第27話:多分大丈夫
言葉の真意は気になったけど、喜世さんが言ってた通り、あまり瑠音さんや千麻さんを待たせても悪いし、喜世さんも明日はバレー部のお手伝いがある。
あまり寝るのが遅くなって、そっちに影響が出たらいけないよね。
「じゃあ、そろそろ行くね」
僕がそう告げると、二人はその場で背筋を正す。
「そうだな。優汰。また明日な」
「うん。二人ともゆっくり休んでね」
「優くんもねー、って言いたかったけどー。二人と一緒じゃそうもいかなそう?」
「え? ま、まあ、そうかも……」
正直、沙和さん達二人と短い時間抱きしめ合ってたのだって恥ずかしかったのに。この後は瑠音さんと千麻さんと一晩ベッドで寝るわけで。ゆっくりできるイメージなんてさっぱり浮かばないんだよね。
自然に苦笑いをした僕を見て、沙和さんも釣られて苦笑いすると、こんな事を言ってきた。
「ちなみにー。二人とベッドで寝るのはいいけどー、エッチなことはぜーったい駄目だかんね」
……え?
「エ、エッチなこと?」
その言葉で何故か頭に浮かんだ、豹柄水着の沙和さんの姿。
いかがわしいことを考えちゃったせいで、僕は思わず顔を赤くする。
そ、その、エッチって話なら、あれが一番やばかったと思うんだけどね……。
「そ。ハグなんかは仕方ないよ? でもー、キスしたりー、二人の胸とか触れたり。なんならその先の関係になっちゃうのは、流石のあーし達も許せないし。ね? きよっち?」
「ゴ、ゴホン。ま、まあ、流石にな。お前があいつらと恋人になりたいってなら話は別だけどよ」
どこか演技っぽい咳払いをした喜世さんは、両腕を組み斜に構えると、どこか気まずそうに顔を逸らし、目だけでこっちを見る。
多分だけど、急に沙和さんが過激なことを言ったから、どんな反応をすればいいのか困ってるのかも。
僕は勿論そんなことをするつもりは全然ないし、そんな勇気だってまったくないんだけど……ま、まあ、瑠音さんはお嬢様だから場を心得てるだろうし、千麻さんも物静かで良識人。だから、きっと大丈夫──。
──「ですが。それとこれとは話は別ですわ! 優汰。私は、絶対に貴方と触れ合う機会を頂きますわよ」
──「私はここまで必死に我慢しているんですよ!?」
──かなぁ……。
過去に二人がした発言を思い出し、一抹の不安が頭を過ぎる。
とはいえ、ここでそんな事を言って話を引っ張るのも迷惑だもんね。
「だ、大丈夫だよ。僕はそういったことをする気なんてないし。とにかく、変な空気にならないよう気をつけるよ」
「おっけー。じゃ、また明日ね!」
僕の返事を聞いて、ころっと態度を豹変させ、普段通りの笑顔を見せた沙和さん。
もしかして、今のは僕をからかってただけかな? まあ、それならそれでいいんだけど。
「じゃ、おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
「おやすみーっ!」
彼女達と挨拶を交わした僕は、そのまま彼女達に背を向け寝室を出ると、ゆっくりとドアを締めた。
二人との境界線ができたことで、肩の荷が下りると同時に、どっと疲れが押し寄せてくる。
ほんと、沙和さんはいつだって積極的だよね。
まさか別れ際にハグしたいなんて言われると思ってなかったし、流れで喜世さんとも抱き合っちゃったけど、なんだかんだでドキドキしちゃってたし。
僕はゆっくりその場を離れると、廊下を進んでいく。
でも、ここからは、ベッドで一晩一緒、か……。
クイーンサイズのベッドといっても、僕ら三人が並んで寝たら少し手狭だろうし、ベッドから落ちないよう僕が端っこで寝たほうがいいよね。
怪我とかされちゃったらいけないだろうし。
そんな事を考えているうちに、僕は客間の前に到着した。
またぶり返してくる緊張感。
え、えっと。自然に。そう、自然に。エッチなことは考えないで、隣に二人が座ってる。それくらいの気構えでいかないと。
「すー……はー……すー……はー……」
心を落ち着けるための深呼吸は、僕のルーティーンみたいなもの。
呼吸を繰り返すうちに、少し心が落ち着いた。
……よし。
コンコンコン
「入っていいわよ」
瑠音さんの返事を聞いて、僕は覚悟を決めると再び客間のドアを開け、中に入っていった。
さっきと同じくベッドの端に座っていた二人は、僕を見ると、その場でゆっくり立ち上がる。
「少々遅かったわね」
「ご、ごめん。部屋の中の説明とか、見ちゃいけない場所を教えたりとかしてて」
「そうだったのですね」
本当の話をしても良かったんだけど、思い返して気恥ずかしい気持ちになったら意味がない。
そんな気持ちもあって、僕はとっさにそんな嘘でその場をごまかした。
「そ、それで、すぐ休む?」
流れでそう確認すると、二人はぽっと頬を染めると、互いをチラチラと見る。
「わ、私はいいですよ。瑠音は?」
「え、ええ。構いませんことよ」
ピンクの髪を後ろに払い、両腕を組んで普段通りを装う瑠音さん。だけど、その表情にある緊張感は隠せてない。
千麻さんもずれた眼鏡を直そうともせず、肩から前に回された紺色の髪の先を落ち着きなくくるくる指で弄っている。
やっぱり普段と違う二人。
あれだけ意気込んで得たチャンス。ということは、きっとそれだけ期待してたってことだろうし、だからこそこうもなるのかな……ゴクリ。
この沈黙すら緊張を煽ってくる。
こ、こうなったら、ささっと布団に入って寝ちゃたほうがいいのかも?
うん。そうだ。そうしよう。
「じゃ、じゃあ、二人が奥と真ん中に寝てくれる?」
「ゆ、優汰様! 流石にそれは受け入れられませんわ!」
え? 駄目なの?
「で、でも、手前だと、寝返りを打ってベッドから落ちちゃうかもしれないし。それだったら僕がこっちのほうが──」
「お気遣いは嬉しいのですが、優汰君はちゃんと真ん中でお休みください」
……ま、真ん中?
それって……。
「二人に挟まれて寝る、ってこと?」
「は、はい。その通りです」
急に真剣な顔をした千麻さんは眼鏡を直すと、強く、しっかりと頷く。
「あ、当たり前でしょう? 私達二人が優汰様と触れ合うためには、これしかありませんもの」
気丈に振る舞う瑠音さんも、目力がかなり強い。
絶対に逃さない。そんな空気すら感じる。
ま、まあ、こういう話になるかもっていうのは、なんとなく予想してたし、驚きって意味だとそこまでじゃないんだけど。
でも、やっぱりそうなっちゃうのか……。まあ、仕方ないよね。
僕は一度小さくため息を漏らすと。
「じゃあ、どちらかが奥に寝てもらっていい?」
ふざけた感じにならないよう気をつけながら、僕は真面目にそうお願いをしたんだ。




