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あなたのぬくもりは得られない  作者: 林海


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第17話 罵詈


 悪口の嵐が来た。

「馬鹿!

 間抜け!

 すかぽんたん!」

「知ってた。俺が一番よく、ね」

 俺はそう言い返す。

 ふん、痛くも痒くもないぞ。


「鬼!

 悪魔!

 ひとでなし!」

「そうです。そのとーりですが、なにか?」

 ふふん、余裕、余裕。


「変態!

 脳足りん!

 めんどくさいヤツ!」

「まだ語彙は残ってる?」

 ふふふん、首だけの存在が必死に悪口言ったって、俺にダメージは与えられないよ。


「お前の指、すっげー臭かった!」

 ……前言撤回。

 俺、なんか深く深く傷ついた。

 俺の指、臭かったのか?

 無意識に確認のために嗅ごうとして、俺は慌ててその動きを止めた。嗅いでいたら、絶対に追い打ちが来るところだった。危ねぇ、危ねぇ。


 そこへさらに追い打ちが来た。

「お前の身体、乗り逃げしてやるっ!」

「えっ、それはマジに止めて!」

 そうか、俺がそうされる可能性は、なぜかそれこそまーーーったく考えてなかった。それはマジでヤバい。ヤバすぎる。

 取り残された首だけの俺、それこそ馬鹿みたいだ。いや、まんま馬鹿だ。


 ショックを受けた俺の顔を見て、彼女は勝ったと思ったらしい。

「ふはははは、もう遅いんだよっ!

 きみはもう飛首族だ。

 首だけになったきみは、自分の身体を私に乗り逃げされて、なすすべもなく……」

 俺はここで彼女の追撃を無視してその首を持ち上げ、窓際の観葉植物の脇に置いた。


「元気だな。

 だけど、その啖呵はもう1日待ってからの方が良かったと思うぞ。今から数時間はまだ、俺はきみの首の生殺与奪の自由を持っているんだからな。

 さて、どうしようか?

 そうだ、このまま観葉植物と同じ鉢に植えようか?

 根っこが出るように胴体も生えてくるかもしれないぞ。ものは試しだからな、きちんと水もやろうじゃないか。

 おや、嫌かい?

 なら、飛頭蛮よろしく、空を舞ってみる?

 俺、文化部だから遠投力に自信はないけど、短くても空の旅を楽しめるよ。きっと、着地はすばらしいものになるぜ」

 しーーん。

 返答がない。


 歳上女性に説教する機会なんて、次いつ来るかわからないからな。しっかり語らせてもらおう。

「乗り逃げは、黙ってやるべきだ。

 宣言された以上、俺は自衛しなきゃだよな。俺にはその能力も時間も道具もある。

 さぁ、きみはどうするんだい?」

「……てへぺろ」

「いまさら遅い。そして、古い。さすがは歳上」

「……歳は関係ないでしょ」

 声が低くなったな。俺の言ったことが芯食って気にしたってことだ。ふふん、お返しだ。


「俺の身体は鎖で繋いで、可変ダイヤルロックの鍵を掛けとくことにする。胴体と接続はさせるけど、使わせはしない。残念だったな」

「……」

「この部屋にある、自転車の防犯チェーンひとつで用は足りるんだよ。きみは乗り逃げられない」

「……」

「ふふん、表情が変わったな。総当りで数字を合わせれば逃げられると思ったろ?

 そんな甘いもんじゃない。なんせこの鍵は、5桁だ」

「なんで、そんな……」

 あ、なんか勘違いしているな、コイツ。俺は不安神経症でも偏執的な人間でもないぞ。その危ないヤツを見るような目つきはやめろ。


「総当りで9999通りだったら、数時間で開いちゃうじゃないか。数学を、いや、算数を理解してたら4桁のは選ばない。強迫観念に囚われているとか以前の話として、だ」

「……こ、この数字偏執狂」

「謝れや」

「……」

「謝れっ!」

「……ごめんなさい。感情的になりすぎました」

 まあ、俺も非道いことをしたのは事実なんだけどね。でも、言っていいことと悪いことがあるよな。


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