第21話 失神
「俺が留守番しなきゃならない理由があるんですか?」
俺の問いに対して、彼女の返答は予想外に合理的だった。
「私の身体に加えて、きみの首まで運ぶの?
首って重いのよ。きみの身体の筋力は、それに耐えられる?
言っとくけど、毎度2往復を強いられるなんて、嫌なんですけど。人目につくし、時間もかかるし」
なるほど。
でも、なぁ。
それで大丈夫なのかな?
「首って、どのぐらいの重さなんですか?」
思わず聞いた俺に、彼女は答える。
「平均6kgだって。
私も計ったことあるけど、もうちょっと軽かった。でも、君のは重そうだね」
「顔がでかいとか言いたいんですか?」
「単純に男だってだけで、一回り頭蓋骨が大きいじゃん。たとえ1.1倍だとしても、重さとなったら1.3倍以上よ」
そっか。
3乗になるもんな。
彼女はさらに続ける。
「戦国時代、敵の首を取ったら腰にくくりつけたらしいけど、3つとかになるともう立つのも大変だったらしいよ。
あとはきみの身体の筋力の問題だけど……。
きみの身体はトータル50kgにもなる2つのものを運び出し、車に乗せ、運転して処理し、戻ってこなきゃならない。40kgで1つの方が絶対楽だよね」
うん、そりゃそのとーりだ。具体的に数字で言われると、俺、そこまでの体力はないかも……。
てか、そんなことも言われないと理解できないほど、俺の頭は朦朧とし始めていた。ウイルスが、俺の身体をどんどん改造しているのだろう。
首筋に違和感を感じるけど、特に痛いとかの刺激はない。
……でも、突然首が落っこちたら嫌だな。仰向けに寝ていた方がいいかもしれないな。
俺は床に横になり、そのまま彼女に問いかける。
ベッドの上の彼女は死角に入ってしまって、どんな表情なのかもわからない。
きっと俺の首が落ちたら、さっきみたいに顎だけの動力で自力で俺の胴体の上に乗ってくれるだろう。ま、想像するとなかなかグロくはある光景だな。
「……それでもなんか、俺にできることは?」
「人一人の身体が処理されるところ、見たい?」
「嫌です。それは嫌です」
スプラッタは嫌いだ。そのまま埋めるので土をかけるような風景も嫌だ。どーせ、どんな手段であってもろくな光景じゃないのは想像がつく。
「なら、留守番してなよ。
それにね、もしもなにかあったとき、知らないことで傷ついたり、勘ぐったりはできないものよ。由良くんの勝手はあるにせよ、巻き込んじゃったのは事実だから、私の問題は私が片付けたい」
彼女の声が遠い。もう、俺は聴覚も保てなくなっているみたいだ。
「……はい」
なんとかそう返事をする。そりゃあね、もちろん手伝いたいと思ったさ。運命共同体なんだから、なんとかしてあげたいとも思ったさ。
だけど……。
本当になにもできないんだよ。首だけになった俺は、足手まどいになるだけでなんの手伝いもできない。そもそも自力で移動することもできないんだから。
それに、こんなにぼーっとした頭じゃねぇ……。
「意識を失う前に、鍵の置き場と駐車場の位置、車種とナンバーを教えて」
彼女の声を遠くに聞きながら、俺はなんとかそれに答え、さらにもううわ言のようなあやふやな口調で、それでも必死に付け加えた。
「お願いだから戻ってきて。俺を独りにしないで……」
そこまでだった。そのまま俺は意識を失った。




