第11話 応酬
俺以上に、彼女は彼女で畳み掛ける性格みたいだ。
「私は現実的になりなさいと言っているんだよ。一時の気の迷いの美談じゃ、人生は生きていけない。そもそもね、知り合って1時間ぐらいの相手になんで生命を賭けるようなことを言えるの?」
「首が切り離されているときは、Y0uTubeのショート動画でも見ているよ。一瞬で8時間がすぎるし。だから、そんな大げさなことじゃない」
「いい加減にしなさい!」
「しているよっ!」
僕はそう言い返した。お互いに語気が強い。わかっていても、俺は感情を抑えられなかった。言いたくなかったことまで口から出ていってしまう。
「簡単に隠すって言うけどさ、人1人の死体を隠すことがどれほど大変か、わかって言っているのかよ?
今隠し通したって、何年か後に白骨死体とかで出てきちゃうことだってありそうな話だし、俺はずっと怯えて生きなきゃならないんだぞ。まして、ウチの庭先に埋めるしかないんだから、そう考えたら怖くて怖くて仕方がない。
それにさ、今の話、警察が信じるとでも思ってんの?
絶対無理じゃん。俺は殺人犯になるかもって、一生怯えて暮らすんだ」
俺はそこで一息つくと、さらに畳み掛けた。
「俺が死んだあとに、子や孫が巻き込まれることだってあり得るんだし。骨はずっと残るもんな。
自分の身を守るためだもん、俺の方が現実的なんだよ。
それに、糖と十分な酸素を供給できる機械でも作れれば、首だけでいる時間を8時間を16時間にだってできるかもしれない。16時間となれば、普通に社会人として破綻しないで生きられる。俺は大学生になって、学生の間にそういう機械を作る。工学系のところに行くつもりだから、生物系の勉強を独学でも足せれば作れるはずだ。
そうやって一日あたりの時間を稼げれば、きみたちの外国のアクセスポイントにだって行けるかもしれない」
俺がそう一気に言うと、彼女は再びため息をついた。
彼女は目を上げて、俺の視線を受け止めて言う。
「そうしたって、私のこの身体を隠さなきゃならないことに変わりはないでしょ。きみのは詭弁よ。
それに、外国のアクセスポイントに行っても、一族が助けてくれるかなんてわからない。だって掟破りだからね、私たちは。きっと、とても生きにくい」
「言いたいことはわかるけど、身体を隠さなきゃならないことに変わりはないなら、生きていくことも考えろよ!
なんでもかんでも、死んで解決なんて考えるな。
それから、なんだ、その掟破りって!
いくらなんでもそれ、冷たすぎないか?
そんな連中のために、死ぬなんておかしいとは思わないのかよ?」
売り言葉に買い言葉っていうのかな。俺、いつになく「掟」とやらに対して激昂してしまっていた。
「ねぇ、きみにはきみを大切に想う家族いるよね?」
彼女の俺を説得するための問いには答えず、俺はそのままオウム返しに聞き返す。
「きみこそ、生きていたら『よかったね』って、喜んでくれる家族はいないの?」
俺はそう言いながら、彼女を彼女の胸の上にそっと置いた。
彼女は目を伏せる。
この目を伏せたのは、肯定の意味じゃないな。言葉を選んでいるのだと思う。
「家族っていうか……、一族全部でも50人もいない。そういう意味では、一族みんな家族。
でもね、家族だからこそ、その家族を危険に晒すってのは許されないと思うの。私は、私たちはそう考えてしまう。だから、掟もそういう形になってしまう。それにね、例えば自分のいとこが殺人犯になったらどう思う?
きみの提案は、そういう話になるんだよ。だからね、だれもがみんな掟には納得しているんだ」
……抜け忍狩りみたいな、「非情な掟」ってのを俺は想像していた。だけど、それとは間逆な発想の掟なんだな。なのに結果として、欠点やそこからの行動はおんなじになってしまうっての、あまりにも悲しすぎないか?




