第15話:プレゼントの悩み
「ねぇ優くーん。ここに入れて?」
「え? で、でも、それは流石に……」
「いいからいいからー。ほらー」
「わ、わかったよ……」
根負けした僕は、沙和さんの言葉に従いゆっくりと棒を入れていく。
「そう。そこ。そのままゆっくり……あっ」
ちょっと驚いた彼女の声と共に、テレビの画面に映っていた棒をさしたパネルが青く光る。
これ、成功したってことかな?
そのまま眺めていると、画面に大きく『STAGE CLEAR』の文字が表示された。
「ほらほらー! あーしの言う通りだったじゃーん!」
並んでソファに座っているTシャツに短パン姿の沙和さんが、コントローラーをソファに置くと、胸を張りドヤ顔をする。
僕の予想では、今の棒はひとつ隣の穴に入れるんだと思ってたんだけど。やっぱり彼女ってゲーム慣れしてるのかも。
「ごめん。疑っちゃって」
「いいのいいのー。途中のスライドパズルは優くんいなかったら解けてなかったしー。お陰でスティッカーズを全クリできたし!」
隣でこうやって褒めてくれる沙和さんは、本当に社交性の塊だって改めてわかる。
今二人でやっていたのは、彼女が持ってきた初代ニャンテンドーチューイッチのゲーム、『いっしょにポンッとスティッカーズ』。
二人でも遊べるアクションパズルゲームだったんだけど、なんとか二人専用ステージをクリアしたかったんだって。
でも、お風呂を上がった後の沙和さんの格好も、ちょっと目のやり場に困る。
ショートパンツから生足が見えてるのもそうだけど、肩口が大きく空いたTシャツの下に、うっすらと黒い下着が透けてるのもそのひとつ。
流石にプライベートのことを聞くのはよくないかなって思って触れないようにしてるけど、普段も家でこんな感じなのかな?
だとしたら、お兄さんや家族も困りそうな気がするけど……。
「あれ? 優くん。何かあった?」
──あ、しまった!
Tシャツ姿を見ていた罪悪感から、僕は慌てて沙和さんに顔を向ける。
えっと、なんてごまかそう……そ、そうだ!
「あ、えっと。全然ゲームに関係ない話なんだけど。沙和さんって千麻さんの誕生日って知ってる?」
彼女に聞こうと思っていた質問を投げかけると、彼女はきょとんとする。
「え? もち知ってるけどー。優くんは知ってる?」
「うん。六月六日だって聞いたんだけど、合ってる?」
「合ってる合ってる!」
沙和さんがはっきりと正解だってわかる笑顔を見せた後、はたと何かに気づいたのか。ぽんっと手を叩く。
「あ、もしかしてー。あーしの誕生日も知りたい感じー?」
……うーん。
確かにみんなの誕生日を知っておきたいけど、今はそっちじゃない。
でも、話の流れもあるし、今のうちに聞いておこうかな。
「本題はそっちじゃないんだけど、沙和さん達の誕生日も教えてもらってもいい? 誕生日にお祝いできなかったら、なんか申し訳ないし」
「え? あーしの誕生日も祝ってくれるの?」
沙和さんが目をキラキラさせたけど……あれ? 友だちの誕生日って祝うものじゃないのかな?
今までそういうことをしたことがない人間が言うのもなんだけど。
「勿論、沙和さんの誕生日にも、何かお祝いしたいなって思ってるよ」
「ほんと! やっぴー! たーのーしーみーっ!」
彼女の満面の笑みを見せてくれるけど、それは逆に僕を不安にさせる。
だって、僕は未だにどう祝ったりすればいいかすらわかってないんだから。
「え、えっと。そんなに期待しないほうがいいよ。多分、がっかりさせちゃうかもしれないし」
「え? なんでー?」
「その、それが本題」
「本題?」
「うん」
不思議そうな顔をした沙和さんに、僕は頷いて見せる。
「千麻さんの誕生日もそうなんだけど。僕、みんなにどんなプレゼントをあげたらいいか、わかってなくって……」
「あー。そんなの簡単じゃーん」
え? 簡単?
さっきの沙和さんを真似るみたいに僕がきょとんとすると、彼女もまたドヤ顔を見せる。
「優くんがー、あーし達のためにーって、考えてくれたプレゼントを贈ればおっけーだよ」
「考えたプレゼント?」
「そ。できれば形に残る物がいいと思うけどー。ちっちーもきよっちもるとっちも、優くんが一生懸命考えてくれたプレゼントならー、手放しで喜ぶと思うよー。もちあーしもだけどっ」
沙和さんの言葉を聞いても、僕はどこか納得がいかなかった。
だって、みんなが気に入らない物とか興味ない物だったら、貰っても微妙な気持ちになったりしないかな?
僕が冴えない顔をしていると、沙和さんが僕の顔を覗き込んでくる。
「ちなみにー。優くんはあーし達からプレゼントを貰ったとしたら、どんな気持ちになる?」
「え?」
僕が沙和さんからプレゼントを貰えたら……。
「多分、凄く嬉しいかも。今回のお弁当だって、凄く嬉しかったし」
「ちなみにー、あーしのおにぎり貰ってどーだった?」
「うん。それも嬉しかったよ」
「でしょ? でもー、あーしは作りながら、微妙かもなーって思ってたよ?」
「え? そうなの?」
ちょっと驚いた僕に、彼女はちょっと苦笑すると、上を見ながら立てた人差し指を顎に当てる。
「そりゃーねー。きよっちとちっちーは料理めっちゃ得意だしー、るとっちはお抱えの料理人に作らせるから間違いないじゃん。あーしだけあんまし得意じゃない料理を作るわけだしー、寝坊しておにぎりで済ませちゃったわけだしさー。だからー、あーしは正直微妙って言われても仕方ないなーって思ってたの。でもー、優くんはそんなおにぎりでも嬉しかったんでしょ?」
「う、うん。嬉しかったよ」
「多分それと一緒。嫌いな人とか興味ない人から貰ったプレゼントだったら、あーしもちょっと微妙な顔するかもしんない。だけどー、優くんならぜーったいあーし達のこと一生懸命考えて選んでくれるじゃん。もー、その気持ちだけでめーっちゃ嬉しくなっちゃうわけ」
……あー。確かにそうかもしれない。
みんなが一生懸命だったからこそ、どのお弁当も楽しみだったし、もし口に合わない物だったとしても、絶対残さなかったと思う。
だって、それだけ頑張ってくれたってわかってるから。
「わかってくれた?」
「うん。ありがとう。頑張って自分で選んでみるね」
「うん! ちなみにー、あーしの誕生日はー──」
ピンポーン
嬉々とした表情で誕生日を教えてくれようとした瞬間、それに待ったを掛けるかのように、部屋にチャイムの音が響いたんだ。




