第4話 飛頭
「私は……」
と彼女が話し始めるのに、俺は自分で口にした「死」の恐怖から先走って被せてしまった。
「なんかの厨二病?」
と。
いくら一目惚れするほど好きという感情があっても、彼女の「身体を調べられては困る」なんて言い分をすんなり受け入れられるほど、近くに迫った「死」の恐怖は薄くない。さらに言えば、俺は根拠もなしに言い包められるほどアホじゃない。
そんな思いが強すぎたんだ。
黙ってしまった彼女に、俺はさらに畳み掛けた。
「全身にタトゥーでも入っているの?
医者は気にしないよ。
それとも、もしかして、きみ、男だった?」
LGBT……、とかなんとかといったかな?
俺の今までの人生で身近にそういう人がいなかったし、さらにどう言ったら良いか咄嗟にわからなくて口ごもる。それこそ、「俺は理解してる人格者なんだ」みたいな、嘘くさい余裕の微笑みなんか見せたくなかったし。
「……きみねぇ、自縄自縛で絶句しているんじゃないわよ。
……時間がない。しかたがないな」
「なにが?」
俺は質問しかしていないような気がする。でも、そうなってしまうのは俺のせいじゃないだろう。
それでも俺には、彼女がなにかを決意し、眦を決したように見えた。
「見て」
彼女は簡潔にそう言うと、両手で自分の両こめかみを押さえた。そして、すっと持ち上げた。
見違いじゃない。彼女の首と肩の間に、黒髪と俺の枕が見えた。
俺は、生まれて初めて脳に酸素が届いていないと感じた。頭ん中でいろいろな考えがぐるぐると渦巻きすぎて、脳の処理能力を超えたんだと思う。驚いてなんかの反応をするより、呆然とする方が先だったんだ。
結果として、俺、すごく間抜けな言葉を口に出した。
「……きみ、首、デタッチャブルなんだね?」
「これ見て、言うことがそれ?」
なんというか、まぁ、間抜けなボケに対してベタなツッコミという、しゃーもない会話だ。
本当であれば、もっと恐怖とか異常事態への嫌悪とかありそうだけど、衝撃が強すぎて現実感がまるでない。夢の中での会話と同じだ。
だいたいにおいて、首が抜けるって、さらにその抜けた首が話せるってどういうことなんだろ?
声帯の正確な位置なんて知らないけど、それが首側についていたとしても、肺がなきゃやっぱり話せないんじゃないか?
首の断面が見えたらもっと恐怖もあっただろうけど、俺の頭にはそんな疑問の方が渦巻いていた。血とか吹き出ていればまた違ったとは思う。恐怖のあまり、腰が抜けるとか、泣き出すとか……。
けど、ただただあっけらかんと首を持ち上げられただけと、「そういうもの」と納得するしかない。
で、こういう現象として納得するしかないにせよ、俺の頭の中の論理は違う。
彼女が本当に人類なのか、それとも妖怪のような怪しい存在なのかとかもひっくるめて、疑問がどこまでも膨れ上がっていく。
俺は腰が抜けたようにベッド脇の床に崩れ落ちた。そして、頭の中の疑問を立て続けに口から出した。
「きみは、ホモ・サピエンスなの?
もしかして、首がとれる病気とか?
リハビリとかしたの?
もしかして磁石でくっつけていたりした?
それとも、人外の存在?
ならいっそ、首から胴体が生えてきたりしない?」
「やかましい!」
そう言われて、俺は黙った。このお淑やかと言っていい外見の首女に、こんな風に怒られるとは思っても見なかった。とはいえ、さっきの「急げ!」といい、彼女の本質はこういう人なのかもしれない。
だから俺は無理に逆らわず、ただ目でその先の回答を促したんだ。




