第12話 理由
俺は、自分で自分の言葉を励ます。
「掟の真意がそういうことなら、一族のところに行かなきゃいい。行かなくても、独自に生を全うすればいいだけだ。遠い空からなら、きみが生き延びたことも喜んでもらえるだろ」
俺の宣言に、彼女は笑った。でもさ、なんでここで笑ったんだろうな。
「降参。きみは言い出したらきかないね。
わかった。そういうことでいい。でも、さっきの質問には答えて。
知り合って1時間ぐらいの相手に、なんで生命を賭けるような……、いいえ、捧げると言っていいようなことを、きみは言えちゃうの?
……まぁ、言っているだけかもしれないけど、行動に移す覚悟があってのことなら、きちんとそこを話して欲しい。
私はきみになにも与えてないし、これからも与えられない。なのに、一方的にこれって、おかしいでしょ?」
そう問われて、俺、困る。俺自身、この選択の必然なんてわからない。
ただ、眼の前の、俺にとってはどこまでもきれいで、豪胆で責任感のある人が死にかけていることに耐えられないだけだ。そして、自分の生命は確保できていて、死ぬわけじゃない。彼女が生きるために、一定時間だけ身体だけ使わせてやればいいわけで……。
ああ、そういうことか。
「あのさ、俺の言っていることって、腎臓や骨髄移植のドナーになるのと変わらなくない?
ドナー登録する人は、別に見返りは求めてないじゃんか。だけど、腎臓を方っぽ渡したら、それから先は一生1つしかない腎臓で生きるんだよ。スペアがないんだから、そこには当然のリスクがある。
でも、それでも渡してあげたいものだろ?」
「その先が、なんで私なのよ?
それこそ、家族でもなんでもないでしょ?」
……そりゃそーだ。まったくそのとーりだ。次にはその疑問が湧くよな。
だけど……、だけどさ、肉親以外には自己犠牲を捧げられないって、それはそれでなんか違うような気がするよな。目の前の生命を救いたい、そしてその目の前の生命にはそれだけの価値があるって、そう思うのもアリじゃないのかな?
「きみはすごい人だと思う。
仲間のために、自分ではない誰かのために、生命を投げ出してそれで平然として笑っていられる。俺、アニメとか以外で、そんな強い人は見たことがない。それこそ、この世界から失ったらもったいないと思う」
俺の言葉に、彼女はまた笑った。
「……怖くて怖くて、泣いたらもう二度と冷静になれないとわかっていて、だから笑うしかないの。残りの数時間、泣きわめいても冷静さを保ってもその時間は変わらないしね。
どれだけ生きても、死は果てしなく怖いものよ。強くなんかないんだよ、私。それがわからない?」
彼女の問いに、俺はそのまま返した。
「わからないよ。
俺だったら、そんなカッコつけられない。最初から最後まで泣き喚いてる。残りの時間、みっともなく取り乱して、恥を晒し続けると思う。
カッコつけだってきみは言いたいのかもしれないけど、それができるってだけで、俺からしたら凄いと思う」
「……そっか」
彼女はそうつぶやくと、目を伏せた。
きっと、もっともっと言いたいことがあったんだと思う。でも、それを俺に言うに言えないんだと思う。
でも、数分の後、彼女は口を開いた。
「あのね。きみの提案、私ね、泣いて縋りつきそうなんだよ。
もう、嬉しいとかそんな言葉じゃ言えないほどだし、信じられないという思いもものすごく強い。そんなうまい話、あるはずないってね」
「あるんだなぁ、それが」
わかっていて、あえて俺は茶化して返す。
だけど、彼女の表情は変わらなかった。




