第17話:残された時間
「確かにあーし、優くんと二人っきりになって、もっと仲良くなれたらなーって思ったりもしたよ? だけど、みんなが全然優くんのこと考えてくれないから、あーしだってがんばってるんじゃん!」
突然の言葉に、瑠音さん達が思わず顔を見合わせると、再び彼女の方を見る。
「い、いや。待てって。俺達はちゃんと考えてるだろ? だから俺達が不用意に動くのが危ねえって言って──」
「考えてない! みんなは優くんを守ることばっかり考えて、優くんの今と未来のこと、全然考えてない!」
え? 僕の今と未来?
そんな言葉で喜世さんの言葉を遮った沙和さんが、堪えられなかった涙をぽろぽろと流しながら、震え声で言葉を紡ぐ。
「あーし達はいいよ? TOP4なんて有名になっちゃったし、今まで彼ピもいなかった。でも、中学からずっとアオハルして、友達と楽しく過ごして、色々な学校生活を経験してんだから。でも、優くんは違うんだよ? ずっと、ずーっと独りで辛い学校生活を送って、高校に入っても友達らしい友達もいなくって。実質独りで学校生活をしてきただけ。そこにアオハルなんてなーんもないじゃん!」
「だ、だからこそ私達が、これから少しずつ状況を作って、色々と経験させようとしてるんじゃない」
「じゃー聞くけど、それは何時からなの?」
「え? 何時から、ですか?」
千麻さんの疑問の声に、沙和さんが強く頷いた。
「そ。優くんは何時になったら普通の友達みたいに一緒にいて、あーし達とアオハルできるわけ?」
「そ、それは私達との関係性が整ったら──」
「だからー! それは何時って言ってんの!」
さっきまでと立場が逆転したかのように、彼女の絶叫に言葉を失った三人。
涙を隠そうともせず、少し呼吸を粗くしたう沙和さんが腕でぐっと涙を拭う。
「優くんもあーし達も、もう高校二年生なんだよ? 時間かけたら掛けるだけ、高校生活でアオハルできる時間は減っちゃうんだよ!? それなのに、待たせてばっかりいたら、文化祭とか、体育祭とか、宿泊学習とか、色々なチャンスを逃しちゃうじゃん! あーしはそれが嫌だから、多少無茶してでも優くんと学校でも仲良くなろうって頑張ってんの! それなのに、みーんな優くんのことも考えないで、ただ無駄に時間を過ごさせようとして……そんなの可哀想じゃん……」
言いたい事を言い切ったからなのか。
沙和さんの声が小さくなり、気落ちした顔でうつむいてしまう。
その表情からすると、きっと喧嘩腰になって友達に言っちゃいけないことを言った。そんな罪悪感があるのかもしれない。
瑠音さん達は、未だ何も言えずに立ち尽くしている。
多分沙和さんの言った事を考えていなかったからなのか。
それとも、自分たちなりに考えていた感情を否定されたからなのか。
……どっちの感情も、ちゃんとわかってるわけじゃない。
だけど、ひとつだけ間違いないことがある。
「ごめん」
僕がキッチンからリビングの方に歩み出ると、四人の顔がこっちに向いた。
未だ泣き顔の沙和さん。瑠音さん達もどこか気まずそうな顔をしてる。
でも、みんながこんな顔をする必要なんてない。
だって、この問題の中心にいるのはみんなじゃない。僕なんだから。
「みんなが僕のことを一生懸命考えてくれた。だからみんなを困らせちゃってるよね」
「そんなことない! あーしは困ったんじゃないもん! 優くんに応えたいだけ!」
「でも、そのせいでみんなと気まずい関係になっちゃってる」
沙和さんの熱のこもった言葉に、僕は自嘲しながらそう返す。
「瑠音さん達はきっと、僕がみんなに妬まれるのを不安がったから今の決断をして。沙和さんは僕の学校生活のことを考えて今の決断をしてる。みんながそれぞれに僕のことを考えてくれてることは凄く嬉しいことだけど、同時に僕のことで喧嘩なんてしてほしくないんだ」
