に呼び出された僕は、教師からそう提案された。いじめ問題を見て見ぬふりをした学校側の体裁作りだろう。だが、確かにこのまま引きこもって中卒になるのは不味い。僕は素直にその提案を受け入れることにした。
(新しい学校か……。今度こそ、目立たず平穏な高校生活を送れますように……)
極度のビビリで陰キャな僕は、新調した制服に袖を通し、期待と不安の入り混じったごく普通の感情を抱きながら登校した。
そして、初登校の日。
緊張で心臓をバクバクさせながら、担任の先生に続いて新しい教室に足を踏み入れた瞬間――。
「ガタンッ!!」
窓際の席で、一人の女子生徒が勢いよく立ち上がった。
黒髪が似合う、見目麗しくキリッとした顔立ちの美少女。
(うわ、すっごい美人……。でも、なんかメチャクチャ迫力あるな……)
僕は思わず気圧され、ビクビクしながら彼女を見つめ返してしまった。
だが、彼女――桃井 凛は、すっと静かに席に座り直すと、今度は僕の紹介を始めた担任をものすごい目力で睨みつけ始めた。
(隣にしろ……! 私の隣の席に、湊を座らせろ……ッ!!)
彼女の脳内から発せられる凄まじい念の圧に気圧されたのか、担任は引き攣った笑いを浮かべた。
僕はとりあえず挨拶しないと思い、「赤城湊です。よろしくお願いします。」とぺこりと一礼した。
まだすっごい睨んでる、あの子、先生の事
「あー、赤城。あいつの……桃井の隣が空いてるから、君の席はあそこね」
その視線に負けたのか、すっごい睨んでた女の子の隣に座れと指示された。
「あ、はい」
僕はドキドキしながら、クールビューティーな彼女の隣へと歩み寄った。
「えっと、赤城湊です。よろしくおねがいします」
緊張しながら声をかけると――。
ブーッ!!
凛の鼻から、鮮血が勢いよく噴き出した。
「えっ!? だ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫、大丈夫だからッ……!」
彼女は慌ててハンカチで鼻を押さえた。
そう、彼女は恋愛経験が全くのゼロ。異性へのアプローチ方法など知る由もない。ちょっと(いや、だいぶ)湿度の高い情念を抱えているだけで、基本的には礼儀正しく健全な女子なのだ。
表面上はクールな無表情を取り繕っているが、その頭の中はすでに臨界点を突破していた。
(あああああああ!! 湊が! 私の横に! 話しかけてくれた! 生の湊の声! やばい! 死ぬ! 尊い!!)
フル回転する脳内を必死に隠しながら、彼女は震える手で鼻血を拭う。
一方の僕は、(初対面で鼻血出されるなんて、僕、何か失礼なことしたかな……!?)と、ただただ困惑し、本気で心配していた。
だが、そんなすれ違いのカオスな時間は、突如として引き裂かれた。
ズドォォォォンッ!!
教室の窓ガラスが派手に吹き飛び、黒い靄のようなものが侵入してきた。
「キャアアアアッ!?」
「な、なんだアイツ!?」
逃げ惑う生徒と先生たち。砂埃の中から現れたのは、どす黒い『悪のプラーナ』を纏った怪人――いや、それは凛と全く同じ顔をした『もう一人のピンク(黒ピンク)』だった。
悪の組織を抜けた際、凛が捨て去った強烈な負の感情が、そのまま具現化した存在だ。
「私ヲ……置イテ……行クナァァァッ!!」
怨念の声を上げる黒ピンク。
誰もいなくなった教室で、凛は一人、ハンカチをしまってスッと立ち上がった。その目は、先ほどのパニックが嘘のように鋭く澄んでいる。
彼女は正面から、己の過去の亡霊と向き合った。
「な……君は一体……!?」
逃げ遅れ(というより腰が抜けて)、机の陰で震える僕が思わず声を上げる。
「……危ないから、下がってて。湊は、私が守るから」
凛は僕にだけ聞こえるような優しい声でそう呟くと、黒ピンクに向けて真っ向から構えをとった。
僕の問いに応える暇もなく、激しい戦闘の幕が上がろうとしていた。
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