第20話 隠蔽
ヤバいな、これ。
婉曲だけど完全に尻に敷く宣言だ。しかも酷いことをしちゃったことを責められている。逃げ場がないじゃん。
それに、この尻に敷く宣言の意味、わからないほど俺も鈍感じゃない。飛首族の一員としても一番の下っ端だということだし、長い寿命をどう首繋がり族の社会とすり合わせて生きていくかとかのノウハウについても頭が上がらない。この先、子育てとかのイベントで力関係が変わることもない。
俺は好きという感情だけで暴走した。
でももう、それは許されない。俺が飛首族の一員になった以上、俺の暴走は一族全員の危機に直結する。そういうことを、俺の思いの暴走にできるだけ触れずに言ったのは、彼女の優しさなのだろう。
正直、不安はある。
こういう多くの問題を、好きだという気持ちだけで俺はすべてカバーできるんだろうか? って。
って、もう手遅れなんだけど。
そういう話もまったく聞かないまま、実力行使したのは俺なんだし……。でも、彼女は優しい。
「それよりね、由良くん。
きみはそろそろ失神するよ。後でも話せることを話している場合じゃない。
で……。
私の方から、由良くんに確認したいこともあるんだけど……」
「……すみませんでした。なんでも聞いてください」
うん、たしかに俺、一方的だったし、なによりもう時間がないらしいし。
「きみの親御さんは、車を持っている?
この家に車庫はあったみたいなんだけど、物置として使われているみたいだったから……」
「持ってます。近くに駐車場を借りてます」
俺の返事に、彼女はあからさまに安堵の表情を見せた。
「それはありがたいな。私、きみのご両親が寝静まったら、きみの身体を借りて私の身体を運んでしまいたいと思ってる。私は運転免許証持っているから、きみの身体で運転できるよ。きみのご両親には、無断で車のキーを持ち出すってことになっちゃうから申し訳ないけどね」
「あ、それはいいですね」
俺は、話の後半はあえて無視して言った。車って、誰かに貸していいものなのかどうかすら、俺の知識の中にはないからだ。それでも、事故があったときの保険とか、なんか問題があるような気はする。
それでもまぁ、遺体を庭に埋めなくていいってだけでとことん助かる。
「まだ喜ばないで。私の身体をどこに隠すかって問題、輸送方法ができたって以上の進展はないんだから」
「……はい」
「まぁ、私、いつかこうなるかもと思って、前々から目星をつけている場所はあるのよ。
今はどこでもライブカメラがあるから、思いつきでなんとかなるような問題じゃないしね。とりあえず、そこまで行ってくるわ。
もちろん、車のナンバーもライブカメラで見られる前提で動くから、心配しないで」
そーですか。
俺は能天気に生きてきたせいか、自殺とか考えたことがない。だから、自分の死体処理なんてのも考えたことがない。そういうの考えだすと、きっと彼女が言うようなことまで無視できないんだろうな。でも、いろいろ大変すぎない?
とはいえ、猫も自分の死体を見せないっていうし、本来、動物ってそういうものなのかな。
「俺も一緒に行きます。鍵の置き場と駐車場の位置、どの車かってのもありますから」
「それは駄目。留守番していて欲しい」
なんでだよ。
なんか、俺にまだ隠していることがあるのかよ?
それともマジで、俺の身体を乗り逃げする気なのかよ?




