ブルー、引退
夜の静寂に包まれた青島の部屋。
テーブルの上には、新しく借りる店舗の図面と、二人の名前が書かれた婚姻届が置かれていた。
青島は、ふわりと宙に浮かぶ青の精霊・ラピスに向き直り、少しだけバツの悪そうな、けれど晴れやかな顔で頭を掻いた。
「……ごめんな」
短くこぼした謝罪に、ラピスは静かに瞬きをして青島を見つめ返す。
青島は、図面の隣に置かれたブルーの変身アイテムをそっと撫でた。
「リコがミアズマの怪人をやめたのに、俺だけ正義の味方を続けるなんて、都合の良いことはできないっしょ」
悪と戦うことで過去の罪滅ぼしをしてきた彼にとって、愛する女性と共に表の世界で生きていくことは、何よりの決意だった。
「今まで、本当にありがとな」
青島が深く頭を下げると、ラピスはすべてを理解したように優しく微笑み、一つだけ静かに頷いた。そして、青島の新たな人生を祝福するかのように淡い光の粒子となり、夜空へと溶けるように離れていった。
数日後。よく晴れた休日のカフェのテラス席。
青島とリコは、湊と凛を呼び出していた。
テーブルの向かい側では、すっかり恋人同士となった湊と凛が並んで座っている。
凛は湊の左腕に両腕でピッタリと抱きつき、その肩に頭を乗せていた。湊と付き合う事になって、愛情が限界突破した結果、最近の彼女は少しばかり愛が重く、周囲を威嚇するような独占欲を見せることもあった。
しかし、当の湊はそんな凛の極端な愛情を疎むどころか、心底愛おしそうに深く、暖かく見守っている。湊の眼差しは、以前の不器用な彼からは想像もつかないほど穏やかだった。
そんな平和で甘い空気を纏う二人に向かって、青島はカラッと笑って本題を切り出した。
「リコがさ、ミアズマの怪人やめたのに俺だけブルーは続けられないっしょ。二人でバーを開店することにしたんだわ」
「えっ……!」
「つーわけで、お前らには本当、色々世話になったな」
湊と凛は姿勢を正し、青島とリコに向かって深く頭を下げた。
「いえ、こちらこそ、本当にお世話になりました。青島さんがいなかったら、僕たちはどうなっていたか……」
湊はそこで一度言葉を区切り、隣でギュッと自分の腕を抱きしめる凛と顔を見合わせて、嬉しそうに微笑んだ。
「お店が開いたら、必ず二人で行かせていただきます」
その真っ直ぐな言葉に、リコはストローを咥えながら豪快に笑い飛ばした。
「アハハ! 2人で大変だろーけど、まあなんとかなるっしょ! ウチらも新生活頑張るから、あんたらも色々頑張んな!」
「はいっ! リコさんも青島さんも、絶対幸せになってくださいね!」
凛も満面の笑みで答え、テラス席には4人の明るい笑い声が響き渡った。
これまで、夜の世界で器用に立ち回りながらも、どこか自分の居場所を探していた青島。
彼はこうして、愛する女性の隣という本当の居場所を見つけ、静かに『ブルー』を降りたのだった。
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