第七章(4) 大丈夫
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《登場人物紹介》
◾️吉野遍
スーパーで試食を勧められる率が異様に高い。
目をキラキラさせて食べる。
◾️白川古都
遍の試食勧められる率に内心驚いている。
一度遍が食べている横で「お父さんもいかがですか」と言われたことがある。
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遍はこたつで母親のカレーを三杯おかわりして、三本目のビールを空けた。
母親はキッチンからその様子を覗き、カレー三杯食べるやつは大丈夫、と頷いた。
「おかーんビール取ってー」
ぽやぽやとした遍の声がリビングから届く。
はいはい、と母親はビールを二本持ってこたつに入り、左手の一本で遍のおでこを小突き、もう一本を自分で開けてぐいと飲んだ。
遍はかみすぎて真っ赤になった鼻をズビズビと鳴らして、母親を見た。
「おかんごめん。俺、無職になるかも」
「は? どういうこと?」
「……好きな人おってんけど、その人んちめっちゃ金持ちで、親父さんに息子のために別れてくれ言われて」
遍はまた滲む涙を、ジャージの袖で拭う。
「東京のめっちゃええ会社の紹介状と……引越し代や言うて多分札束、めっちゃ入ってる袋渡されて」
ていの良い厄介払いだ。
金が足りないのかと言われたところで、カッとなってしまった。
古都によく似た顔で、そんなことを言わないでほしかった。
「めっちゃ腹たってんけど、その人元々ゲイちゃうし、親父が最悪やからめっちゃしんどい思いいっぱいして来てるし、その人の将来考えたら、やっぱ俺ではあかんのかなって……せやったらもう、会社でも会われへんなと思って……ごめんやで、おかんが一生懸命働いて俺大学行かせてくれて、やっとええとこ入れて、おかん楽させてやれる思ったのに……」
リーガロイヤルのラウンジで対峙した父親の悠然とした笑顔を思い出す。
「俺、胸張って言えへんかってん」
萎縮してしまった自分。
「俺が古都を幸せにします! って」
敵わないと思ってしまったじぶん。
「どんな困難にも負けません! て……言えへんかってん」
遍はこたつに突っ伏す。
自分なんかが、古都を幸せにできるわけがないと、思ってしまったことが。
「悔しいわぁ……おかん」
母親がグビグビとビールを飲む音がリビングに響く。
どれほどに絶望しても、天板は呑気に温かかった。
いい音に誘われて、遍もむくりと起きてビールを飲む。
「……ごめんやで、情けない息子で」
母親は何も言わずに、遍の肩をばんと叩いた。
「で、あんたは古都くんとやらに何も言わんと出てきたん?」
遍は頷く。
「俺が出て行くて言うたら古都は絶対俺を止めてた。俺がおるからあいつは家を捨てなあかんなる。今俺が古都になんか言うても、古都は絶対に俺を守るために動こうとする。それって縋ったり利用したりしてるみたいでフェアじゃないやん……だから、何も言わんと逃げて来てしもた……情けな」
またこたつに突っ伏す遍の黒髪を、母親はわしわしと撫でた。
「情けなくなんかないわ。あんたは私の大事な息子やもん」
こどもの頃から、幾度となくこうしてこたつで落ち込む遍を見てきた。
自分自身のことで悩み、傷ついてきたであろう息子を。
「どうにもならんこともあるよ。理不尽なこともある。あんただってたくさん知ってるやろ」
遍は頭の向きを変えて、目だけを母親に向ける。
「あんたがこんなふうに人と付き合えるんやって、おかーさんびっくりしたわ。あの電話のときやって、あんたが楽しそうで、ほんま嬉しかった」
母親はもう一度、遍の黒髪をわしわしと撫でる。
「あんたが何選んだって、おかーさん応援するよ、あんたの人生なんやから」
「おかん……」
遍は袖で涙を拭く。
「あ、あんたが東京行ったら、ディズニーランド行くとき泊まらせてな!」
母親は名案を思いついた顔をして弾んだ声で言う。
「いや秒で断ったし!」
母親の突拍子もない思いつきに、遍も思わず笑ってしまった。
「断ったんか! さすがや遍!」
母親に背中を思い切り叩かれ、遍は思わずビールを吹き出した。
《登場人物紹介》
■吉野 妙子
遍のおかん。
17年前に夫を亡くしてからひとりで子どもを育ててきた。
割と楽観的。
問題が起きても「死なへん!」って思って生きている。
カレーはバーモントの中辛




