第28話 日常
こんな状況の中でも、日常が始まった。
俺は朝起きると自分の首を胴体に乗せ、親に怪しまれないように朝ごはんを食べて学校に行く。毎朝のこととなると、帽子をかぶるみたいな感じで自分の首を肩に乗っけだすから不思議だ。
で、朝食の量は増えたけど、成長期だということで母親も怪しんではいないようだ。とはいえ、いきなり毎日欠かさず学ランを着るようになったのは驚いているようだ。
我が校は校則がゆるゆるだから、ここまで気温が上がっているとTシャツで通学するやつが多い。その中で暑がりの俺が学ランだもんな。母親だけでなく、クラスのヤツらからも奇異な目で見られても仕方ない。とはいえ、首のカラーが飛首族の証の首の一筋の線を隠してくれるんだから仕方ない。
登校後は、部活はパスしてできるだけ早く帰れるようにしている。校則がゆるゆるだってだけでなく、みんななにものにも縛られないから、つまらない授業だと途中でフケちゃうこともあるけど、いざというときのために俺は普段はできるだけ真面目にしていることにしている。早く帰れるにしても、授業をエスケープして帰るのは避けているってことだ。
首だけで12時間は耐えられるにしても、その辛さは相当なものだ。だって、生命に関わる12時間なんだから。だから俺、遅くても16時には帰ることを自分に課している。8時に彼女を首だけにしてるからね、4時間の余裕を見ての8時間だ。ぎりぎりでも17時。でも、この17時は絶対に当たり前にしちゃいけないだろうな。
で、こんなノルマがあると、自転車も慎重に漕ぐようになった。事故って帰れなくなったら、彼女の死に直結するからね。
俺は帰るなり、首を乗せ換える。首だけでいる辛さがわかっているだけに、家に入るなりに自分の部屋に駆け込んでいるんだ。彼女の顔色はみるみるうちによくなり、大きく息をつく。
でも、これはせいぜい2時間だけだ。
母の呼び声で、俺は居間に行って夕食を食べるからだ。
そのあとは、胴体をそれぞれに使いあう。俺も勉強があるから、脳への酸素の供給は計画的にしないといけないし。数学なんかやっていると、時として大量に酸素を使うことがあるみたいで、問題が解けたと思った瞬間にブラックアウトなんてこともあるんだ。それに、暗算だけでは限界があって、どうしてもペンを持たないと解けない問題もあるし。そのあとの就寝時には俺は首だけになって寝る。
朝まで間に、彼女は彼女の首タンクを満タンにしつつ、俺の身体を自由に使う。とはいえ、出かけることはできないし、俺の部屋の中をうろうろするだけになってしまう。
そんな中で唯一の救いは、ネットへのアクセスができるということだ。それがなかったら、彼女は閉塞感でオカシクなっていたかもしれない。でももちろん、だから大丈夫ってことにはならない。気晴らしはこまめに機会を見つけていかないといけないんだろうな。
で、俺にとってもネットってのはありがたい。学校から帰っての2時間は、ネット経由での授業動画や歴史動画を眺めるだけって勉強なら首だけでもできるんだ。酸素消費も安定しているから、ブラックアウトも起きないし。
こういうところは、私大より国公立を目指していてよかったところだな。
こんな感じで、日常生活って意味では、かろうじて俺たちに日々を過ごせていたんだ。
あくまで日常生活、ではね。




