第6章(4)元旦2
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《登場人物紹介》
◾️吉野遍
味噌汁で好きな具はじゃがいもと玉ねぎ。
すこしとろみがつくのが好き。
◾️白川古都
味噌汁は豆腐とわかめ。おあげとお麩もよし。
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京都から戻り、リビングの照明をつけたとき、時計は既に六時を回っていた。
夕食はおせちの残りで酒を飲もう、と朝から決めていたので特に何の準備も要らない。
風呂を済ませたあと、これがおせちのポテンシャルや……と遍は意味の分からないことを言いながら冷蔵庫から朝の残りを出し、食器棚からグラスを二つと冷蔵庫からビールを取り出して、ダイニングテーブルに置いた。
髪を拭きながら風呂から出てきた古都に「準備できたで」と声をかけると、古都は「ありがとな」と小さく笑って椅子に座った。
25畳に、500mlのビール缶の栓を開ける音が響く。
二つのグラスにビールを注いで、遍は古都の前に置いた。
「準備全部ありがとうな、あまね」
グラスを合わせると、音のないリビングに軽快な音が空々しく響いた。
古都はビールをひと口で空け、もう一杯ビールを注ぐ。
そのビールを飲まずに、古都は遍を見た。
「……あまね、あんな」
数の子を口に入れたところであった遍が、ポリ、と言い音を立てて古都を見る。
古都は小さく息を止め、意を決したように口を開いた。
「気を悪くせんと、聞いて欲しい」
遍は数の子を咀嚼しながら、箸を置いて頷いた。
古都は帰りの車でも、口数が少なかった。
実家で何があったのだろうと、遍は古都が喋り出すのを待っていたのだ。
なんとも言えぬ空気の中、プチプチと脳天気な音が遍の口から聞こえてくる。
古都はそれに小さく苦笑して、話し始めた。
「……単刀直入に言うけどな。実は、見合いの話を持ちかけられたんや」
脳天気な音が止まり、リビングはエアコンの音以外は聞こえなくなった。
「……」
(みあい。)
遍は、今古都の口から発せられた三つの音を唇でなぞる。
「すまん。父親が勝手に話進めてしもてて。相手は京都ではかなりの重要人物の娘で、キャンセルすると相手の顔に泥塗ることになる。行くだけ行って、穏便に断るしかないんや」
すまん、と古都はもう一度頭を下げた。
(そうか。古都は実家に俺と住んでること言うわけないもんな)
そう思ってから、小さく首を振った。
(……いや。)
古都のせいではない。
誰と暮らしていようと、それが女であろうと、そんなことは関係ない。白川家では、こどもは全て政治の駒ということなのだ。
きっと容姿も学歴も身分も申し分ない、白川家に相応しい令嬢に違いない。
「古都には……選ぶ権利があるから」
「あまね」
古都の困ったような咎めるような口調に、遍は口を噤んだ。
自分でも何を言っているのかは分からなかった。
それが果たして、遍を選ぶ権利なのか、見合いを断る権利なのか、幸せな結婚を選ぶ権利なのか。
遍はどこかうわの空で、今日神様にお願いしたばっかりやのに……と思った。
「……」
「ちゃんと断るから。安心しろ」
何も会う前から断るって決めなくても……と遍は他人事のように思った。
味が分からなくなって、置いた箸を取ることもしないまま、遍はビールを空けた。
「……ごめん、ちょっと食欲なかったんやったわ」
遍は笑った。
むりに明るくそう言って、食器をビルトインの食洗機に入れ始めた。
食洗機を閉じて部屋に戻ろうとしたとき、背後から抱きすくめられた。
首筋に、少しアルコールを含んだ古都の息がかかる。
「ごめんあまね……不安にさせた」
腕ごと抱きすくめられて、振り払うことも抱き返すことも出来ない。
「……無理もさせてる」
遍は小さく首を振った。
「……大丈夫」
そう言おうとした唇を、上を向かされて唇で塞がれた。
絡まる舌はビールの苦い味がした。
二人の寝室で、遍は壊れ物のように優しく古都に抱かれていた。
「あまね……」
身体を繋げながら、古都は遍の身体の全てに口付けをしていく。
瞼に、鼻先に、額に、耳に、首筋に、胸に。足の指先にまで。
「……そんなとこ汚いよ、古都」
顔を赤らめて、遍は身を捩る。
「お前に汚いとこなんか、ない」
指先で遍の中心をゆっくりとなぞると、遍はビクリと身体を震わせた。
「……あっ、……こと、」
「なあ……あまね、好きやで」
耳朶を噛んで、古都は囁く。
「もう一回言うけど、ちゃんと断るから……」
やから、と続く唇を、遍は自分から塞いだ。
やがて激しくなる抽挿に揺さぶられながら、遍は「もっと」とねだった。
もう何も考えなくて済むように。




