第19話 関係
まぁ、今まで名乗らなかった俺も悪いんだ。そう思うことにして、俺は自己紹介をしよう。
「俺は由良 律です。高校2年生。
失礼ですが、お名前をお教え願いたく……」
くそ、言い回しがなんか変な感じになっちゃったよ。歳上相手ってのをあからさまに感じていると、緊張するしな。
「山江 理沙。
自営業。西郷隆盛を見たことがあるよ」
「……俺のばあちゃんより歳上じゃん」
あ、今俺、馬鹿なこと言った。
「私の歳を聞いて、今から後悔しても遅いよ」
……頭ん中、一気にぐちゃぐちゃになった。
まず、理性は相手の歳がいくつであろうと、生命を救うのは当然のこと、と言っている。臓器移植のドナーになるのとおんなじだ。
次に、常識的な感覚は、17歳が100歳を遥かに超える女性に対して生命を賭けてしまったことに対して、すっきりしないと訴えている。
最後に、視覚や聴覚が、それはもう完全に好みのど真ん中の異性に惹かれまくっていて、常識的な感覚のすっきりしない感じを上書きしようとしてそうしきれないでいる。だって、外見はどう見たって、10歳代後半から20歳代前半なんだ。
飛首族のことといい、とんでもなく歳上だということといい、なんか彼女と単純に呼ぶにはハードルが高い、高すぎるな。
「それにね、私の歳がいくつだって同じことなのよ」
「……なにが?」
「一応言っとくけど、私の身体はおばあちゃんじゃなかったからね。もう死んじゃったけど、我ながらかなりのナイスバディーだった。
でね、私の見るところ、首繋がり族は自分の身体の衰えと、周囲の人の経年変化で年齢の自己認識を持つみたいね。でもね、飛首族はそもそも5、600年くらいは生きるから、首繋がり族のそのあたりの老化の意識とは大きな距離があるんだよ。例えとしては良くないと思うけど、由良くんだってペットのウサギが5年で老化していくのを、共感を持って見ることはできないでしょ?
ただでさえそんな感じで年齢感覚が違うのに、でも、それすらももう意味がない。だって、私が17歳でも217歳でも、律くんは私を抱けない。私の身体は死んじゃったから。
頭だけ残されて、その顔が若くても、歳取っていても、それはもう話す内容以外は由良くんの人生にとってなんの関係ない」
……言いたいことは、えっちという行動が人生のオプションから完全に取り除かれると、ってことか?
てか、それはもう、一般的な概念での子供のいる家庭は持てないって話でされたはずだ。
彼女の表情は厳しい。
ということは、なにが言いたいのだろうか?
「首繋がり族の女性でも、手術で外見を若く見せている人はいくらでもいる。結果として、由良くんは、顔だけの私の歳がいくつであっても本質的にわかりようがないし、子供を持って共に育てるという選択もない以上、それによるしがらみもない。
こうなると歳の差が、由良くんと私の間では、人生の経験値の差以上の意味を持たないんだよ。となると、きみと私の力関係において、きみが私に勝つことは絶対にない。
で……。ここからが私の言いたいことだけど、そんな話もしないうちに私に猿ぐつわして、強引に飛首族になる選択をしたのは由良くんだからね。おまけに髪の毛にまでガムテープ貼り付けて……」
……そのとーりだ。まったくもってね、そのとーりだよ。で、ガムテープはほんと、ごめん!
そして俺、彼女がなにを言いたいのか、その厳しい表情からよくわからされていた。




