シュラバンバン
「……ビンゴ。やっぱりミアズマの仕業じゃない!」
自室のPCから敵のネットワークへ深く【ダイブ(ハッキング)】した僕――赤城湊は、瞬時に事件の全貌を掴んでいた。
ミラを攫ったのは悪の組織ミアズマではなく、国際的なマフィアだった。彼らは誘拐ビジネスの罪を、現在勢力を拡大しているミアズマになすりつけようと偽装工作を行っていたのだ。
僕はすぐさま、現地へ向かっている凛と青島ジン(ブルー)のインカムに通信を入れた。
『二人とも、敵の拠点の座標を送る! 犯人はミアズマじゃない、ただの武装マフィアだ!』
◇ ◇ ◇
湊から送られた座標――廃倉庫に到着した凛とジン。
しかし、そこには予想外の先客がいた。
「出たな、ミアズマの怪人……!」
身構えるピンクとブルー。暗がりから姿を現したのは、ミアズマの幹部怪人と、スーツ姿の戦闘員(社員)たちだった。
だが、幹部怪人は敵意を見せるどころか、深くため息をついて両手を上げた。
「待て待て、今はお前ら精霊戦士と争う時ではない。我が社は『ホワイト企業』としてクリーンにプラーナを回収し、収益を上げるビジネスモデルで売っているんだ。こんな泥臭い誘拐ビジネスに手を染めていると世間に思われるのは、長期的なブランドイメージの損害でしかない」
「は……?」
「つまり、利害は一致している。この場は一時停戦し、手を組もうではないか」
悪の組織からのあまりにもビジネスライクな共闘の持ちかけに、ピンクとブルーは顔を見合わせ、頷いた。
そこへ、インカム越しに湊の声が響く。
『よし、僕が今から敵のネットワーク、監視カメラ、電子ロックの類を【全て遮断】する! みんながミラを救い出したら、警察に通報して即解散するよ! 作戦開始!』
湊の神がかったハッキングによる後方支援と、精霊戦士&ミアズマ社員という異例の最強タッグ。
哀れな国際マフィアたちは手も足も出ず、瞬く間に物理的に全滅させられた。
◇ ◇ ◇
「怪我はない!? ミラさん!」
拘束を解かれたミラの元へ、凛が駆け寄る。
すると、ミラは翻訳機を通さず、自らの肉声でニッコリと微笑んだ。
「助けてくれてありがとう、凛さん。流石は湊の仲間ね」
「えっ……? に、日本語……!?」
流暢すぎる日本語に、凛は目を丸くした。
朝の教室では、あんなに物々しい翻訳機を使っていたのに。驚く凛を見て、ミラはふふっと小悪魔のように笑った。
「相手の言葉を理解できると初めから悟られるなんて、外交においては愚の骨頂よ。……ところで、あなたは湊の何? ただのお友達? それとも……恋人?」
「っ……!」
ミラの鋭くも挑発的な問いかけに、凛の肩がピクッと跳ねる。
浄化されたはずの『粘度の高いピンク色のプラーナ』が、再びボコボコと不穏な音を立てて湧き上がり始めた。
「私は……湊くんの、大っ切な仲間で……っ!」
「あら、ただの仲間なのね? じゃあ、私が湊にアプローチしても問題ないわよね?」
バチバチバチッ!! と、二人の美少女の間で凄まじい火花が散る。
そこへ――。
「ふぅーっ、無事に終わったみたいだね! 」
何も知らない湊が、ネットワークダイブから現実世界へと颯爽と帰還した。
「……湊くん?」
「お帰りなさい、湊」
般若のような笑顔の凛と、余裕の笑みを浮かべるミラ。
「ん?どうしたの、なんかあった?」
逃げ場のない地獄の板挟み――が幕を開けた瞬間だった。
◇ ◇ ◇
一方、その少し離れた場所で。
事件が解決し、警察のサイレンが遠くから聞こえ始めたことで、ミアズマの社員たちは撤収のために怪人化(戦闘服)を解き、元の一般人の姿に戻っていた。
「あーあ、残業代出るのかなこれ」
「お疲れ様ーっす」
撤収していく社員たちの顔を何気なく見ていたジン(ブルー)は、ふと一人の女性社員の顔を見て、タバコを落としそうになった。
(……あれ?)
見間違えるはずがない。
その女性社員は、ジンの勤めるホストクラブに週4で通い、毎月数百万単位でシャンパンを下ろしてくれる超絶太客の『リコ』だった。
(……マジかよ。俺の太客、悪の組織の社員だったのかよ!? ていうかあの莫大な金、ミアズマの給料!? どんだけホワイトなんだよ!!)
ジンが冷や汗を流していると、撤収しようとしていたリコも、ブルーの変身を解きかけていたジンの顔に気づいてしまった。
「……えっ? あれ? 青島……くん?」
「っ!?」
「えっ、嘘、私の推しホストが……正義の精霊戦士……?」
気まずすぎる沈黙が流れる。
「あ、いや、リコちゃん、これはその……副業っていうか、ボランティアっていうか……」
「私があれだけシャンパンタワー立てたお金……正義の活動資金になってたの……? 私、悪の組織で働いてるのに……?」
ホストと太客。正義の戦士と悪の戦闘員。
絶対に交わってはいけない関係性が、最悪のタイミングで交差してしまった。
「青島くん……次、お店行ったら、ちょっと……お話しよーね?」
「……はい、喜んで」
愛と欲望と正義と悪が入り乱れる中、東欧の天使を救出した代償は、あまりにも大きかった。
お読みいただきありがとうございました。
もし「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】の評価を押して応援していただけると、今後の執筆の何よりの励みになります!
次回もどうぞよろしくお願いいたします。




