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第七章(2) どうか、

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《登場人物紹介》

◾️吉野遍

最近古都と出身大学が一緒であることを知った。

歳はかぶらないけど、これまでの人生どこかですれ違ってたこともあるかもと思えば面白いなと思った。


◾️白川古都

中高一貫校から推薦で近所の大学に入った。

理由は近いから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

遍の母は驚いていた。

昼過ぎに、息子がキャリーひとつを転がして突然帰ってきたからだ。

しかも、しばらくここに住むという。

(まあそれはあの子の部屋そのまま置いてるからいいとして)

「明日、あと四つ荷物届く……」

言葉少なに靴を脱ぎ、リビングのこたつに入ろうとして急に服を脱ぎ始めた息子の背中を凝視する。

「遍……あんたいったいどうしたん……?」

「……これでこたつ入ったら毛玉になると思って」

「……いやそこやなくて……」

遍はセーターを脱ぎながら、昨日の夜の痕がまだあちこちに残っているのを思い出して全部脱ぐのを止め、ワッフル地の長袖Tシャツ一枚になってから実家の寒さに身慄いした。

古都のマンションのようにセントラルヒーティングではないのだ。

「さむっ」

「そらそやろ。なんか着なよ」

母親はクローゼットから、遍の深い青の高校ジャージを取り出してきた。

「はー。ありがとおかん。ちょっと寝るわ」

そう言って遍はこたつに潜りこみ、ものの五分で寝息を立て始めた。

息子のただならぬ様子に母親はとりあえずそっとしておこうとリビングのドアを閉め、落ち込んだ時は寝ると食べるに限ると、買い物にいく準備を始めた。



遍が目を覚ました時、キッチンからブイヨンと野菜の煮えるよい香りが漂ってきていた。

冬の夕暮れはリビングをすっかりと薄暗がりに変えている。

「こと、ばんごはんなに。」

そう言おうとして遍は、自分が今いる場所が中之島ではなく、高槻の実家のこたつであることを思い出す。

(古都……)

じわり、と涙が滲む。


古都を愛している。

心から、愛している。


けれど、これ以上、古都から何一つ失わせてはいけない。

家と関係を断つなんて、言うは簡単だが、とんでもない事だ。

自分がそばにいる以上それは避けられなくて、そしてその末にどうしても古都を傷つけてしまうのだ。

「……っ」

自分さえ我慢すればいいと思っていた。

今だってそう思っている。

古都に幸せになってほしい。

もう何も失わないでほしい。


——どうか、幸せで。


「……うあ、」

気がつけば、こどものように泣いていた。

「うああああぁーー」

びっくりして、母親がキッチンから駆けつけて来た。

「どうしたん!? あんた……」

堰が切れたように、涙が次から次へと溢れる。

「うぐ……うううぅぅーー」

こどものようにしゃくりあげ、遍は両手で顔を覆って声をあげて泣き続けた。


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