第23話 帰還
そんなことを考えていたら、窓の外がいくらか白みかけてきたのに気がついた。
朝日が、明るさがくる。
そして、部屋の外から密やかな足音。
帰ってきた。
彼女が帰ってきた。
そっとドアが開き、彼女の姿が見えた瞬間、安心のあまり俺の視野はブラック・アウトした。
そのあと……。
俺は野暮じゃないからね。「どこに遺体を隠してきた?」なんてこと、聞かなかったよ。「言わぬが花」ってな言葉もあるけど、「聞かないのが花」ってのも確実に存在するんだ。
気がついたら、俺は自分の身体を取り戻していた。
あらためて、自分の身体のしっくり加減に感動した。それはもう、全然苦しくない。深呼吸すればしただけ、身体に酸素が取り込まれるのを感じる。
そして彼女は、丸まった掛け布団の中で、視界だけを確保していた。きっと、昨夜の俺のように、息苦しさに耐えているに違いない。
首だけの身体になってみなけりゃ、わからないこともたくさんあるんだな。と、自分でも一般化できないだろうなって確信できる教訓を思う。
「ありがとう」
俺はそう言って、彼女を抱きしめた。
「こちらこそ、ありがとうございます」
そう言って彼女は目を伏せ、まつ毛をそよがせた。
身も心も吸い取られるような吸引力を感じる。これを人は色気というのかもしれない。残念だけど、俺はまだ高校生で、この魅力が色気というものとイコールで結べるものなのかなんて全然わからない。だって、いわゆるお胸やお尻はないんだし。
それでも、俺は俺のすべてを賭けて、この女を守りたいと思ったんだ。
身体がなくても恋ができるのかなんて話以前に、俺たちはもう人として助け合うことすらできない。彼女にドアを開けてエスコートするなんて、もう夢のまた夢。今さらにこれからの人生への予想に俺は竦んだ。つまり、えっちどころか、まともなデートですらもうできない。でも、それでも、俺はこの女を守る。
「首だけでいると苦しいのがわかった。だから、ちょいちょい身体を使い合おう」
俺の提案に、彼女のまつ毛が動かない。俺に対して、申し訳ないと思っていて、同意しかねるって意思表示だろう。これからは、もっと会話を増やしてきちんと話ができる関係を目指したいもんだな。
「気にしないで。互いに身体が楽なのがいいよ」
俺は重ねてそう言って、自分の首を持ち上げる。
首にも胴体にも神経節ができていて、胴体はあらかじめすると決めた行動をいくつかだけは行える。とはいえ、人目を気にしないとしても、お使いに行って来いなんて複雑なことは無理。だいたい胴体には目がないんだから、目的地までたどり着けない。
でも、首の交換ぐらいなら問題ない。
「ありがとう」
そう言って、俺の身体の上に乗った彼女は、そのまま首だけの俺を抱いた。
ここで俺は、猛烈な違和感を覚えた。




