第22話:必要なのは……
もうすぐ日付が変わりそうな深夜。
家に戻った僕達は、それぞれパジャマに着替えるとダイニングのテーブルに付き、それぞれ買ったデザートを口にしていた。
席に座り、黙々とそれぞれが買ったデザートを食べる四人の表情は、美味しい物を食べてるとは思えないくらいの恐ろしく神妙な顔つきをしてる。
みんなして眉間に皺を寄せ悩み始めて二十分ほど。
ずっとそんな光景を見続けていた僕は、外で感じていた恥ずかしさから随分と解放され、気持ちはすっかり落ち着いていた。
……僕と一緒のベッドがいいって言われてるのは、ある意味じゃ嫌われてない証。そういう意味でほっできる要素ではあるんだけれど、同時にこうも思ってる。そこまで悩むべきものなのかなって。
だって、今までだってネットゲームで一緒に遊ぶだけでもある程度親密にはなれたし、お互いがリアルで接点があったと知ってからだって、お互いが無理に触れ合わなくたって信頼関係を結べてたように思うし。
……あ。もう紅茶はこれしかないのか。
カップに入れていた冷めかけた紅茶を飲み干した僕は、みんなの邪魔にならないよう静かに席を立ちキッチンに移動すると、紅茶を注ぎながら遠間にみんなの様子を窺っていた。
◆ ◇ ◆
こんな状況になった理由。
きっかけは僕が帰りがけに話した、一緒に寝る相手の選び方だった。
家までの帰り道で話をまとめたんだけど。
僕の家で全員がベッドで寝るためには、客間のクイーンサイズのベッドか僕の寝室のダブルベッド。二台で賄う必要がある。
となると、やっぱりより広い客間のベッドに三人が寝る必要があるんだけど、大前提として、僕が誰か一人と僕の部屋で寝る話にした。
──「さ、流石に、同じ部屋で二人っきりで寝かすのは、絶対よくないよな?」
──「ま、まー、憧れはあるけどー、流石にやりすぎっしょ」
──「わ、私はそれでも構いませんけれど」
──「私も優汰君が構わないというのなら、否定はしませんが……」
何故か喜世さん以外の三人には肯定的な意見も混じっていたけど、千麻さんがこっちの意見を聞いてくれたので、僕の独断でそれはなしにしたいってことにした。
さっきの沙和さんとのお風呂場の件とかもそうだけど、流石に同じ部屋に二人っきり。しかもすぐそこに触れられるくらいの距離でいるのは、僕だって変な気を起こさないかは不安にもなる。
だったら、もう一人誰かがいてくれたほうが、抑止力になると思ったんだ。
で。問題は実際のベッドの割当って話になったんだけど。
──「さ、流石に、優汰と別のベッドで寝たいって奴はいないよな?」
──「ま、まー、やっぱー、一緒に寝るのって憧れじゃん」
──「わ、私は、優汰様と一緒で構いませんけれど」
──「私も優汰君が嫌じゃないのであれば、お願いしたいのですが……」
やっぱり喜世さん以外の三人は肯定的。
とはいえ、この時ばかりは喜世さんも。
──「さ、流石に俺も譲らねえからな」
なんてはっきり言い切ったから、誰も僕と別は嫌だって話にならなかった。
となると、何らかの手段で誰が僕と一緒に寝るのか決めないといけないんだけど。
今回みんなが本気で悩んでいたのは、抽選の公平性だった。
家に戻り席についてからの今までのやり取りはこんな感じ。
──「なあ。せっかくだしシャイゲの対戦で決めるか?」
──「却下です。それは流石に詠唱必須である魔法メインの私には分が悪すぎます」
──「じゃーあー、こないだみたいにじゃんけんにする?」
──「却下よ。一生に一度あるかないかという優汰様と添い寝できるこの機会を、人読み可能な勝負に委ねるのなんてありえませんわ」
──「でも、そうなるとくじ引きしかなくなーい?」
──「だけどよー。あれって先の奴に当たり引かれた時、めっちゃ不公平感感じねえか?」
──「確かにそうですね。しかも、くじを引く時点でまず順番を決めないといけませんから」
──「私も、流石に誰かが外すのを祈るだけになるのは御免だわ」
正直、どの意見もよく分かる。
やっぱり理不尽って気持ちはどこかに生まれちゃうし。
ただ、その結果今のような状況になっていたりもする。
◆ ◇ ◆
「うーん……優くんに選んでもらうのも断られてるしなー」
そう言って、髪の色に近い薄い黄色のパジャマに着替えた沙和さんが、ぱくっとプチシュークリームを口に頬張る。
「一番公平感はありますが、選ぶ優汰君にもプレッシャーはあるでしょうし。仕方ありません」
皿の上のショートケーキを切り分けた水色のパジャマを着た千麻さんは、同じく口にそれをゆっくりと入れる。
「まあ、もし優汰に選ばれなかったら、絶望しかねえしな……」
真っ赤な目立つパジャマの喜世さんは、口に入れていたポテトチップスを飲み込むと、そんなことを言う。
僕に選ばれないとそんな気持ちになるの? って今でも思ってるけど、他のみんなは納得した表情でウンウンと頷いてる。
「でも、これじゃお手上げよ」
唯一フリルがいくつも付いた可愛さを感じるピンク色のパジャマを着た瑠音さんは、言葉通りに手を上げ肩を竦めると、皿に置いてあったマカロンを小さくかじる。
確かに。これだといつになったら眠れるかもわからない……ふわぁ……。
ここで大きな欠伸をするのは憚られて、僕は無理やり欠伸を噛み殺す。
明日は土曜日。普段ならもう少し遅くまで起きてるとはいえ、今日は帰ってきてから家にただいたわけじゃない。ちょっと気疲れがあるせいか少し眠くなってきてる。
でも、公平かぁ……。
キッチンに立ったままカップに注いだ紅茶を口にしながら、僕も少し考えてみた。
勝負事はどうしても実力差が出るから不公平。
くじびきは運任せ。そういう意味では公平性なはずだけれど、順番って概念が納得性を薄くするのも確か。
公平性が高いくじって、他に何かあるかな……。
僕は何気なくリビングを見回す。
殺風景であまり飾りっ気のない部屋。一番最初に目についたのはテレビ。ゲームにくじ引きツールとか……って、それならスマホでいいけど、結局選び順の話になる。
でも、じゃあ何があるかって言ったら……あ。
ふと僕の目に止まったのは、リビングを飾る用に壁に設置されている板の棚だった。
階段状に配置されている棚は空きが多いけど、その中のひとつに親から貰ったミニチュアの飾りのビンゴマシン。
確かにビンゴだったら公平性は高そうな気もする。
例えば一から二十四までに番号を絞ってマスを各自で埋めてもらって、僕が回すとかすれば、みんなもかなり納得できるような気がする。
でも、残念ながらあそれはあくまで飾り物で。本物じゃないんだよね。
あれが本物だったらよかった──って、あれ? もしかして、あれはどうなんだろう?
ビンゴって、当たりがわからないまま自分が無作為に番号を選び、番号をランダムで抽選するから公平性が高く見える。
つまり答えがわからないまま、自分で命運を決める何かを選択できるあれなら、みんなも納得できるんじゃないかな?
……よし。どうせ準備もそんなに掛からないし、先に準備して見せてみよう。
そう思い立った僕は、一旦紅茶をキッチンに置きっぱなしにして、そのまま一人自分の寝室に向かう事にしたんだ。




