第22話 独首
息苦しい。
視界が暗い。
空気は確実に鼻を通っている。だけど、吸っても吸っても苦しい。
俺は目を開ける。
俺の部屋だ。俺は、ベッドの上に置かれていた。そして、頭の上には掛け布団が掛かっているようだ。とはいえ、目の周りはうまく掛け布団が避けられていて、視界が確保されてる。うまく隠したもんだ。きっと誰かが俺の部屋に入り込んできたとしても、俺を見つけることはできないだろう。
理由は簡単だ。
俺を探しに来た人間は、当然俺を探す。つまり、俺の大きさを探す。生首の大きさを探しはしない。小さく丸まった掛け布団の中を探したりはしないんだ。
俺は彼女に親の車の駐車位置、キーのありかを教えた。彼女は自分の体を抱き上げて、俺が失神している間に俺の部屋から出て行ったのだろう。
不意に、不安がこみ上げてきた。俺は今、生首状態なんだ。そして、彼女が戻ってこなければこのまま死ぬ。
だって、空気を吸っても吸っても苦しいんだ。これが、首だけでの生存の限界なのだろう。
ああ、もうそこいら中に噛みつきたい。手足があればもがくこともできるのに、首だけではつらさ、苦しさを発散する方法すらもない。せめて、歯を食いしばるしかできないなら、せめてなにかを噛んで紛らわしたい。
俺の目は、せわしく動き、時刻を確認する。
朝の4時ジャスト。彼女が轢かれてから12時間たったことになる。俺が失神したのが20時すぎ。21時にはなっていなかったんじゃないかな。失神する本人が、時計を見ながら正確にその時間を確認なんかできないからね。おおよそでものを言うしかない。
となると、俺の首がとれるようになって、さらに両親が熟睡して音を出しても良くなったのが深夜1時から2時の間として、彼女は2時間から3時間は出かけていることになる。そして、明るくなってから人目につく状態で帰るのは避けたいはずだから、遅くともあと30分以内には戻ってくるはずだ。今の季節、5時には完全に明るいからね。
となると……。遺体処理に1時間かかるとしたら、片道1時間以内、ここから40km半径内に隠されたと推理ができる。
ふう。
苦しさから目を背けていても、苦しいものは苦しい。考えはまとまったけど、脳に酸素が行き渡った状態だったら、もっとぜんぜん違う結論になるかもしれない。でも、考えごとができることの確認はできた。
彼女が戻ってこないかも、という不安がないといえば嘘になる。
遺体処理で車を使ったりしている以上、戻ってくる確率は高いとは思う。だけど、彼女の家がウチの近くだとすると、遺体を自分のうちに隠すことが可能だ。そうなると、車を使う必要もない。その場合、俺は……。
この先もっともっと苦しくなって、苦しさを感じなくなったら終りってことなんだろうな。
不思議と冷静で、不安はあってもパニックにはならなかった。
きっと、パニックになるほどの酸素が脳に供給されていないんだと思う。それとも、飛首族って、こういうものなのかな?
パニックになったら、酸素がなくなって終わりだもんな。そういうふうに進化してきていてもおかしくはない。
今の俺に正答はわかりようがないけれど、その一方で昨日までの俺だったらもっと焦っていたとも思う。
俺が生首状態で死んでいたら、親はさぞや驚くだろう。
警察が来て、ニュースになって、司法解剖があって、マスコミの報道がぴたっと止まる。
ってことは、彼女は戻ってこなきゃじゃん。でないと、飛首族のことがバレる。
彼女は戻ってくる。安堵と同時に、やっぱりダメだとも思う。
なんでこんな簡単なことに、気が付かなかったんだろう?




