第26話 純粋
またしても、俺の思考は堂々巡りを始める。
彼女に抱きしめられ、キスをされる。それって本来、天にも上るような喜びに満ちた人生のイベントのはずなんだ。なのに、それがうれしくないって……。
これって、どうなんよ?
すべてがこんなに茨の道だってのかよ?
思考がひたすらに堂々巡りするけど、自分ではどうしようもない。俺、正解があるかどうかもわからない問題を解こうとしているんだから、すぱんと答えが出せないの、当たり前だよね。
それでも俺、わかったこともある。
告白して受け入れられて満足。
連絡先をゲットできるだけで満足。
目を合わせて話せるだけで満足。
手をつなげただけで満足。
キスができただけで満足。
この繰り返しで、恋人同士の関係って行くところまで行くんだ。
つまり、それぞれに満足しても、そのポイントで満足し続けられないってことだ。心の中のゴールポストは、本人の意思にかかわらず、どこまでも動き続けてしまうからだ。
俺、今まで考えたこともなかったけど、きっと俺の中でもそれが起きてる。満足すると同時に、次に向かって思考だか本能だかが走り出しちゃっている。
そして……。
俺の場合は、かなり初期の段階で行程が止められてしまう。さっきキスをしたけど、もうこれ以上は……、ない。手を繋ぐことすらない。だから、ここで俺自身の満足の進行を止められないと……。不満でいっぱいになっちゃうんだろうな。
俺は考え続けていたけど、それには無頓着に彼女は言う。
「ごめんね。だけど、私、止めたじゃない」
「わかっているよ。俺は後悔しているとか、そういう話じゃないんだ。ただ、びっくりしただけ」
俺の言いわけに、彼女は心底……、って顔になった。
「……可哀想に」
やめてくれよ。マジで悲しくなるだろ。
「……でもさ、自業自得だと思っているだろ?」
これは、めめしい男と思われたくなくて、必死に絞り出した誘い受けだ。可哀想なんて言われ出す前に、なんとしても笑いでもなんでもいいけど、雰囲気を転換しないとだからね。
だけど、彼女の答えは存外に真面目なものだった。
「そんなことは思わないよ。律くんがいなかったら私はそろそろ死んでる時間だし。それが、今もこうしてきみと話せている。これはもう、完璧に律くん、私の生命の恩人ってこと。
なのに、私は、なんの恩返しもできない。それが、まわりまわって可哀想だなと思ってね」
そう言われると俺も、愚痴にしたってもう少し言いようがあったかなって思った。それにさ、えっちがしたいんだろって見透かされるような話になるのも違うよな。実際俺は、そんなこと考えてないんだから。
そうだな、この構図は俺がいくじなしで、彼女がそれをフォローしてくれているってことだ。そうとも言えるんだよな、これ。
「……俺が、無償の愛ってのに徹底できればいいだけの話」
ようやく絞り出した俺の言葉に、彼女は異を唱えた。
「話としちゃ美しいけど、人間関係としてはいびつだからね、それ。まれにありがちかもしれないけど、理想論でもなんでもないから。
少しでも、私がなんとかできれば……」
そんなことを言わせるような弱音、吐いちゃいけなかったな、俺。
それとも、まさか……。恋ってのを純粋に思う俺の考えが間違っているということじゃねぇだろうな?
冗談じゃねぇぞ。
この際だから、話を変えよう。なんかよくない流れだ。




