第18話 長所
「俺が人間でいられるのも、あと数時間なんだよな?
今のうちに聞いておきたい。
飛首族になったとして、なにが一番首繋がり族と違うんだろ?」
俺は話を切り替えた。
一応謝られたんだから、引きずらない方がいいもんな。それに、自分の身体が変わってしまうわけだから、知っておきたいことでもある。
「首が胴体から離れても、半日は生きていける」
「それはもう知ってる」
「整理して話すから、前置きとして必要な事項なのよ」
「ん」
「寿命が長い」
「それは初耳。どのくらい生きられるの?」
そりゃ欠点ばかりじゃないだろう。長所も聞いておかなきゃね。
「長いよ。5、600年くらいはあるかもよ」
「ほー」
思わず声が出た。それ、どういう仕組みでなんだろう?
俺の顔を見て、疑問に感じているのを見抜いたのだろう。彼女は続ける。
「ちょっと考えればわかると思うけど……。
飛首族は、循環器系の肉体への負担とか、首繋がり族の比じゃなく軽いからね。胴体側に加えて首側にも簡易な循環器系があるし、2系統あるから制御はより精密だし。結果として私たちに高血圧は存在しない。
あと、血糖制御系も複数あるから、首繋がり族よりはるかに高度な制御がされていて、結果として肥満もない。そのかわり、空腹には極端に弱い。
さらにこれ、外的な淘汰圧の話なんだけど、制御系の異なる胴体と頭で、その大きさがあまりに違ったら周囲に違和感を感じさせちゃうからね。努力ではなく、機能としてある程度の体型維持できなかった個体は、首繋がり族に殺されちゃったのよ」
「……なるほど」
俺は再びうなずき役だ。
とはいえ、俺にも疑問は生じる。
「……長生きできて病気も少ないって、話がうますぎる。逆になんかの弱点があるんじゃ?
単に死なないってだけで、よぼよぼで生き続けるのは嫌だし。
脳細胞は再生しないって聞いたし、その寿命からして人は絶対ボケるものなんだと聞いたけど」
本来はめでたいことのはずなんだけど、長寿ってのに俺、いいイージがない。だって、飯も喰えないままベッドに縛り付けられて300年とか、最悪じゃないか。
それに対し、彼女は言う。
「私たちにアルツハイマーは確認されてない。たぶん、首だけで徘徊するって個体が淘汰されてきた結果。昔はそういう怪談もあったんだけど、近頃そういう話はまったく聞かない。300年の間に、淘汰されたというか、進化したというか……。
それに、飛首族でも、首繋がり族でも脳細胞は再生するよ。論文出てる。情報古すぎだよ。
あと、私たちは外見からは歳の想像、つかないかもね。外見もそれなりに長寿だから」
えっ、そうなの?
ってことは、この彼女、いくつなんだよ?
警戒して、おそるおそる聞く。
「……すみません、女性に歳を聞くのは失礼なのは知ってます。ですが、あらためてお聞きしたいのですが……」
具体的に数字で確認しなきゃ、言っていることがどれほど客観的に正確かわからないからね。
もっとも、この客観的というのは、俺の主観だし……。それに、30歳が20歳に見えるってのと、100歳が20歳に見えるのじゃ、話がぜんぜん違うからね。きちんと聞いとかなきゃ。
で、なんで、今の俺の問いに鼻で笑ったんだ?
「……名前より先に聞くのが歳っての、きみって、とても失礼な人だよね」
「あっ……」
ぐうの音も出ないってのは、これのことかよ。
さっきは完全に勝ったと思ったんだけど、自殺点とはいえ簡単にひっくり返されたな。




