第35話 武器
自分で言っていて、ネット上で文筆家や作曲家として生きていくのは難しいってのはわかっている。
現に、この国でそれらの職業だけで食べて行けている人が何人いるだろうかって考えるだけで、俺の提案、実は現実離れしているんだ。
それでも、彼女の心が闇に沈んでしまうよりは絶対にマシ。俺はそう思ったからこそ、この案を口に出した。
だけど、彼女に天を仰がれてしまうと次の言葉が出ない、
そして、この欲まで否定されたら、彼女に満たされる可能性がある欲は残されていない。そうしたら、絶望しかないよね……。
そう思ったら、俺の口は次から次へと言葉を紡いでいた。
「たとえば、小説を書くのはどうかなって思ったのには理由があるんです。
パソコンがあれば口述筆記で書けるし、つまり身体がいりません。俺が学校に行っている間、うちの両親もいませんから、寝る以外にやれることができるんです。
それに、小説を書くための道具と、小説を書くために調べる道具が同じパソコンですから元手もいらないし、印税が入るかもしれないし、ネット接続はウチは無制限だし……」
「いや、いいから」
「ごめんなさい」
俺はまたもや素直に謝った。
「違うのよ。謝らないで。私、書くから」
「……えっ!?」
俺はびっくりしすぎて、その反応にも間が空いてしまった。
だけど、彼女が前向きだと言うなら、それはそれでいいことじゃないか。なにもつまらない現実的なことを言って、ヘソを曲げさせることはない。
「じゃあ、理沙さん専用のパソコンを確保します。ちょっと型落ちですけど、ありますから」
「よろしくお願いいたします」
話、早いな。いや、早すぎるな。なにか、裏がありそうだ。
「なによ、その顔は?」
「理沙さん、決断が早かったなって思って……。
まさか、恋愛小説なんか書かないですよね。本当はなにをする気ですか?」
「いくら私だって、小説書いてそれがバズるだなんて考えてないし」
「……ですよね。では、どうして?」
俺の問いに、彼女は大きく息をついた。でも、これ、ため息じゃないな。
「武器だってことよ」
決意表明でしたか。
「武器だとしたら、どう使うんですか?
存在がバレちゃならないから、飛首族のことなんか書けないでしょ。それに、いかに匿名で書いたって、基本、ネットは身元はバレているものですし」
俺の指摘に、理沙さんは今度こそため息をついた。
「なんでわかんないの?」
「わかりませんよ。
ってか、理沙さんの方が現代のネットの状態理解してなくて、無茶しようとしてませんか?」
あ、くそ、ため息を2回ついたな?
「人をババア扱いするな。私たちは、飛首族よ。
なんで首繋がり族の時間的尺度でものを言ってるの?」
そこまで言われて、ようやく俺にも理解できた。
俺が俺の個人情報で、普通にあちこちのユーザーになればいい。
そのあと、そのアカウントは休眠させず、たまに駄文を書いて維持をして、Ex(旧Qwitter)にも紐づければいい。
で、俺は警察に、財布を落としたと届け出をしておく。
ざっとの考えだけど、理沙さんの考えからそうは違ってないよな。
で、そのアカウントが武器になるのは最低でも10年後。
20年は寝かせすぎかも。
そこからそのIDが奇妙な行動を取り出しても、俺への紐づけはできない。というか、俺は簡単に炙り出せるだろうけど、そこからは時の壁に遮られて証拠がないんだ。




