第七章(1) いってらっしゃい
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《登場人物紹介》
◾️吉野遍
最近ほっぺふっくらしてるって同僚に言われた。
古都のごはんが美味しすぎてちょっと太ったと思う。
◾️白川古都
遍はずっとコンビニやファストフードって言ってたので栄養バランスなるべく気をつけて食事を作っている。
この季節、鍋は楽でいい。
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「ほな、行ってくる」
古都が京都の実家に行くという。
遍は引き留めつつ、古都が一度決めたことを覆すはずもないとわかっていたので、玄関で大人しく見送ることにした。
オーバーサイズのTシャツから覗く太腿には昨夜の情交のあとが幾つも散らばっている。
「無理したらあかんよ、古都」
遍はスーツ姿の古都にキスをして、その髪を抱いた。
「お前に手を出すのは許せへんからな。言うだけ言うたらすぐに帰ってくるわ。」
「……うん。気をつけてな」
ガチャリと音を立ててキーフックを手に取り、ドアを開けて出て行こうとする古都を、遍は呼び止めた。
「どうしたん?」
遍は眉を下げて首を振り、笑った。
「……好きやで、古都」
古都は引き返して唇を重ね、もう一度「いってきます」と言ってドアの向こうに消えた。
ドアはゆっくりと閉まり、遍もそれと同時に手を力無く下ろした。
「……さ。」
遍は自室に向かい、ドアを開けた。
そこには、昨日古都が帰宅するまでに用意していた荷造り済みの段ボール。
元々荷物は少なかった。キャリーと、段ボール四箱で済んだ。
遍は昨日着ていたネイビーのセーターと黒のパンツに着替えて、ネットで依頼していた配送業者に段ボールを実家に送ってもらうよう託した。
ブルゾンを羽織り、キャリーを持って、遍はリビングの真ん中に立った。
およそ半年、ここで過ごした。
夢のような時間だった。
「これからも、古都を守ってあげてな」
雨の日も、風の日も、孤独な日も。
誰ともなしにそう祈り、遍は玄関に向かった。
自分のキーフックを手に取り、玄関を出た。
スーツとアヒルの入ったキャリーを引きずりながらエレベーターをおり、郵便受けに合鍵を丁寧に入れた。
次に自分のキーフックも郵便受けに入れようとして、遍は手を止めた。
どうしても欲しくて、年末に買ったふたりお揃いのキーフック。
「……」
ひとつだけ思い出を持っておきたいと、遍は思った。
それはまるで自分の小さな小さな願いのように。
遍はキーフックを握りしめて、もう一度エントランスを眺める。
初めてここに入らせてもらった日のことを思い出す。
「四階やったら飛び降りてもギリ死なんかな思って」
真顔で言っていた古都のあれがボケだったのか本心だったのかは、分からずじまいだった。
口元に笑みが浮かんですぐに涙がこぼれそうになって、遍はキャップを目深に被り、中之島を後にした。




