第20話:懐かしいもの
あの後、コンビニに寄り各々にデザートや飲み物を買った僕達は、そのまま僕の家に──は帰らず、少し遠回りして富士公園の中を散歩していた。
折角夜に外に出たのに、すぐ帰っちゃうのは勿体ない。だけど遠出するには時間も限られてるってことで、だったらってことで場所をここに決めたんだ。
前回は喜世さんと丘の上に行ったけど、今日はそっちには行かず、下の歩道を家の方に向け歩いて行く。
夜の公園もまた人気がなくて凄く静か。
外灯の数も町の中に比べ少ないのもあって薄暗い場所も多いし、人によっては怖いとか思うのかもしれない。
僕はといえば、前に住んでいた所がこれより暗い道があったのもあって、むしろこれなら明るいって思っちゃってるけど。
「さ、流石にちょっと暗いな」
「そうですね」
喜世さんがちょっと不安そうな顔でキョロキョロと周囲を見回してるけど、一方の千麻さんは平然としてる。
この間の喜世さんはそこまでの反応を見せてなかったけど、やっぱり夜が更けてより暗さを感じる今の時間はちょっと怖いのかな?
「喜世さんって、もしかして暗いの駄目だった?」
怖いんだったら早めに公園を出たほうがいいなと思って、敢えてそう尋ねると、はっとした彼女は気まずそうに目を逸らす。
「い、いや、そんなことはねえって」
言葉とは裏腹に、喜世さんの反応はやっぱり弱気に感じるけど、本当に大丈夫なのかな……。
僕が少し心配になっていると、隣の瑠音さんが苦笑いする。
「あら。優汰様の前だと随分強がるのね」
「ほーんと。素直に言っちゃえばいいのにー」
「う、うるせえんだよ! ったく!」
沙和さんが茶化すかのようにニヤニヤすると、喜世さんが顔を真っ赤にしてふてくされる。
僕の前だと強がるってことは、多分……。
「喜世さん、やっぱり怖いの?」
「だ、だから──」
「喜世は、幽霊やお化けのようなホラーが苦手なんですよ」
喜世さんの言葉を遮ったのは、意外にも千麻さん。
それを聞いた喜世さんが、バラされたことに驚きを隠せず目を丸くしていると、瑠音さんと沙和さんが顔を見合わせクスクスと笑う。
「別にいいじゃないの。貴女も素直になれば」
「そーだよー。どーせこの中でホラーとか得意なの、ちっちーだけだしさー」
「皆さんが怖がり過ぎなだけですよ。特に喜世は」
瑠音さんや沙和さんと違い、呆れた顔でため息を漏らす千麻さん。
へー。言われてみたら、喜世さんってあまり怖がらなそうな印象だし、なんなら千麻さんのほうが怖がってもおかしくないように見える。
人は見た目によらないんだなぁ。
「ちなみに、優汰君はホラーや暗闇などは苦手なのですか?」
千麻さんが僕にそう話を振ってくる。
僕はどちらかというと……。
「あまり怖くないかな。暗い所も、お化けとかも」
「マ、マジかよ……」
「うん。普段は家でも電気全部消して寝てるし。幽霊とかも、ホラー映画とかを好んで見はしないけど、恐怖の大半ってジャンプスケアだと思ってるから、そこまでびっくりしないんだよね」
勿論映像として怖さを強調したものもあるけど、そのシチュエーションが怖いかと言われればそこまでじゃない。
まあ、中学時代に辛いことを耐え続けてたのもあって、その程度なら動じなくなっちゃったってのはあるのかも。
みんなに抱きつかれるとかは別の話だけど。
「優汰。お前、結構凄いんだな」
「そんなことないよ。ただ、お化け屋敷とか入る時はとかは先導してあげられるかも」
「たっのもしいー! じゃー、あーしがびっくりした時はー、きゃーって言いながら抱きついちゃおーっと」
沙和さんがにししっと笑ってるけど、冗談かどうかがちょっとわかりにくいかも。
ただ、千麻さんはそれが冗談に思えなかったのか。
「そ、それは、優汰君の迷惑になりますからお止めになったほうが」
なんて釘を差してくる。
「えーっ? 別にいいじゃーん、るとっちもそう思うよね?」
「ま、まあ、私もお化け程度では動じない、と言いたいところだけど、流石に恐怖する時もありますわね。ですからその、その時は沙和の言う通り、優汰様にエスコートいただこうかしら?」
……お化け屋敷に怖がってる人を助ける時、エスコートなんて言うのかな?
