第六章(2)古都の誕生日2
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《登場人物紹介》
◾️吉野遍
(あれ……?素顔のヒソカ、なんか古都に似てへん……?)
て思ったけど本人には言えなかった。
◾️白川古都
こんなに漫画を集中して読み続けられるあまねを少し尊敬している。
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クリスマスはプレゼントは何もなしにしようとリビングで協定を結び、古都は料理を担当し、遍はケーキ担当となった。
遍は今回初めて、古都が唯一「好きだ」と言うケーキがオペラであることを知り、デパ地下のお高めのスイーツコーナーでオペラを探した。
遍がクリスマスに家族と友人以外の人と過ごすのは初めてだと打ち明けると、古都は少しビックリしていた。
「お前の初めてをたくさんもらえて、光栄やわ」
そう言って古都はいつものダイニングテーブルにいつもより少しだけクリスマスめいた料理を並べて、シャンパンを開けた。
という古都も、この部屋で誰かとクリスマスを過ごすのは初めてだという。
「おたがいに、初めて同士やな」
そう言って、遍は笑った。
クリスマスも過ぎてもうすぐ仕事納めになろうと言う頃、たくさん悩んで、たくさん店を回って古都の誕生日プレゼントを探していた遍が辿り着いたのは、営業先の近所の路地裏でたまたま見つけたセレクトショップだった。
路地に面したおおきなショーウィンドウから、落ち着いた暖色系の照明に照らされた店内が見える。
(あ。)
遍は吸い込まれるように店に入る。
床は板張りで、遍の革靴の重みを受けて生き物のようにキィと軋む。
一段あがった店の奥の、アンティークのライティングデスクに並んでいる、シンプルな皮製品が目に留まった。
財布に、名刺入れ、そのとなりにある、シンプルなデザインのキーフック。
「これ……」
黒とナチュラルの二色がある。
これだ、と遍は思った。
黒の皮と存在感のある金具がシンプルながら洗練されていて、古都の持つ雰囲気に似ていた。
値段を見ると、一万五千円を少し出るくらいで遍の予算の想定内だ。
もしかしたら今古都が使っているキーフックの方が高価で、比べものにならないほどよいものかもしれない。
けれど、遍はこれを古都に贈ろうと決めた。
十二月三十一日。
「これ見な一年締まらへんやん!」と、遍がテレビを紅白歌合戦にした。
古都は若者の歌はいまいち知らない歌が多く、唯一「あ。」と思ったのは今年の運動会で遍がひたすら練習していた女性グループのにぎやかな曲くらいだった。その代わりにけん玉やドミノをハラハラと見守る遍の横顔を飽きず眺めていた。
ワインが空いたので新しいボトルを取りに行き、古都がソファに戻ったとき。
遍が少しだけ背を正して、古都を待っていた。
「……どしたん?」
遍は、レザーのリボンがついたシンプルな白の紙袋を古都に手渡した。
「古都、誕生日おめでとう。これ、俺から」
古都は少し驚いた顔で遍を見つめて、目を細めて白い紙製の袋を受け取った。
「ありがとうあまね。開けてもええ?」
「もちろん」
古都が白い紙袋から取り出したのは、クラフトのマチ付きの紙袋。黒皮のリボンが飾られている。紐を解いて袋の口を開ける古都の姿を、遍はそのすぐ隣で様子を伺うように見つめている。
古都が手にしたのは、黒い本革の、とてもシンプルで実用的で存在感のあるキーフックだった。
古都は手に取ってその手触りを確かめる。
「たまたま寄った店で見つけてな。日本製でな。これ、ひと目見たときに、古都に似合うなって思って、その……気に入ってくれたら、嬉しい」
遍は親指の爪をいじりながら、少し恥ずかしそうに笑う。
「でな……」
遍は少し声を上擦らせながら、ポケットに手を突っ込んだ。
「実は、俺も一緒のん買ってん……」
そう言ってポケットから取り出したのは、古都と同じデザインで、皮の部分がナチュラルのものだった。
「……古都とおそろいのもの、どうしても欲しかって」
遍は耳まで赤くして俯いた。
「……あの、でも、匂わせいややったら外には付けていかへんから、家で持ってるだけで十分やから」
ちらりと遍が目を上げると、古都は目を細めて遍の持つキーフックを見つめ、無言で立ち上がった。
「あの……古都……」
あえて会社にバレそうなことは、やはりダメか。
気に触ってしまったかと遍は自分用に買ったキーフックを世界から隠すように手のひらに握りしめた。
玄関から戻って来た古都は、右手に古都が今使っているキーケースと、遍の鍵を持っていた。
ガチャリと大きな音を立ててローテーブルに鍵を置くと遍の横に座り、キーケースから家の鍵とICタグ、車の鍵とあと数個の鍵を取り外し、遍から贈られたキーフックに付け替えた。
それからせんとくんの古臭いパズルのついたキーホルダーにまとめられた遍の鍵の束も取り外し、遍の手からナチュラルのキーフックを掴んで、鍵を付け替えた。
「古都……」
目を見開く遍に古都は二つのキーフックをどう?という風に見せる。
鍵の束がそれぞれ、じゃらりと軽快な音を立てた。
古都はにこりと笑って遍にキーフックを渡す。
「ありがとな、あまね。めっちゃ気に入った」
「いいん……? 同じやつ持ってて……気付かれへんかな……」
古都は頷いて、遍を抱き寄せた。
「もうそんなん、関係ない。 お前が俺のために探してくれたんが、ほんまに嬉しい」
俯く遍の唇を探すように、古都が顔を近付ける。
少しだけ顔を上げた遍の顎を捉えて、古都は深く唇を重ねた。
「ん……っ、……、」
ワインの味のする舌が、遍の舌を絡めて深く吸う。
解放された舌から唾液の糸が弧を描いて切れた。
「あまね、大切にするな」
それはキーフックのことなのだろうか? と、遍はソファにゆっくりと押し倒されながら、考えた。
除夜の鐘は、中之島の四階には届かない。
二人は、素肌のままでシーツの感触を楽しみながら、ふと目にした寝室のデジタル時計で年越しを知った。
それも、0時を24分も過ぎた頃に。
「あ。あまね。年越してるわ」
「あーあ。蕎麦食べ損ねたやん」
背中から抱きすくめられた遍は、蕎麦など食べる気もないくせに古都の腕の中でクスクスと笑う。
「年越し蕎麦って、年越す瞬間に食うん?」
古都の何気ない質問に、遍は古都の過去を思う。
「古都ん家は?」
「知識としては知ってるけど、食ったことないな……」
「そっかー」
古都の生まれた白川家本家に、家族の団らんなどなかった。
増してや家族仲良く年越し蕎麦を囲むようなことは、生まれてこの方一度も経験したことがない。
「俺ん家は、除夜の鐘聞きながら食べてたな」
と遍が記憶をなぞりながら呟く。
「俺が昔あんまり蕎麦好きちゃうくて、鍋焼きうどんやったりしたけど」
年越し鍋焼きうどんが古都のツボにハマったのか、古都は遍の肩口に顔を埋めて肩を震わせている。
「お前ん家やっぱ最高やな……」
古都が案外蕎麦好きという話を聞いて、遍は今年の年越し蕎麦を逃したことを酷く残念がった。今年の年末は必ず年越し蕎麦にしようと約束して、二人は眠りについた。




