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第一章(6)初めての夜

《登場人物紹介》

◾️吉野遍

白川先輩とこんなに仲良くなった今でもなんでこの人の隣にいるんやろ自分って、普通に思ってる。


自分なんか……と思いながらも、白川先輩にLINE送るときの脳内BGMは「CHE.R.RY/YUI」。

カラオケの持ち歌は「Yeah!めっちゃホリデー」。お前何歳やねん!のツッコミ待ち。



◾️白川古都

たまに吉野がチワワに見える時がある。


カラオケの持ち歌……、特にないが上司にすすめられたときは「最後の雨」歌っておいたらハズレはないと思っている。(この間経営戦略でスナック行った時に歌わされて課長(オッサン)に「白川……抱いて」って言われた)

タクシーが二人を下ろしたのは、中之島のタワーマンションの前だった。

豪奢なエントランスの脇のリーダーにICタグをかざすと、ピッと認証音が高く響いて、黒い木目調の自動ドアが静かに開く。

「ちょ、タワマンやないですか先輩! すっご!」

エントランスの吹き抜けに、遍の声が微かに響く。

吹き抜けから見える2階部分にはジムが見えた。

「ひえー! セレブ!」

「四階やで。」

こともなげに、古都はエレベーターのリーダーにまたICタグをかざすと、すぐにドアが開いた。

「なんでもっと上の階にせんかったんですか? 先輩やったら絶対買えるでしょ?」

古都はちらっと遍を見下ろし、また回数表示に目を戻した。

「上は風強いからな。下やと停電したとき階段でも移動できるやろ」

「は〜なるほど〜」

「それに、四階やったら飛び降りてもギリ死なんかな思て」

「……や、さすがにそれは無理ちゃいます?」

エレベーターはすぐに四階に到着した。

古都はICタグで解錠した黒のスチールのドアを開き、遍を誘った。

まるで芸能人の自宅紹介で見たような長い廊下。

つきあたりのリビングの窓からは、中之島の夜景が広がっていた。

「うわ……きれい」

遍が思わず口にすると、古都は小さく笑い、ローテーブルにコンビニの袋を置いた。

「好きなとこ座り」

古都がソファを勧める。

三人がけの黒い皮のソファは、きっとそれだけで自分の給料の何ヶ月分するのか……とドキドキしながら遍は借りてきた猫のように端の方に浅く腰掛ける。

キッチンで冷蔵庫を開ける音と氷の軽やかな音が響く。

戻ってきた古都の手には、アイスペールときれいなグラスが二つ。

「さて、と」

と言って古都もソファに座り、ふと遍を見る。

端の方で膝を揃えて緊張している。

「得意先に謝りに来た営業みたいな座り方すんな」

「それいつもの俺のことやないですか!」

グラスに氷を落とす快い音がリビングに響く。

古都が遍のレモンのノンアルの栓を開けてグラスに注ぐと、爽やかな炭酸の音がグラスの上で弾けた。

同じく自分のハイボールをグラスに注ぎ、遍にグラスを持たせると、軽くグラスを合わせる。

軽く小気味のよい音が、リビングに響いた。



汗をかいたグラスの側面を、水滴が筋を書いて滑り落ちる。

静かな部屋に、遍の細いため息が響いた。

古都の長い指が、遍の黒髪の一束を絡めては、ゆっくりと遊ぶ。

時折指の背が頬を撫でて、その度に遍は細く息を吐いた。

間近にある古都の手首から漂う甘い香水が、遍の脳を焼く。

人に触れられる肌は、こんなに甘く感じただろうか。

見つめられるだけで、こんなにも心臓が跳ねただろうか。

過去のどの関係とも違う温度に、遍は戸惑いを隠せなかった。

不意に古都の指が遍の顎を捉えた。遍は逸る胸をため息で抑え、祈るように目を閉じた。

長い時間、唇を重ねるだけのキスをして、惜しむようにゆっくりと離す。

古都は眼鏡を外すと、ローテーブルに置いた。

遍は、彼が眼鏡を外した姿を見るのは初めてだった。

間近で見つめるその目は、会社では決して見ることの出来ない、獲物を狙う獣のような目をしていた。

「……白川先輩」

声が上擦る。息が熱い。

それが合図かのように、古都は深く深く、遍に口付ける。

「……ん、……ふ」

舌を掻き回され、歯列をなぞられて口の端から声が漏れてしまう。唇を重ねたまま古都は遍をソファの座面に押し倒す。両手の指を絡めて頭の上でソファに縫い付けられながら、降り注ぐように与えられるキスに、遍は必死に応えた。

ようやく離れた二人の唇から、唾液の糸が伸びる。

「吉野……」

「……先、輩」

見下ろす古都の目は、遍の喉笛に今にも食らいつきそうに逆光の影で暗く光る。

肩で息をしながら、遍はうっとりとその目を見つめた。




シャワーのあと、遍は手を引かれて古都の寝室に入った。

グレーのカーテンに黒を基調とした木製のベッドフレームにリネン。

「吉野?」

正面から声をかけられ、遍はぴくりと肩を揺らす。

風呂上がりに借りたTシャツから、彼の匂いがする。オーバーサイズのそれは、遍の太腿までを隠してくれていた。

「何で下向いてんの?」

「あの……先輩がいつもと、違いすぎて……」

古都の黒いTシャツにボクサー、襟足が少し濡れているその姿に、遍は目のやり場を失っていた。腕も足も、思っていたよりもしっかりと筋肉が付いていて、それでいて美しく引き締まっているから、余計に。

古都は眉を下げて小さく笑う。

「……どうせすぐ脱ぐのに?」

そう言うと、遍の耳に唇を寄せた。

「……お前、思ったより細いんやな」

「ふ、あ……っ」

耳元で囁かれて、遍は腰の疼きを覚えて身を竦める。

逃げる獲物を捕まえるかのように腰を抱かれて、そのままベッドに押し倒された。

「……可愛いな、吉野」

古都の影に閉じ込められ、再び唇を重ねる。

わざと音を響かせて、深く深く、舌を絡める。

「は、あ……先輩、白川先輩……」

遍の素肌に古都の長い指がゆっくりと這う。

首筋に舌を這わされながら乳首をゆっくりと撫でられ、遍はびくりと上体を震わせた。そんなところで感じたことなど、これまで一度もないと言うのに。

「先輩、……俺、おかしい、かも……」

熱い息を吐いて、遍は涙目で古都を見上げる。

「俺、こんな、気持ちいいの、初めてで……」

少し怖い。と消え入るような声で呟き、古都の首筋に縋り着いた。

その熱い肌を古都も抱き返し、耳朶を甘く噛んだ。

「優しく、するからな」



「や、イク、せんぱ……っ」

もう何度目かも分からなくなった絶頂を迎え、遍は朦朧としながら自分の腹に熱い液体がかかるのを感じて、また身体を震わせた。

古都の荒々しい息遣いをすぐそばに感じ、遍が顎を上げると、息も整わぬまま、唇を重ねられる。

汗だくの肌が境界線を失うほどに密着し、二人は何度も何度も、互いの唇を求めた。

遍は蕩けた表情で古都に笑いかけ、首に腕を絡める。

(だめや、こいつ、可愛すぎる)

古都も、珍しく自制が効かない自分に驚いていた。

あまねの前を触りながら、さらに奥を深く穿つと、遍は小さく悲鳴をあげて快楽から逃げるように身を捩り、力なく首を振る。

「も……、むり、も、イケな……」


「……ごめん、吉野。もっと」


もっと深く。

もっと奥まで。

この男を知りたいと思った。

深く深く、溺れるみたいに。

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