第31話:例えられた花
「ちなみに……こんな質問をするのはどうかと思うのですが。私達が高嶺の花だとして、どのような花に例えてもらえるのでしょうか?」
「え? 例えるなら?」
まさかそんな質問がくるとは思わなかった。
高嶺の花自体、一種の例え話みたいなものだし。
四人がどんな花か……うーん……。
「えっと、瑠音さんはやっぱり薔薇かな。気品があって華やかも感じるし」
「そ、そんな風に素敵に例えていただけるなんて。光栄ですわね」
瑠音さんを見ると、普段のような言葉遣いだけど、はっきりと頬を染め嬉しそうな顔をしてる。
「私は何に例えていただけるのですか?」
少し期待のこもった顔を見せている千麻さん。
彼女は……。
「えっと……百合……いや。菖蒲かな?」
「菖蒲の花……」
「うん。こうやって話すようになる前は、物静かで落ち着いてるし、凛とした態度を見せたりもしてて、すっとした百合のような印象だったんだけど。知り合ってから、恥じらったりする姿を見てから、より柔らかな雰囲気もあるなって感じて。それで」
「そ、そのように赤裸々に話されると、流石に恥ずかしいですね」
本気で恥ずかしさを表情と声色に出す千麻さん。
うつむき恥じらう仕草は、やっぱりちょっと可愛いかも。
「ちなみに、沙和と喜世はどうなのかしら?」
「えっと、沙和さんはやっぱり向日葵かな。あの明るさは間違いなくそう感じるし」
「ま、順当ね」
「では、喜世はどうなのですか?」
「えっと、喜世さんは……」
実は喜世さんって、これっていう花があまり浮かばないんだよね。
優しくって、どこか力強さも感じる彼女に似合う花……あ。
「花火、かな」
「花火?」
二人の声が左右からステレオのように被る。
まあ、普通は花に例えに花火なんて言わないだろうし、こういう反応になるのも仕方ないかも。
「どうしてそのように例えたのですか?」
千麻さんの質問に、僕は天井を見たまま、素直に感じた事を口にする。
「えっと、花火って、音の迫力とか大きさに力強さを感じるし、その光はみんなの目を奪うくらい輝いてて、見てて興奮したり感動したり、穏やかな気持ちになったりもするでしょ? なんか、実際の花でそういうのイメージのものが思いつかなくって。それで、丁度イメージに合ったのがそれだったんだ」
それを聞いた二人からの反応が聞こえない。
もしかして、返事に困っちゃったのかな。
うーん。やっぱり悩んででも、ちゃんとした花で例えるべきだったのかも……。
二人が呆れてないかな……。
そんな不安のせいで、怖くて顔すら見れずにいると。
「ちょっと、羨ましいですね」
「ほんとそうね」
二人からこんな反応が届いた。
「え? なんで?」
僕が横目に瑠音さんを見ると、彼女は少し苦笑いしてる。
「だって、喜世は優汰様にべた褒めされているじゃない」
「え?」
べた褒め?
予想の斜め上の言葉に僕が思わず首を傾げると、背後から千麻さんの言葉が届く。
「そうですね。興奮もすれば感動もする。そして穏やかな気持にもなる。私達の例えにはなかった優汰君の感想の数々。そう言ってもらえる沙和に、少し嫉妬してしまいます」
どこか淋しげにも聞こえる千麻さんの声。
言われてみれば、特別な物に例えたせいで、喜世さんの時だけ僕の思いを色々語ってたかも。
「ご、ごめん。だ、だけど僕だって、二人や沙和さんにも同じような事を感じてるから」
慌てて千麻さんの方に顔を向けた瞬間。
「……本当ですか?」
千麻さんが体を少し動かし、ずいっと僕に顔を寄せた。
目の前に迫るくらい距離を縮めた彼女は、顔を真っ赤にしながら眼鏡の下からじっと潤んだ目で、何かを懇願するような顔を──って、さ、流石にこれ近くない!?
シャインズ・ゲートでみんなにキスされた時くらいの顔の距離。
より強く抱きしめられた腕に、彼女の胸のドキドキがはっきり伝わってくる。
「も、勿論だよ。い、今だって凄くドキドキしてるし、普段だって可愛いとか、気遣いがすごいなとか感じてるし」
「わ、私はどうなのですか!?」
背後から聞こえた瑠音さんの声。同時に今度は反対の腕にもより強いドキドキを感じ始める。
千麻さんとの近すぎる顔から離れたいのもあって、とっさに顔を背け瑠音さんの方を見た──って、こっちも近っ!
目の前にある彼女も顔が真っ赤。表情もどこか必死で、何かを期待するかのように目を潤ませている。
「るるる、瑠音さんも同じだよ! いつも僕のことを気遣ってくれて優しいって思うし、普段もすごく綺麗だなって思ってるし。千麻さん相手と同じくらい、ドキドキしているし……」
タジタジになりながらもなんとか普段感じている褒め言葉を並べると、彼女は急に恥じらいを見せる。
「そ、そこまで言っていただけるなんて。わ、私、嬉しさと恥ずかしさで、どうにかなってしまいそうですわ」
何かをごまかすように、僕の肩に自らの顔を擦り付けながら語る瑠音さん。
同時に僕の腕をより体に巻き込まれたせいで、彼女の胸だけじゃなくお腹なんかの感触まで感じだしてる。
ちょ、ちょっと刺激が強すぎて、また一気に血が昇って頭が混乱し始める中。
「わ、私も、優汰君にそう言っていただけて、幸せです……」
同じく腕をより強く巻き込んだ千麻さんが、耳元で喜びを囁く。
うわっ!
僕の首筋に彼女の息が掛かり、ぞくぞくっという感覚が襲う。
声こそ出さなかったけど、思わず体をビクッとさせた僕は顔の逃げ場を求めるようにまた仰向けに天井を見る。
や、やばい!
可愛いけど! 綺麗だけど! 二人が嫌なわけじゃないけど! これはやばい!
と、とにかく、なんとか心を落ち着けよう!
そ、そうだ! 羊! 羊だ!
羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……。
あれ? なんか、気持ちがふわふわする。ま、まあいいや。心が落ち着いてきてるのかも。このまま数えよう。
羊が四匹、羊が五匹……羊が……六……。




