第28話:ご、ごめん!
僕の言葉を聞き、二人が一気に顔を赤くすると、互いに顔を見合わせる。
「さ、さて。千麻。貴女はどちらがよいのかしら?」
「わ、私は優汰君の隣ならどちらでも。ただ、強いて言うなら、瑠音に奥に寝てもらったほうがよいと思いますよ」
瑠音さんを奥に?
何か理由があるのかな?
「まあ、私は構わないのだけれど。理由を聞かせてもらえるかしら?」
僕と同じ疑問を持った瑠音さんが、千麻さんにそう問いかけると、彼女は真顔のままこう答えた。
「貴女の寝相の悪さで、ベッドから落ちて怪我でもされては困りますし」
なんだろう。すごい勝手な解釈なんだけど、お嬢様とかって勝手に寝相とかいいイメージしかない。
頭の中で、ベッドの上で布団を蹴飛ばし、綺麗なピンクの髪が普段の面影なんてないに酷い寝癖をつけ、すごい寝相で寝ている瑠音さんを想像し、僕はあまりに意外な気持ちを覚える。
「瑠音さんって、そんなに寝相悪いの?」
「そそそそ、そんなことはございませんわ!」
思わず僕はそうぽろっと漏らすと、彼女はあたふたしながら僕に両手を振り、必死に否定する。
「ち、千麻! 貴女も変なことを仰らないで!」
「事実を下手に隠しても、後で発覚し幻滅されるだけですよ。であれば、先に優汰君に知っておいてもらったほうがよいのではないですか?」
露骨に不機嫌さを顔に出した瑠音さんだったけど、千麻さんは普段と変わらない顔でさらりとそう返事する。
瑠音さんがそれを聞いた瞬間、ぐぬぬって恨めしそうな顔をしてるけど、そのまま何も言い返さない。
という事は、千麻さんが言っている事は正しいってことかな。
寝相が悪くて蹴られるとかならいいんだけど、そのせいで僕が誤って変な所を触っちゃうとか、そういう事故がなければいいんだけど……。
「ふ、ふんっ。ま、まあ、いいですわ」
顔は未だ真っ赤だけど、まったく……と言いたげな呆れ顔を見せた彼女はそのままベッドの方を向くと、掛け布団を枕側から半分くらいめくる。
そして、僕等に背を向けたまま大きく深呼吸すると。
「い、いきますわよ」
まるでボス戦にでも挑むかのように、緊張した声を出すと、四つん這いになりベッドに乗ると、窓側に向かい仰向けになる。
そのまま上半身を起こしたまま足を布団の中に入れた。
「さ、さあ。優汰様。こ、こちらにいらして」
恥ずかしそうに俯いたまま、上目遣いでこっちに潤んだ瞳を向けてくる瑠音さん。
ほ、本当に一緒に寝るんだよね……。
改めて現実を突きつけられた僕は、緊張で乾いた喉をゴクリと鳴らし唾を飲み込む。
ま、待たせたら彼女が機嫌を悪くしちゃうかもしれないよね。早くしよう。
「う、うん」
僕は瑠音さんに倣い四つん這いでベッドに上がると、彼女に触れない程度の間隔を空けて同じように布団に足を入れた。
……あ。この感じだったら、思ったよりゆったり寝られるかも?
ぴんとして仰向けで寝たら、手すらぶつからなさそうだし、千麻さんや瑠音さん側のスペースもそこそこできそう。
「千麻さんもベッドに上がって大丈夫だよ」
気づきのお陰で少しだけ気持ちが楽になった僕は、彼女の方を見て普段っぽく声を掛けると。
「は、はい。お邪魔、致しますね」
恥ずかしそうに目を逸らしていた彼女が、僕を見て覚悟を決めた顔で小さく頷くと、ベッドの端に座ってから足をベッドに上げると、そのまま少し横移動して僕の脇に並んだ。
「え、えっと。二人とも、スペースは大丈夫?」
「え、ええ。広すぎるくらいですわ」
「そ、そうですね。ただ、窮屈感はありませんよ」
交互に二人を見ると、どちらも恥ずかしそうに俯いてる。
二人の長い髪に隠れて表情は見えないけど、この反応なら位置を変える必要はないかも。
それでも、二人との距離が一気に縮まって、嫌でも緊張しちゃってる。
まあ、もう逃げられないんだし。あとは頑張って平然としていかなきゃ。
「じゃあ、寝る?」
「そ、そうね」
「は、はい」
顔が見えないまま帰ってきた返事に、僕は意味もなく頷く。
「じゃあ、二人とも先に横になってくれる? 僕が布団を掛けるから」
「え、ええ……」
「わかり、ました……」
どこか不安げに答えた二人は、ゆっくりと上半身を倒しベッドに横になる。
位置は大丈夫かな。二人の姿を確認して──。 僕が身を捻って瑠音さんを見た瞬間、目を奪われ固まった。
だって、そこにいる彼女に衝撃を受けたから。
横になったまま、両手で祈るように手を組んでいる瑠音さんは、頬を染めたまま、不安と期待が入り交じったようなせつなげな表情を見せていた。
体の下に広がっている、少し乱れた長いピンクの髪。
パジャマの上着が少し捲れ、ちらりとおへそと肌が見えちゃってる。
普段の気品がある印象とは少し違う、しおらしさを感じる姿。それは綺麗でもあるし、でもどこかセクシーにも感じる。
「……優汰様?」
はっ! しまった!
何で瑠音さんをじっと見ちゃっててるのさ!
「ご、ごめん!」
慌てて反対に身を捻り、千麻さんのほうを……え!?
そっちを見た瞬間、僕はまるでさっきを時間を繰り返すかようにまた固まってしまった。
千麻さんは眼鏡をかけたまま、こっちに潤んだ瞳を向けてるんだけど、その表情は羞恥心に満ちた恥じらい顔。
身を小さくするように少し半身を捻った感じで横になっている彼女もまた、両手を胸を隠す感じで添えている。
横になった勢いでなのか。パジャマの上の襟元から幾つかのボタンが外れてて、両手で抑えられてるせいで少し強調された胸の谷間が目に飛び込む。
普段あまり意識してなかったけど、こうやって見ると案外千麻さんも胸が大きい──。
「じ、じろじろ見られると、恥ずかしいです……」
消え去りそうな声で囁いた千麻さんが目を逸らす。
「ご、ごめん!」
僕ははっとして、今日何度目かの謝罪の声を上げて正面に向き直った。
急に胸がドキドキして、頭に血が昇ってくる。
こ、これ、本当に一緒に寝ていいものなの!?
確かに特別な友達だけど、本当に良かったの!?
TOP4の魅力は性格だけじゃない。
改めてそれを痛感し、この状況を受け入れた事にまた不安になる。
と、とにかく、このままは絶対ヤバいよね。
そ、そうだ! 早く布団をかけちゃおう。
そうすれば二人の刺激の強い姿も見えなくなるし、少しは落ち着くはず。
そうだ! そうしよう!
僕は掛け布団に手を掛けると、そのままゆっくり持ちあげ引っ張りながらベッドに身を預け、二人と一緒に掛け布団を羽織る。
そして、急いでベッドボードにあったリモコンを手に取り、明かりを常夜灯に切り替えたんだ。




