第6話 接続
「仲間と連絡を取るための方策を考える以前に、もういくつか教えてくれ。
そういう話だとすると、きみが車に轢かれたの、偶然の事故じゃないんじゃ?」
まったく音のしないEVを思い出しながら、俺は聞いた。だってこうなると、「故障じゃなくて明確な殺意」ってのを疑わざるをえなかったからだ。
「そういうこと」
俺の問いに、彼女は再び目で頷いた。
「故意の轢き逃げ事故だとすると、飛首族は誰かから狙われているの? なんで?」
俺の問いに、彼女はまたもや目で頷いた。
まつげが長い。目を伏せられると、表情が物憂げに、そして神秘的にすら見える。
彼女の首と胴との間に隙間がある状況なのに、俺は動悸を感じてしまっていいんだろうか……。
「考えても見て。
なんで人類は、同じ人類の首を斬り続けてきたの?
胴体から出ている両手両足、そして首。歴史上、一番斬り続けられてきたのは首だった」
「そりゃ、殺さなきゃいけない誰かを、人違いなく確実に殺すには首でしょ」
俺の答えに、彼女は再び目で頷いた。
「ティムールは、70,000人の敵の首で塔を作った。有史前から、そのような大量の斬首は珍しくない。
で、手足だけど、斬ったものをそのまま切り口を寄せておいたら回復する例がある。神経までは繋がらなくてもね。さらに、繋がるどころか、切り口からあたらしい腕が伸びてきた例すらもあった。数は極めて少ないけどそのような回復力の強い人間はいて、普通なら選抜される機会自体がないはずなのに、あまりに戦乱に伴う大量虐殺の事例が多いからその数少ない人間が選抜されて……、子供を作って生きのびた。そういう人間たちを、さらに選抜交配させていったらどうなる?」
「首だって、なんとかなるっての?」
俺は質問に質問で返した。いくらなんでも、手足と首は違う。そう思ったからだ。
だけど、同時に、その実験の分母の数に、俺は戦慄を覚えてもいた。
首が70,000人なら、手足も含めたらどれだけの分母になるのか、試算以前に想像だけでめまいがする。
「トカゲは危機に際して尻尾を自切する。脊椎ごと切断するのよ。それと比べれば、首は気管と食道があるだけしかの差がないとも言えるわ」
俺の疑問を察したのか、彼女はそう言う。
「トカゲは切りっぱなしだけど、きみの場合は繋がるんじゃな……」
と言いかけて、つながっていないことに気がついた。首は組織として繋がっているわけじゃなかったんだ。でなきゃ、首だけを持ち上げられない。
「じゃあ、相互の生存に必要な栄養物質や、神経の信号はどう共有されているの?」
「生存に必要な物質のやりとりは、首と胴、相互の寄生というのが近いわ。互いに組織が食い合う形で連結するのよ。だから、下を向いただけで首が落っこちちゃうことはない。生物界をとおして見れば、珍しい機能じゃない。もちろん、情報も同じ。神経伝達物質の交換をすることで、結果として情報も交換している。
でも、接続部分には筋が残って見えちゃうから、夏でも首が出ちゃうような服は着れないわね」
「……なるほど」
俺はもう、そうとしか言えない。
生物学だか、医学だかの知識がなさすぎて、頷くしかなかったんだ。
「で、なんで飛首族は狙われているの?」
俺は、そう話を戻す。
しかたないことだけど、情報がなさすぎると補足が増えて、話が一直線に進まなくなっちゃうもんだ。
でも、この横道がないと、最初の問いの答えが理解できないんだろうな。