リビングの手前で歩みを止めた僕は、真剣な顔でまず瑠音さん達を見る。
「まず、沙和さんの言ってた通り、僕には学校生活を色々と経験したいって気持ちはあるし、確かに高校生活だってそんなに時間はないと思ってる。ただ、これに関しては僕自身がTOP4に興味を持ってもらえる何かでも見せないと、周囲の生徒は納得でないと思うんだ。なんであいつは急にTOP4に好かれてるんだって、気に入らない気持ちになる人もでてくるだろうし」
「ま、確かにな。だからこそ俺達も慎重になってたわけだしよ」
大きく頷く喜世さん。瑠音さんや千麻さんの表情からも納得が窺える。
「それで。そこは僕がもう少し覚悟を決めたら、大きなきっかけを作ろうと思ってる。だから、それまでちょっと待ってもらえないかな?」
「え? 優くん何か策があんの?」
ちょっと驚いた顔をする沙和さんに、僕は素直に首を横に振る。
「頭に案はあるんだけど、それが策なんていえるほどのものかはわからないんだよね。けど、何かするにしても僕が覚悟を決める時間がほしいから。できれば、中間テストが終わるまで待ってくれないかな。僕も頑張るから」
「……うん。優くんがそういうなら、あーしはおっけーだよ」
しっかり頷いてくれた沙和さんに微笑むと、僕は瑠音さん達に向き直った。
「あと、沙和さんが泊まるって話の件は、僕も悪かったと思う。彼女が困ってたって話もあったけど、一人暮らしの僕の家なら別々の部屋で寝ることもできるし、友達が困ってるなら見捨てたくない。そう思ってOKしたのは僕なんだ。だから、あんまり沙和さんを責めないでもらえるかな? 沙和さんが泊まるって言った中には、僕にアオハルを経験させたいって思いもあったはずだから」
僕がそう伝えると、瑠音さん達三人は互いに顔を見合わせる。
「……まあ、優汰様がそう言うなら、これ以上は言及しませんわ」
「そうですね。私達も強く言い過ぎましたし」
「そうだな。悪い。沙和」
喜世さんが沙和さんに歩み寄ると、すっとハンカチを差し出す。
受け取った沙和さんは、ちょっと笑顔を見せつつそれで涙を拭う。
「……ううん。あーしこそごめん。相談もなしに優くん家に押しかけたのはあーしだし。怒られても仕方ないもんねー。あと、みんなだって優くんの事考えてたのに。あんな酷いこと言って、ごめん」
涙を拭き終えた沙和さんが、真剣な顔をして頭を下げると、ふっと優しい顔をしたのは瑠音さんだった。
「ま、そこはお互い様ね。貴方がそこまで優汰様の事をちゃんと考えていたなんて、思ってもいなかったもの」
「そうですね。最初からそう話してくれていれば、私達も一緒に悩めましたのに」
「えへへっ。ごめーん。みんなは慎重派だってわかってたしー、あんま言っても仕方ないかなーって思って」
穏やかな普段通りの微笑みを向ける千麻さんに、沙和さんが苦笑いする。
それを見て肩を竦めた瑠音さんと、それを見てくすっと笑う千麻さん。
「まー、終わったことは仕方ねえ。けど、できれば何か行動する時は、俺達にも話せよな。流石に独りで抜け駆けして泊まりはなしだ。いくら優汰が優しくたってそれだけは譲れねえ」
「まー、本音を言えば残念だけどー、やっぱ流石にねー。優くん。振り回しちゃってごめんね」
てへっと笑う沙和さんだけど、やっぱりちょっと残念そうな空気は伝わってくる。
こんな提案をするのはどうなんだろう?
僕はふと数多に浮かんだ案について、口にすべきか考え込む。
……でも、やっぱり何も言わないで、行動しないんじゃ変われないもんね。
この先変わるんだったら、ちゃんとみんなと話していかないと。
僕は気持ちを切り替えると。
「えっと、その話なんだけど」
そう言葉を切り出したんだ。




