第29話 滑稽
だけど、日常をまわせるようになったとはいえ、俺たち2人の人間の間でとなると問題は山積していた。
まずは1つ目。
彼女と俺がいるのはいつだって俺の部屋。両親が暮らしている同じ屋根の下だ。
つまりさ、いつだっていつだって、ひそひそ声でしか会話できない。たった一週間で、彼女は声の出し方を忘れかけていた。
日曜日に両親が揃って出かけた日に、久しぶりに声を出そうとしたのに彼女はもう普通には喋れなくなっていた。ひそひそ声しか出せないんだ。これはヤバいと思ったね。
今、俺は高校2年。進学して下宿で暮らすのも、あと1年半は先だ。2人で隠れ暮らし続けるには、1年半はあまりに長い。その間に、存在がバレちゃなんねってのが強迫観念みたいになって、失語症みたいになっちゃったらどうしたらいいんだろう?
1年半かけて喋れなくなって、その後10年かけて話せるようになるなんてことになったら、あまりにアホらしい。
2つ目は、200年は生きているであろう彼女にしても、男の身体に乗るのは初めてのことだってこと。
ここから先はかなりひどい話になるけど……。
俺が寝ている夜中というより明け方、彼女は俺の、若い男子の身体の衝動にびっくりした。
彼女は俺を叩き起こし、「どうしたらいい?」って、深刻な表情で聞いてきた。俺としても酸素が足らない首だけの状態で、そんな判断に困る難しい話を振られても困る。
「このまま処理しておいた方がいいの?
それとも身体を返そうか?」
という具体的な彼女の質問が、さらに俺を絶望のどん底に落とした。
だってさ、これ、恥じらうのもうれしがるのも違うだろ。身体1つに頭が2つ、すべてバレているっていうより、生理現象を共有している中で、どう恥じらえって言うんだ。さらに俺の身体で俺の身体の処理をしているのを、感覚無しで第三者として見せられたら、滑稽なだけでうれしいわけもない。それが、彼女の行動であったとしても、だ。
万度そのときだけ身体を返されて、首を乗せ換えるってのは、もっと……、恥ずかしいというより自らの滑稽さが忌々しい。
とりあえず、すべてにおいていかがわしいとか、アホらしいとか、そんな感情しか湧かない。でもって、いかがわしい話なのに色気というかいやらしさがぜんぜん乗らないってこの感じ、救いがないよな。一応、マジで恋人同士の身体に関わる話なんだぜ、これでも。
彼女の身体と交換ということであれば、もう少し違った感情があったはずなんだ。恥じらいだって、等価交換になるからね。だけど、これも言ってもしょうがなさすぎることだ。
彼女だって、俺に対して茶化した態度なわけじゃない。本当にただただ狼狽していたんだ。
本来ならば……。彼女とこんな話になったら、もっと、こう、青春的ななにかがあって、なにかの発展があって、一生の思い出になるようなことがあるべきだろ?
なのにさ……。
かくして、俺は自己処理すらもうわけがわからなくなった。えっちができないのは覚悟していたけど、そんな生易しいもんじゃなかったんだ。それ以上にプライベートで微妙なポイントを滑稽ななにかに変えられてしまった気がした。
あくまで結果的に……、とはいえ……。




