第21話:ある意味本気
「お、お前。それ、本当か?」
喜世さんが目を瞠ると、無理矢理体幹で反動を止め勢いよくブランコから下り僕の方に駆け寄ってくる。
え? どういうことだろう?
「えっと。本当って、何が?」
「も、勿論、私達が優汰様の寝室のベッドをお借りしてもよいのかに決まっておりますわ!」
喜世さんに尋ねたのに、答えたのは必死さを感じる瑠音さん。
何故か顔を真っ赤にしてるけど……あ、そっか。僕の配慮が足りなかったかも。
「ご、ごめん。流石に、僕のベッドを使うのは嫌だよね?」
「そ、そのようなことはありませんよ。ですよね? 沙和」
「あ、あったり前じゃーん!」
……え?
千麻さんや沙和さんまでそう口にしたけど、本当に?
困惑する僕の前に、ブランコを下りた沙和さんもやってきて、四人が目の前に並ぶ。
「も、もちっ! あーしはぜーんぜんおっけーだよ!」
「あ、ああ。俺も問題ないぜ」
「私にとって、優汰様の申し出は渡りに船ですわ!」
「わ、私も問題ありませんので。何も気にすることなんてありませんよ」
みんな笑顔を見せてくれているけど、どこか表情が固いような気もする。
瑠音さんに至っては、なんかことわざまで使ってるし。
みんな、本気で無理してないのかな? でも、信じないわけにはいけないもんね。
「そ、それならいいんだけど」
僕も釣られてぎこちなく笑うと。
「ね? そろそろ優くん家に戻ろ? ね?」
なんて、沙和さんが催促してくる。
ブランコに乗りたがったのは彼女だし、満足したならいいかな。
「そうだね。じゃあ行こうか」
「うん! みんな、行こっ」
「ああ」
「ええ」
「はい」
みんなの返事を確認した僕は、頷き返すと再び公園の歩道に戻ると、家のある出口に方に歩き出した。
時折外灯に照らされながら歩く中。
「そ、そういや、優汰はどっちのベッドで寝るんだよ?」
喜世さんがそんなことを尋ねてくる。
どっちのベッドって言っても、流石に四人が一つのベッドで寝かせるのは無理。
と考えたら。
「布団は寝室用と来客用の二組しかないから、毛布だけ借りてソファで寝ようかなって思ってるけど」
これが普通──。
「えーっ! だめじゃーん!」
「……え?」
右隣で突然声を上げた沙和さん。
何でだめなんだろう?素直にそう思っていた僕に答えるように、彼女は続けてこう口にする。
「だ、だってー、優くんの家だよ? ちゃーんとベッドで寝なきゃ!」
「そうはいっても、確かに客室のベッドは三人寝られるかもしれないけど、流石にみんなと一緒に寝るわけにいかないし……」
「あ、あら。私は構いませんわよ」
……へ?
左隣を見ると、瑠音さんが恥ずかしそうにしながら、顔を背け視線だけを向けてくる。
い、今のって、もしかして本気で言ってる?
思わず足を止めると、みんなも釣られて歩みを止める。
「え、えっと。瑠音さん、それは流石に──」
「べ、別にいいんじゃねーか? 俺は賛成だぜ」
え? 喜世さんも?
沙和さんの奥にいる彼女を見ると、照れ隠しをするかのように明後日の方を向いている。
「わ、私も、優汰君でしたら、その、問題ないといいますか、嬉しいといいますか……」
「う、嬉しい!?」
瑠音さんの奥にいる千麻さんは、俯いたままもじもじしながら、ちらちらとこっちに上目遣いで見てくる。
へ? 嘘でしょ? 流石にドッキリか何かだよね?
