第30話:嫌かどうか
ある意味二人に拘束されているようなこの状況。
顔を見ないようにしてても、腕から伝わる感触と、近くなった二人から漂うほのかに香る花のような香りで、頭が少しクラクラする。
緊張で変な汗が出てきてる気もするけど、下手に腕を動かせないから汗を拭くなんてできない。
さ、流石に汗の臭いはいいものじゃないだろうし、二人に申し訳ないよね。
でも、この状況で彼女達は僕を解放してくれる……ううん。多分無理。そう僕の本能が言っている。
で、でも、このままの状態は本気で変な気持ちになりそうな気がする。
どうする? どうしよう? どうすればいい?
……そ、そうだ! 確か羊を数えたら、気持ちが落ち着くって聞いたことがある気がする。
あれ? そうだっけ? 何か違う?
もうどっちでもいいや! と、とにかく気持ちを落ち着けないと!
えっと、羊が……あれ? 羊はどこにいて、どう数えるんだっけ?
確か、えっと……。
「ゆ、優汰様?」
「優汰君。大丈夫ですか?」
……はっ!?
突然耳に飛び込んだ、瑠音さんと千麻さんの戸惑いの声に、僕は我に返った。
先に瑠音さんに顔を向け──うわっ。顔が近い……けど、あれ? なんでこんな不安そうな顔をしてるんだろう?
彼女は横になったまま腕に絡んだまま。だけど、先程までと打って変わった表情でこっちを見上げている。
反対に向き直ると、千麻さんも同じく側ですごく不安げそうな顔を見せている。
「え、えっと、どうしたの?」
逆質問をした僕を見て、千麻さんは少し困った顔をした。
「い、いえ。優汰君が、急にぶつぶつ何かを呟き出したもので……」
「優汰様。こういうことをされるのは、本当は嫌だったのかしら?」
「え? えっと、その……」
こ、こういう時、どう言えばいいんだろう?
もう一度瑠音さんの表情を確認した後、僕はまたぼんやり天井を見ながら、一気に冷めた頭で考える。
嫌かどうか。これって正直すごく難しい。
その、胸の柔らかさとかを感じるのは、嫌って言うわけじゃないけど恥ずかしい。
だけど、好きっていうほど望んでいるわけでもない。
でも、こんな曖昧な反応になっちゃうのは仕方ないよ。
その……僕は、友だちとこうやっているのが正しいのか。それすら判断できないんだから。
ただ、さっきの喜世さんや沙和さんもそうだったけど、ここにいる二人が友達の僕と触れ合いたいって気持ちがあるのはわかってるし、それで喜んでくれてるのもわかってる。
なんて答えよう……なんて、悩んでも仕方ないかな。
何を言えばごまかせるのかもわからないし。それ以上に、僕が挙動不審になれば、二人だって心配するんだから。
「正直に、言ってもいい?」
横目で瑠音さんを見ると、彼女は少し申し訳なさそうな顔をする。
「え、ええ。ちゃんと話してちょうだい。私達も、優汰様を困らせているとしたら、やはり心苦しいもの」
「千麻さんは?」
次に千麻さんを見ると。
「は、はい。覚悟は、できております」
彼女は言葉通りの真剣さを顔に出す。
なんとなく、今の二人の気持ちはわかる気がする。
それを解消してあげられるかはわからないけど。
「えっと、嬉しいとか嫌いとか、そういう感情は正直わからない」
「え? 自身の気持ちがわからないと言いますの?」
「うん」
僕は瑠音さんの方を向くと、少し驚いている彼女に小さく頷く。
「こういうことに耐性がなさすぎて、すごく恥ずかしいのは確かだし、さっき変なことをぶつぶつ言ってたのも、正直頭がパニックになってたからなんだよね」
「パニックに……どうしてそのようなことに?」
あ、それを聞いてくるんだ。
千麻さんの問いかけに、僕は困った気持ちをそのまま苦笑いに変える。
「え、えっと。その……二人が僕の腕を、抱きしめてるでしょ? その感触が、ちょっと刺激的すぎて」
本当はちょっとじゃないんだけど。そこはオブラートに包み込む。
正直に話はするけど、二人が傷つくような話をしたいわけじゃないし。
ただ、流石にこの言葉は効いたんだろう。
ちらりと様子を窺うと、二人は何も言わず気恥ずかしそうに俯いちゃってる。
「あ、でも。その……僕は、それで二人が喜んでくれるなら、なんとか今のままにさせてあげたいって思ってるんだ」
「だけれど、それは優汰様にとって、負担になっているんじゃなくて?」
「恥ずかしさが負担だって言うならそうかも。ただそれ以前に、二人が恥ずかしそうにされると、僕も釣られて恥ずかしくなっちゃうってのいうのが大きいのかも」
心が落ち着いている今でも、未だ伝わってくる胸の感触はやっぱり刺激が強いし、腕に感じるぬくもりや近すぎる二人の声は、間違いなくそこに彼女達がいるって思えちゃってドキドキだってする。
でも、こうやってちょっと心の余裕ができれば、少しは落ち着けるだけマシかなって気づいたんだ。
思い返せば、喜世さんを抱きしめてたときも案外落ち着いてたし。
「その……恥ずかしくなる理由はその、体が触れているからでしょうか?」
えっと、多分これはそれだけじゃないと思う。
「いや、多分それもあるけど、それだけじゃないかな」
「では、どのような理由があるのかしら?」
「いや、だって。考えてもみてよ。今の僕、両手に花なんて言葉じゃ表しきれないくらいすごい状況なんだよ? 学校で一番人気のTOP4。そんな高嶺の花の二人と一緒の布団にいて、僕と触れ合ってるんだから」
そう。こういう言い方はよくないかもだけど、こういった刺激も相手がより好みというか、可愛いとか綺麗だって感じる相手になるほどやっぱり興奮っていうか、動揺は激しいと思うんだよね。
だから僕だってここまで緊張したりしてるわけだし。
褒め言葉ととってくれたのかはわからないけど、僕の言葉を聞いた二人の気持ちを代弁するかのように、彼女達の腕がより強腕を抱きしめてくる。
胸の柔らかさをより強く一瞬ドキッとしちゃったけど、話して気持ちが楽になってるせいか。さっきより動揺は少ない。
「だから、その……刺激は強いし恥ずかしいけど。二人がこうしてたいっていうなら、僕も頑張るよ。全然慣れないと思うけど、嫌ってわけじゃないし」
「そ、そう。ただ、本当に嫌な時はちゃんと言いなさい。|私達《わたくしたちだって貴方に喜んでほしいことはしたいけれど、嫌がることは避けたいもの」
「はい。私も、優汰嫌われたくありませんし」
なんとなくわかってる。
余程のことでもない限り、僕が二人を嫌いになんてならないってことに。
それでもそんな心配をしてくれるってことは、きっと二人も友達じゃなくなる不安を持ってくれているのかもしれない。
「うん。ありがとう」
僕はそれがちょっと嬉しくって、二人に交互に笑顔を向けたんだ。




