第24話 懊悩
俺の胸板で、俺の頭が抱かれている。
抱いているのは彼女だ。だけど、抱いているのは俺の身体だ。まちがっても、目を閉じてそこに身を預けるといった気にはなれない。
それに、首だけではあっても、ほのかに彼女には彼女の体香があった。それが俺の胸板で抱かれると、まったく感じ取ることができない。それどころか、俺はこういう体臭だったのかとショックを受ける。
彼女に身体はない。それは最初から納得している。だけど、彼女の存在自体を感じられなくなるってのが、しかもそれが彼女の行動の結果によるものだってのが、俺の混乱に輪をかけた。
俺は、行動こそが人格を表すものだと思っている。容姿より、はるかに人格を示すのはその人の行動ということだ。だから、俺の身体に俺が抱かれるのも、彼女の人格や思いの発露であって、俺はそれを喜ばねばならない。
喜ばねばならないのに、どうしたことか、それこそまったくうれしくない。
自分の胸の鼓動、ぬくもり、それすらひたすらにうざったい。
もちろん、今までに自分で自分の脈を取ったことはあるし、心臓の鼓動も感じていた。だけど、あまりに当たり前のことだけど、自分の胸に自分の耳を当てて聞くことはなかった。それがなんか……、いいや、これは俺が混乱しているだけだ。こんなことになって、混乱しないほうがおかしい。そうだ、絶対混乱しているだけだ。
俺はそう思い込もうとし、それ以上に湧き上がる疑問にわけがわからなくなりそうだった。
問題点を整理しようと必死になればなるほど、理解ができなくなる。
大前提として、彼女の行動はどこまでもまともで普通だ。
となれば、彼女の行動に違和感を感じた俺が異常なのだろうか?
彼女の行動とは別に、俺は俺の身体に違和感を感じているという、あくまでそれだけのことなのだと信じたい。
でないと、俺が彼女を好きだと思ったのは、あくまで肉欲、性欲に属するもので、仲間の安全のために命を捧げる覚悟を示した彼女の人間性を好きと思ったのは勘違いだったということになってしまう。
それって、最低じゃないか?
「……あのさ」
思い切って俺、話しかける。
「なに?」
「自分の身体で自分を抱いたことってあった?」
「……ないと思う」
そっかー、ないかー。てか、まぁ、やらないよね、そんなこと。
とはいえ、日本の古い映画だとかで、そんなシーンがあったかも。金色の目の侍っぽいのが、自分の首を抱えて出てきた。あとはデュラハンかな? デュラハンってのは、アイルランドのおばけで、自分の首を抱えて出てくるってやつだったはず。
あ、でも、抱えるは抱くとは違うか。
考え込んでしまった俺に、彼女は聞く。
「……そんなこと言い出すってことは、なんかあったの?」
「すっごく……、なんて言っていいか……。
違和感がある。そして、嫌な気持ちになる」
「どういうこと?」
そう聞かれた俺は、すべて話してしまうことにした。だって、俺は彼女とはできるだけ話さなきゃって思ったばかりだからだ。
「自分が自分に抱かれて、本当はきみに抱かれたはずなんだけど、なんか報酬系が発動しない。つまり、なにかをもらった気がしなくてうれしくない」
俺は来年受験生になるから、勉強の効率を考えてPCDAサイクルとか、報酬系とか自己管理に使ってる。だから、こんな言葉を使っちゃったんだけど……。でも、この言葉自体がわかってもらえないんじゃないかと思って、後半の言葉を付け足したんだ。
彼女は俺の言葉に一瞬固まったけど、俺の首をすいっと掬い上げるように持ち上げた。
「これならどう?」
そう言って、彼女はウィンクして自分の唇を俺のと重ねた。
衝撃が来た。
頭を殴られたような、文字通りそんな感じで。
目を開けていられない。
一気に息苦しくなって、視界が暗くなる。
俺は酸素を求めて、口をぱくぱくとさせていた。
イラストは花月夜れん@kagetuya_ren さまから頂きました。
首と身体が違うので、肩幅広めです。
ありがとうございます。




