第14話 闇黒
自分の人生を賭けて、誰かを好きになる。
このことについては、自分の人生でそういうことも起きるかもと想定はしていた。もちろん、良い結果になるのは確定事項じゃない。好きになった相手が俺を好きになるとは限らないんだから。だから、それはそれでいい。
だけど、相思相愛になって、なおそれでも結ばれないって……。
なにも、えっちのことを思ってのことじゃない。単に好きになった人のぬくもりを感じることすらできないかもってのが、ね。それに、なんとなくとだけど、俺も結婚して家族を持って子供ができて、一生を過ごしていくんだろうなって思っていた。それが、今の時点で全部否定されちゃうわけで……。
……待てよ?
でもさ、これ、「自分の人生を賭けて誰かを好きになって、その好きになった相手が俺を好きではない」に比べたら、ちょっとだけマシなんじゃないかな?
好きになった相手が事故死したり病死したり、それでずっと引きずるという話もそれなりに聞く。でも、それって幸せなのか、不幸せなのか……。
極端な話、その人に巡り合わなかったら、悲しみもない。だから会わない方が幸せって言える。だけど、巡り合わないまま一生を1人で過ごすのと、どっちが幸せなんだろ?
あまりに重い問いに、俺は一瞬とはいえ、深く考え込んでしまった。
今の状況を思い返せば、将来において不満というか、心のなかにどこか欠損感をおぼえるかもしれない。それは否定できない。だけど、俺の場合、彼女は生きてる。少なくとも、悲しみはないんじゃないだろうか。
となると、トータルではプラスじゃないのか?
俺は頭を振って、堂々巡りになりそうな思考の迷路を振り払った。
なんせ今は時間がない。厳密解なんか出せない。ざっくりした答えでもいいから、正しい方向を出す。それが今やるべきことだ。そして、俺の中で俺の結論は決まっている。
この際だ、そのためにもう1つだけ、先々の行動を決めるための確認しておこう。
「きみは、この日本で就職して働いているの?
戸籍はあるの?
それとも、そもそも日本人じゃない?」
質問は複数になっちゃったけど、実は確認したいことは1つだ。
「戸籍もあるし、日本人よ。
飛頭蛮の大元は東南アジアだけど、日本に来たのはかなり室町時代後期。だから、日本にもろくろっ首の伝承があったりするわけだし。
仕事はしているよ。でも、こうなると失踪したことになっちゃうけどね。まぁ、心のどこかでずっと覚悟はしていた。だから、士業みたいな依頼を受けての仕事だと失踪したときに回りへの迷惑のかかり方がえげつないんで、パックレ率の高いとこで働いてる。だから、明日から行かなくても探しもされない」
……なるほど。
身元はしっかりしているわけだ。
それにしても、生き方が制限されているっていうのは、マジな話なんだな。
で……。
俺が確認したかったこと。
それは、今までの人生で俺が知る機会はなかったけど、きっと世間の裏には闇黒などろどろした世界が隠されていると俺は思っている。これは妄想じゃなく根拠のある話だ。
もちろん、それを窺わせるのは日々のニュースからじゃない。でも、きちんと公表されている情報だ。この国で1年の間に行方不明になる人の数、それは普通に誰でも知ることのできる情報だ。その数字を知ったとき、俺は心底怖くなった。そして、その戦慄するほど膨大な分母に対し、ニュース等で取り上げられる分子はあまりにも少ない。
もちろん、借金や家庭の事情とかで消える人も多いだろう。だけど、万の単位の人が消えていて、そのすべてがそういう本人の意思で消えているとはとても思えない。
俺が恐れたのは、そういう闇黒世界に巻き込まれる可能性があるかどうか、だ。俺が巻き込まれたら、俺の両親だって巻き込まれる。それは避けたい。でもって、その可能性は無視できない。
だって、彼女が轢き逃げされたのは間違いないんだから。




