第13話:サプライズ
……え? え?
僕はその瞬間、混乱で固まっていた。
髪の毛を下ろした珍しい沙和さん。
バスタオルで覆われている場所以外、彼女の特徴でもある褐色の肌が露わになっている。
胸元とか太ももの辺りとか、かなり際どい感じで隠れてるけど──じゃない!
「どどど、どうしたの!?」
慌てて正面に向き直った僕。
って、鏡に沙和さんが写ってるじゃないか!
慌てて目を伏せた僕に、沙和さんの声が届く。
「今日、優くんが泊めてくれたお礼にー、お背中流そっかなーって」
「そ、そんなの気にしなくても──」
「あーしが気になるのっ。ね? いいっしょ? こーいうことくらいしかー、優くんの役に立てないしさー」
こういうことくらいしかって、料理作るの手伝ってくれてるし、なんならお弁当だって準備してくれたわけで。沙和さんがそこまで自分を卑下する必要はないと思う。
でも、僕もよく似たような気持ちになってたからわかる。
自分が駄目な人間だ、なんて思ってると、どうしてもこういうやれることで何とかお返ししたいって気持ちにもなるし。
正直すごく恥ずかしいけど、もしかしたら沙和さんも彼女なりに頑張ってくれてるのかも。だったら、気持ちを無駄にしちゃいけないかな、
で、でも……。ふと僕は、そのまま自分の下半身を見る。
さ、流石に何も隠すものがないのは良くないかも。
「え、えっと、わかったけど、バスタオルもらってもいいかな?」
「え? バスタオル?」
「う、うん。流石に僕も、下を隠す物が欲しいし……」
「あー。確かにそうだよねー。じゃ、これどーぞっ」
あ。もう気を利かせて持ってきてくれてるんだ。
「あ、ありがと」
さ、流石に彼女の姿を見るのは
目を閉じたまま、後ろを振り返り手だけ伸ばすと。
「優くーん。流石に人のこと見ないで物を受け取ろうとするの、よくなくなーい? 別にあーしと優くんの仲だしー。見られてもいいからこうやって顔を出してるから、安心してよー」
沙和さんが不満そうな声でそう言った。
僕にとっては刺激的すぎる格好。だけど、沙和さんはこうやって肌を露出するのを見られるの、そこまで恥ずかしくないのかな?
彼女がいいならいい……って、本当にそれでいいのかが不安だけど。確かに言われた通り、相手を見ずに物を受け取るのって、なんか礼儀に欠く行動だよね。
僕が恥ずかしがらなければいいだけ。
そう。恥ずかしがらなければいいだけ……。
「ご、ごめん」
心でそう念仏のように繰り返しながら、覚悟を決めて目を開けた瞬間、僕は目を丸くし固まった。
だって、立っていたのは、自分の体に巻いていたバスタオルを取った沙和さんだったんだから。
え? え? は、裸!? ──じゃ、ない?
バスタオルがなくなって見えた、彼女の姿。
よりはっきりとわかる大きな胸と、下半身の大事な所にあったのは、面積が少なめの豹柄の……水着?
でも、それ以外に彼女の体を隠す物は何もない。
スタイルのいい沙和さんのあられもない姿から目が離せなくなっていると。
「ゆ、優くん。流石にー、ガン見はちょーっち恥ずかしいかも。はい」
沙和さんがはにかみながら前屈みになり、僕にバスタオルを渡してくれた。
「ごごごご、ごめん!」
慌ててバスタオルを奪い取るように手にした僕は、再び彼女から顔を逸らすと下半身にタオルを被せ目を閉じる。
女子の水着姿を全く見たことがないわけじゃないけど、沙和さんの格好は流石にセクシー過ぎ。
しかも、最初は何も着てないんじゃないかって勘違いしちゃったし……。
バクバクと言う心臓。胸の上に右手を当てて、必死に心を落ち着けようとする。
「ね? ね? あーしの水着姿。どーよ?」
どこか楽しげに問いかけてくる沙和さん。
確かに、その姿はセクシーだったけど、すごく綺麗だったと思う。
ただ……。
「え、えっと……その、大胆、だなって……」
僕はちょっと気まずそうにそう口にした。
だって、可愛いと言うよりセクシーって強く感じちゃったけど、それが褒め言葉かもわからなかったから。
「だ、大胆、か。そ、そうだよねー」
僕の言葉を聞いて、沙和さんも歯切れ悪くそう口にする。
多分、これも褒め言葉じゃなかったからかな。
「まー、それは置いといてー、優くんのお背中洗っちゃいまーす!」
普段通りのようでいて、どこかぎこちなくそういった彼女。少しして、僕の背中にボディタオルが当たる感触がした。
僕の意思に関係なく上下するボディタオルの感触は、やっぱりちょっと違和感がある。
「どう? 強すぎーとかない?」
「う、うん。大丈夫だよ」
「おっけー」
僕の返事に、彼女はごしごしと背中や肩を洗ってくれる。
「ちなみにー、優くん、幻滅した?」
「え?」
手を止めずにそう問いかけられた瞬間、僕は思わず目を開け肩越しに沙和さんを見た。
だって、思った以上に元気のない声だったから。
実際、僕と目が合った彼女の顔は、少し気落ちしてるように見える。
「いや、その……あーしもさ。優くん喜んでくれるかなーって思って勝手にやったんだけど。だ、大胆なんて言われたから、その……はしたない子って、思われちゃったかなーって」
背中を洗っていた手が止まり、大きなため息を漏らす沙和さん。
「ごめんねー。普通の男子なら喜ぶかなーって思ってたけど、優くんはそうじゃないもんねー。あーしの体とか見たってー、嬉しくないもんね」
「え、えっと……」
嬉しいかどうか。それはちょっとなんとも言えなかったりする。
僕だって女子に興味がないわけじゃない。TOP4の四人を可愛いとか綺麗とか思うくらいだし。
ただ、その……学校の授業でこそ見なくはないけど、こんな感じでプライベートで露出度の高い水着姿を見る機会なんてないと思ってたから、完全に困惑が強いのは確か。
「その、ごめん。正直こういうことに慣れてないから。嬉しくないかって感情の前に、何でこんなことになってるんだろうって気持ちのほうが勝っちゃって」
「そうなの?」
「うん。だから、その……水着姿は刺激的だったけど、綺麗だなって思ったし。ただ、やっぱり恥ずかしいとも思っちゃって。だから、その、嫌じゃないんだけど。できれば、こういうのは聞いてから行動してくれたら、僕も気構えができてちゃんと答えられるかなかなって」
うまい言葉が思い浮かばず、僕がちょっと苦笑いすると。
「そっかー。ごめんねー。優くんを驚かそうって思ってたんだけど、逆に困らせちゃったね」
「ううん。こっちこそ、良い感想が言えなくってごめんね」
「いいのいいのー。綺麗って言ってもらえただけで、あーしも嬉しいしー」
沙和さんはやっと普段みたいな笑顔を見せてくれたんだ。




