第8話 援護
俺の問いに対し、彼女は答える。
「私たちは、首繋がり族から隠れているのよ。互いの存在自体もできるだけ秘密にしている。だって、あまりに数が違いすぎるから、存在が公になったらすぐに絶滅させられてしまうからね。
だから、なにかあった時は携帯を逆に折って破壊するの。私にはその余裕がなかったけど、結果としてはそうなって安心してもいる。でね、修理したとしても、携帯に記録した電話番号はものすごくたくさんあって、そのほとんどはダミー。だから有効な電話番号の洗い出しには一定時間がかかる。その時間の間に、みんな携帯を変えて逃げ出すの。
みんな、1つだけ有効な電話番号を暗記していてね。それでネットワークを再構築するんだ。私の携帯が壊れて、常時発信されている信号が消えた段階でもうみんな逃げ出している。そんな仕込みが必要だったから、私たち、未だにバッテリーが長持ちして、かつ壊しやすい折りたたみ携帯しか使えない。そんな仕組みだから、この携帯の修理ができたとしても、もう連絡は取れない。憶えている電話番号も、この携帯からだろうが、他からであろうが、掛けても通じない」
「でも、それだけじゃこういう場合に困るでしょ。携帯が奪われることもあるだろうし、単純に故障することだってあるはずだ」
正直に言って、俺にはよくわからない話だっだけど、それでもあまりに不便なやり方なのはわかった。
「だからね、ダブルセーフティーになっているのよ。番号を聞き出すのと、携帯を確保するのと、両方なんとかしないと私たちには近づけない。きみの言う『こういう場合に困る』は、織り込み済みなの。一人が失われても、全体が逃げられればいいって、そうなってる」
「……それじゃ、いざってときに助けを求められないじゃないか。
いくら一人ひとりを見捨てる体制だとしても、これじゃあんまりだ。せめて、なんらかのバックアップ手段があるでしょ」
俺のツッコミに、再び彼女は目を伏せた。
「科学の進歩は、そんな甘いことを言えなくさせてる。たとえ拷問には耐えられても、自白剤には耐えられないのよ。特に神経系の薬剤に敏感な私たちは。だからこういう仕組みにせざるをえなかった。
でもね、連絡地点がある。そこまで行けばいいってこと。
私たち一族の故郷の里があるのよ。けどね、この傷ついた身体じゃ、そこまで行けないし、治療も間に合わない……」
「急いで俺が連れていけば……」
「一族の故郷の里は国外よ。たどり着くまでの間に、確実に私は死んでる」
……こりゃ駄目だ。マジで詰んでる。
「じゃあ、このまま行くと……」
「そうね、あと数時間で酸素レベルが下がって、脳の機能が落ちだす。もちろん、脳へ行くブドウ糖もなくなるから、ダブルパンチね。で、12時間ほどで機能を完全に停止する。身体は身体で首が戻らないと食事も排泄もできないから、やっぱり数日で死ぬ。私の身体は、怪我していて治療もできないから、あと数時間ももたないかもしれない。となれば、私は戻れないから、やっぱり……」
「……だよね」
さすがにそのまま彼女の言っていることへの肯定もできず、俺はそうあいまいに答えた。
それから、俺はちょっと考えてさらに聞いた。
「死体を隠す以外で、俺にできることはある?」
「ない」
……シンプルだな。
俺自身、できることがあると思っての質問じゃなかったけれど、こう簡単に返されると情けなくなるな。