予想外の展開に、一気に顔が熱くなり胸がドキドキしてくる。
そんな中。
「ゆ、優くーん。そんなに照れなくったってー。ほ、ほら。あーし達ー、特別な友達じゃん? それくらい普通だってー」
どこか恥じらいながら、沙和さんがぽんぽんと僕の肩を叩く。
い、いや、普通って言ったって……。
「で、でも、その。僕は男だし──」
「そんなもの気になさらなくていいわ。優汰様が誠実な方なのは、私達も十二分に感じておりますもの」
「そ、そうだぜ。お前が俺達に変に手を出すなんて思ってねーし、だからこそ俺達はお前を特別だって言ってんだ。遠慮すんじゃねーって。な?」
「で、でも、もし間違って触っちゃう事だって、あるかもしれないし……」
実際、ちょっと寝返りを打ったりして、誤って体に触れちゃうことだってあるかもしれない。そんなのやっぱり嫌じゃないの?
「べ、べっつにー。ぐ、偶然だったら仕方ないしー。それに前に言ったじゃん? あーしは優くんとー、もーっと仲良くなりたいもん。少しぐらい触れ合いがあったってー、それはそれで嬉しいし」
僕の言い訳に怯むこともなく、沙和さんが恥じらいながら口にした言葉。
──「沙和さん達って、普段から特別な友達相手にこんな感じで接してるの?」
──「え、えっと。あーしはーこれが普通だよ? やっ、みんなと仲良くやりたいしさー」
確かに、前にこんなことを言ってたのは覚えてる。
で、でも、今日沙和さんに抱きつかれ時だって、この間喜世さんを抱きしめた時だって。
なんなら瑠音さんへの壁ドンとか、千麻さんと手を繋いだのだって、僕の気持ちをふわふわさせるのに十分過ぎる破壊力がある。
特別な友達だったら、それでもこういうのが普通なの?
そもそも普通の友達関係すらわかってないから、何が正しいかわからなくて、頭がパニックになりそう……。
何て返せばいいかわからぅ、ただ困った顔しかできない僕を見て、喜世さん頭をボリボリと掻くと、真面目な顔をした。
「いいか? 優汰。その、俺達は、お前をソファに寝かすなんて嫌だからな。もしそれでも、どうしてもって一緒は嫌だって言うなら、俺がソファに寝る」
え?
「そ、それは駄目だよ! 喜世さんは大事なお客さんなんだから」
「でしたら私達のわがままを受け入れてください。私達にとって優汰君は大事な友達。だからこそ、大事にさせて欲しいのです」
「そーそー! あーし達、マジで優くんと寝るの嫌じゃないしー。なんなら夜更かしして色々話せそうじゃん」
「喜世の申し出もまた、私達が貴方を思うが故のものよ。優汰様。私達の覚悟を汲むか。己の意志を貫くか。今ここでお選びなさい」
みんなが急に真剣な顔になったせいで、僕も気持ちが引き締まり、頭が少しクリアになる。
自分を貫くならどっち……なんて考えるのは、やっぱり今更なのかな。
僕が友達関係を知らないからこそ、こういう事に変に過敏になりすぎてるのかもしれない。
友達の多いTOP4の四人が言ってるんだもん。きっとこれが普通で、僕が異端なだけなんだよね。
みんなに信頼されてるのは確かだし、実際僕もそれに応えたいって思ってる。
であれば、結局答えはひとつ。
僕が慣れていけばいいだけ。
……本当は、それでも顔から火が出るくらい恥ずかしいけど。
「……わかったよ。じゃあ、僕も一緒にベッドで寝るね」
「ほんとに?」
「うん」
残念ながら、素直に笑えなくって苦笑いになってるのが自分でもよくわかる。
それでも、沙和さんにそう返事した事で、四人が顔を見合わせ嬉しそうな顔を見せた。
これでいいんだよね。
これで……って、あれ? だとすると?
「優汰君。どうかしましたか?」
僕がはっとしたのに気づいて、千麻さんが怪訝そうな顔をする。
「いや。その……僕と一緒に寝る人、どうやって決めるのかなって」
僕はそんな彼女に向け、何気なくこう問いかけたんだけど……僕はそれが大きな火種だったなんて、思いもしなかったんだ。