恥ずかしそうにしてる瑠音さんには悪いけど、最初に浮かんだのがそんな疑問で、僕はきょとんとしてしまう。
「ま、まあ、僕でよければ」
「じゃ、じゃあ俺の時も頼むからな! 絶対だぞ!」
「う、うん。わかったよ」
急に食い気味になった喜世さん。普段は頼りがいがある印象の彼女だけに、この反応は予想外かも。
唯一不満気なのは無言の千麻さん。
でも、彼女もさっきの話を聞く限り僕寄りだし、流石に僕がフォローまでしなくても大丈夫だと思う。
「あ! あそこにブランコあるじゃーん! 前の場所になかったからなくなっちゃたのかと思った」
と。突然前方を指差した沙和さん。
確かにその先には、ブランコや砂場、滑り台なんかがある。
「ね、ね。少し乗ってもいーい?」
「まあ、俺は構わないぜ」
「そうね。別にそれくらいは良いのではなくて?」
「私も構いませんが。優汰君は?」
「うん。いいよ」
「やったっ!」
目を爛々と輝かせた沙和さんは、僕達の返事を聞いて一目散にブランコに駆け寄ると、座板の砂を軽く払いそこに腰を下ろした。
そのまま足を使ってブランコに座ったまま後ろにずれると。
「せーのっ!」
掛け声とともに足を地面から離し前に伸ばした。
重力に導かれ、振り子のように揺れ始めるブランコ。沙和さんはタイミングに合わせ足を揺らし、反動をつけていく。
「やっぱブランコってきっもちいいー!」
楽しげにそう言う沙和さんは童心に戻ったかのような笑顔を見せている。
でも、確かにあの風を切り揺れる感覚は子供ながらに気持ちいいって思った記憶がある。
「よっと」
僕達がブランコを囲う柵まで歩み寄ると、喜世さんがもうひとつあるブランコに立ったまま乗ると、そのまま全身を揺らし同じようにブランコを揺らしだした。
沙和さん以上に勢いのある振り子の動き。
「ほーんと。何時ぶりだろうな。ブランコに乗ったのなんてよ」
「小学生以来かなー? なーんか懐かしいねー」
「そうだな。靴飛ばしはいっつもお前との勝負だったよな」
「だよねー。ま、るとっちとちっちーは下手くそだったし」
互いにブランコに揺られながら、笑顔を交わす二人。
「仕方ありませんよ。運動では二人に敵いませんし」
「私は麗杜家を背負っておりますもの。品のない行動は慎んだだけですわ」
名指しされた二人も、そんな言葉を返しながらも何かを懐かしんでいるかのように微笑んでいる。
みんなはこっちに住んでるからこそ、小さい頃の思い出も色々あるんだよね。
自分には小さい頃から遊具を楽しんだような思い出はあまりなくて、みんなが少し羨ましくなる。
でも。夜薄暗い中で、四人が話してる姿もやっぱり絵になるなぁ。
やっぱりTOP4って美少女なんだなって再認識する。
「優くーん。そういえばさー。ひとつ聞きたい事があるんだけどー」
ん? 何だろう?
「どうしたの?」
「あのねー。今晩あーし達ってー、どこで寝ればいいの? 客間のベッドって広かったけど、あれだけじゃ寝床足りなそうじゃん。床に布団とか敷く感じ?」
沙和さんがブランコに揺られながらこっちに顔を向けてくる。
そういえば、場所はあるって事しか話してなかったっけ。
「ううん。客間のベッドはクイーンサイズだし、僕の部屋のベッドもダブルサイズはあるから、みんなにはそれぞれのベッドに分かれて寝てもらおうかなって」
「……えっ!?」
僕がそう答えた瞬間。
夜の公園に四人の驚きの声が重なった。




