第13話 告白
彼女は目を伏せたまま言う。
「なんだかんだ言って、結局のところ、きみは後悔する。
81億人の全人口の中で、たった50人の飛首族なんだよ。どこまでも影に隠れて生きなきゃならない。
きっとね、きみは優秀なんだと思う。決断力もあるし、良い高校に行っているみたいだし、それだけでなく教養もありそうだ。きみの前途は無限に広がっている。
でも、きみが私のために機械を開発してくれたとしても、毎日8時間は私のために使わなくてはならないよね。となれば……、この国で政治家とか芸能人という職業には就けない。ずっと見られているからね。警察官や消防官、自衛隊もダメだろうね。
今、思いつかないだけで、ダメになる仕事はもっともっとありそうだ。
きみは、30年後とかに、『もっと違う充実した人生が送れていたかも』って絶対に思う。私は、自分の命をつなぐために、きみの人生を台無しにしたくはない。
繰り返しになってしまうけど、私はそう思うから、辞退させてもらうの」
俺、断られたくなくて、茶化したり話をそらしたりしてたけど、ついに彼女は正面から俺の提案を断った。
衝撃が来た。断られてしまった。
猫が毛づくろいをするように、俺はその衝撃を逃がそうとし、時計を見た。
彼女が酸欠で意識を失ってしまうまでは、そんな長い時間じゃない。俺は焦燥感をおぼえた。そして、その焦りが俺の口を動かした。
「……好きなんだ。
図書館で始めて見たときから、本当に好きになっちゃったんだ。
こんな、こんな馬鹿なことがあるだなんて、俺自身が一番信じられない。だけど、俺はきみが好きで、きみを失いたくない。そのためなら、生命を賭けたっていい」
彼女の伏せた目のまつ毛が震えた。
「うれしい。
最期に聞いた言葉がきみからのその言葉だというだけで、私は思い残すことなく死ねるよ」
「それじゃ、駄目なんだ」
俺は、そう食いついた。
「俺はきみを失わないためなら何でもする。いいさ、きみが酸欠で意識を失ったら、きみの口に指を突っ込んで噛ませればいい。4時間だっけで僕が飛首族になったら、ぎりぎりだけどきみを助けられるし」
ついに俺、最終通告といっていい考えを彼女に突きつけた。それを言っちゃおしまいよってことだから、遠回りばかりしてきたけど、もうそんなの言ってられない。
だけど、彼女のその冷静さが崩れることはなかった。
「……きみさ、その考えには大きな穴があるのに気がついている?
そもそもさ、私がきみを好きだと、好きになると決めてかかってない?
そこまでされたくない理由が、きみのことを嫌いだからって可能性もあるんだよ」
「俺が嫌いでもいいさ。恋愛ってのは、むくわれないもんなんだろ。なら、そのまんまじゃないか」
俺の反論に論理なんかなかった。ただ、言い返さねばと必死だった。
「さらに付け加えとくわ。
私がきみにほだされて、好きになって、そしたらもっと悲惨なことになるけど、それはわかっているの?」
「……どういうこと?」
今度こそ、彼女の言うことが俺にはわからない。
彼女が俺を好きになってくれるのなら、それこそ最高じゃないのか?
「私たちが恋人同士になってもね、抱き合うことすらできないんだよ。頭2つに身体が1つ。キスまではできるだろうけど、それで終わりよ。
心と身体は別で、愛を語ってすぐあとに風俗へ行くとか、抱き合う相手は別とか、きみがそういう選択をするのでなければ、ずっとえっちもできないし、結果として当然子供も持てない。
きみの熱情がなんらかの形でむくわれて、平穏な家庭という形に結実することは絶対にないの。なら、その思いはだれか別の人に向けた方がいいの、わかりきったことじゃない」
……正直に言って、この言葉が一番俺には堪えた。




