第7話 進化
なんで飛首族は狙われるのかという、俺の問いに彼女は続ける。
「説明してきたとおり、私たちは、首の切断という環境圧に対して、対抗機能を得てきた人類ということになる。文字通り、進化よ。
近年の遺伝子解析で、その飛首機能遺伝子も特定された。そして、試験的にその飛首機能遺伝子を組み込んだベクターウイルスが作られ、液体窒素の中で保管されていた。もちろん今でも、どこかで極秘に保管されてるとは思う」
オカルトの昔話ってジャンルから、一気にSFっぽい話になったな。
「だけど、それ、テロで破壊されそうになってね。やむをえず、そのウイルスを守るために何人かの飛首族の体内にも保持することになった。
私もその1人。
だから、私が噛みつけば、その相手は感染して飛首族になる。ここまで言えば、もうわかるでしょ?
首繋がり族からしてみたら、人類全体の遺伝子プールの拡大を目的として私のような存在を作った。遺伝資源の保存ってやつよ。すべての人類を飛首族にしようとは思わないけど、人類の存続の危機のときに、私たちの持つ回復力の遺伝子が人類を救う可能性は捨てきれないってね。
でもね、私のような存在は、人類の遺伝子プールを汚すと考える首繋がり族もいる。もはや別種の動物になってしまうってね。
そんなの、首繋がり族同士で話し合ってくれればいいのに、私たち飛首族に直接テロを仕掛ける者もいるのよ。迷惑ったらありゃしない」
「……はぁ」
生返事になってしまった。人類の未来とか、話が大きすぎ。話の筋としては納得できても感情がついていかない。
とはいえ……。
飛首族と首繋がり族って、もう品種の違いじゃなくて種の違いのような気もするなー。えっちしたら、子供はできるんだろうか?
そんな疑問が頭の中で湧いたけど、俺はすぐにそれを頭から振り飛ばそうとした。だって、今、一番まずいタイミングだろ、彼女にソレを聞いたら。
「良くはわからないところもあるけど、なんとなく納得はした。
で、今は怪我の治療をしないといけない状態なんだよね。その強い回復力で、治ったりしないの?」
「話は聞いたでしょ?
人間同士の膨大な斬首行為に対抗して進化してきたのが私たち。つまり、挫滅されることに対しては、普通の人類と同じ回復力しか持たない」
やっぱ、駄目かぁ。
本当ならここで、彼女の手を握るなりして共感を示せればよかったのかもしれない。だけど、首が離れたあとの身体に示す共感って、意味があるものなんだろうか?
ひょっとして、変な下心を疑わせちゃう?
俺は首を振って、その疑問を頭から払い除けた。まだ聞かなきゃいけないことがあるんだ。
「仲間と連絡を取る方法はあるの?」
俺の問いは、ようやく一巡して戻ってきた。だけど、それに対する彼女の答えはあまりに簡潔だった。
「ない」
……シンプルすぎるな。
「携帯以外、仲間への連絡手段は全然ないの?」
重ねての俺の問いに、彼女は目を伏せて肯定を伝えてくる。
そして、腕が疲れたのか、首を自分の胸の上に置いた。これが彼女の意思によるものか、腕が疲れて自動的に下がったのか、俺にはわからなかった。
で……。
今まで気がついたことはなかったけれど、俺は倒錯趣味があるんだろうか?
一目惚れするほど好みに合うからこそ、彼女を美しいと感じている。そう思いたい。まさか、斬られた生首が美しいと感じているとは思いたくはない。でも、現状では、その感情の切り分けはあまりに難しいかった。




